著者
田原 典嗣
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.294, 2010 (Released:2011-01-15)

【はじめに】 近年、スポーツ選手の障害・パフォーマンスと股関節の関連性はよく討論の対象となっている。今回は、野球選手に障害がよく見られる肩関節と股関節との関連性を観察し、障害予防、パフォーマンス向上に繋げていくため若干の知見を得たのでここに報告する。 【対象及び方法】プロ独立リーグ・野球クラブチームに所属する選手10名、全右投げ、ポジション(投手4名、捕手2名、内野手3名、外野手3名、複数ポジション2名)24,6±3,6歳、身長176,6±10,5cm、体重74,8±14,2kg、野球歴14,5±3,5年 肩関節内・外旋可動域:肩関節90°外転および肘関節90°屈曲位(2nd plane)で測定 股関節内・外旋可動域:股・膝関節90°屈曲位にて測定 股割り:両下肢を対象者の身長半分に開き、骨盤後傾・腰椎の屈曲が入らない状態で、下降できるところまで降ろし、殿床間距離