著者
野間 俊司 伊東山 洋一 中村 智哉 市坪 明子 工藤 理沙 千代田 愛美 永田 英二 松崎 智範 河崎 和博
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B3O1084, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】脳卒中片麻痺が装具を装着する際、片手でベルトを角環に通す動作は意外と難しい。また、利き手が麻痺した症例なら更に装着は困難となる。そこで角環の上部に隙間を空け、ベルトを通しやすくし、かつ、抜けにくい機能を持ったリングを発案した(以下イージーリングと称する)。それを片麻痺の症例に用い、角環とイージーリングとの装着時間を各々測定し、イージーリングが装具装着を容易にさせるか見ると共に、装着を容易にする事はどのような効果が得られるのか考察する事が目的である。【方法】イージーリングの効果の実証には症例が普段使用している装具にて行った。まず、角環での装着時間を計測しその後、角環をイージーリングへ付替え装着時間を各々3回計測し平均をとった。また、計測は装具を装着し終えた時点から測定を始めベルトを通し終えるまでとした。有効性を見るにはウィルコクソンの符号付順位和検定を用いた。【説明と同意】症例は、右片麻痺25例、左片麻痺25例で内訳を以下に示す。 年齢:31歳~85歳(平均72.5±9.7歳)性:男性25例、女性25例 発症からの日数:28~1017日(平均179±188.6日) 全例シューホーンAFOを使用 下肢BRS:<&#8544;>:0例(0)<&#8545;>:15例(7)<&#8546;>:19例(10)<&#8547;>:14例(8)<&#8548;>:2例(0)<&#8549;>:0例(0)( )は健手麻痺 歩行能力:自立17例 監視14例 小介助7例 多介助12例 不能0例 前記の症例に対して既存の角環と新たに完成したイージーリングとで各々の装着時間を計測し、どちらが装着し易いか比較検討する事が目的である事を説明し、リングの付替えに同意を得た例を対象とした。また、高度の認知症や高次脳機能障害を持つ例は除外した。【結果】1 角環での装着時間は、左片麻痺では13.3~166.1秒(平均45.0±46.3秒)右片麻痺では、19.8~300.0秒(平均66.0±60.5秒)であった。イージーリングでの装着時間は、左片麻痺では7.8~140.1秒(平均32.2±37.6秒)右片麻痺では9.2~149.2秒(平均39.3±32.2秒)であった。装着時間では、イージーリングの方が、左片麻痺でー4.1~―36.2秒(平均-13.8±9.0秒)装着時間が短く、右片麻痺ではー5.6~―150.8秒(平均-26.7±30.3秒)装着時間が短縮し、右片麻痺の症例で効果が明らかであった。 2 有効性を見るのに統計を用い検討したところ、左片麻痺では全例イージーリングの有効性(P<0.01)が認められ、右片麻痺に於いてもイージーリングに有意な差が認められた。(P<0.01) 3 角環からイージーリングに付替える事は、全例で承諾を得ており測定終了後は、元の状態に戻す事を説明していたが角環に戻す例は1例もいなかった。【考察】今回、角環の上部に隙間の開いたイージーリングを新たに創作し、装具装着時間を計測したところ、全例で装具装着時間が短縮し角環に比べイージーリングの方が装着し易いという結果を得た。装着が容易になった理由は、差込みから折返しまでベルトを持ちかえる必要が無くなった事が大きい。また、これらの症例の中には装具を作成して以来、初めて自力でベルト装着できた症例も含まれており注目に値する。片麻痺患者にとって装具の選択は重要であり、装具の選択要因には安定性や歩容で決定される事が多い。しかし、これに加えて装具の装着能力をも考慮しなければならない。現在、医師や理学療法士が装具を処方する際は装具の機能性や歩容を優先する傾向にあるが、症例の立場に立って装着し易さといった面も視野に入れて、装具の処方がなされる機会が増える事を切望すると共にイージーリングが装具を処方する際の選択肢の一つになれればと思う。【理学療法学研究としての意義】どんなに優れた機能を持った装具でも、自力装着できなければ症例の持つ真の歩行能力を見落とす可能性がある。在宅療養になった際、特にこの点は重要で、自力装着できなければ裸足で歩く事になり、転倒のリスクが増す事となる。それに対して装具装着を容易にし、安定した歩行を獲得させる事は、転倒のリスクを減少させ、歩行能力の維持・拡大のみならず健康維持にもつながる。その事は、在宅療養を継続するのに重要な因子であり今回完成したイージーリングは在宅療養の継続に貢献できるものと考える。また、イージーリングは下肢装具以外にもコルセットや他の装具にも活用が期待でき、装着の煩わしさを軽減させるため、本人のみならず介護者にとっても利便性が広がる可能性を持つものと考える。
著者
市坪 明子 伊東山 洋一 伊東山 徹代 野間 俊司 中村 智哉 河上 紗智子 池田 美穂 千代田 愛美 永田 英二 松崎 智範 工藤 理沙
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.333, 2010 (Released:2011-01-15)

【目的】パーキンソン病に対する理学療法とし ては、転倒なき歩行能力の確保が重要であり、訓練プ ログラムとしては様々なものがあるが、明らかな効果 を示すものは少ない。そこで今回、歩行能力の維持・ 向上を目的に、腹臥位療法を取り入れたところ、歩行 のみならずADLも改善し、効果が得られたので若干 の考察を加えてここに報告する。【方法】 対象者はパーキンソン病と診断された男女10名、年 齢は平均67.7±9.15才、発症からの経過は平均45.7 ±18.7ヶ月である。Yahrのstageは_II_が2名、_III_が4 名、_IV_が4名である。そこでこれらの症例に対して腹 臥位を20分間とって貰い、その前後で10mタイム、 10m間の歩数、10m中のすくみ足の回数を測定すると ともに、ADLはFIMとYahrの分類を用いて評価した。 統計学的処理は、Wilcoxonの符号付順位和検定を用い て効果判定をした。有意水準は5%未満とした。尚、 本研究は症例に研究の意図を説明し、了承を得て実施 した。【結果】10mタイムは施行前34.0± 19.9秒、施行後25.0±11.5秒(p<0.05)。10m歩 数は施行前57.2±32.4歩、施行後43.0±23.9歩(p< 0.05)。10m中のすくみ足の回数は施行前3.2±1.4回、 施行後1.5±1.28回(p<0.05)。FIMの点数は施行前 58.2±19.3点、施行後65.9±17.1点(p<0.05)とな りYahrの評価では施行前3±0.67が施行後2.8±0.75 (p<0.05)となり、全ての項目に効果を示し、有意 差を認めた。【考察】パーキンソン病を有 する症例に対し、有働が提唱する腹臥位療法を取り入 れ、歩行改善を目標にプログラムを実施した。その結 果、歩行能力の改善のみならず、症例の中には一回の みの施行でADLが介助から監視レベルへと改善しYahr の重症度分類をも下げる程の効果を示した例もあっ た。その理由としては、腹臥位をとることで症例の持 つ自重により股関節ならびに脊柱がストレッチされ、 関節の可撓性の増大に繋がったからであろう。その事 で、姿勢アライメントならびに歩行時のダイナミック なバランスが改善され、パーキンソン病に特有のすく み足や突進現象の改善に効果を示したと考える。今回、 腹臥位療法の効果について確認できた事で、在宅や施 設でも簡単に出来る訓練法として更に推奨される訓 練法と考える。ただ、今回試行時間や持続性について は検討しておらず、今後とも研究を続けていきたい。 【まとめ】1.パーキンソン病を有する症例 に対して腹臥位療法を施行した。2.腹臥位療法 を行った前後で、歩行能力、ADLともに改善が見られ、 効果が確認できた。3.腹臥位療法の効果の持続 性や試行時間などは、今後検討が必要と考える。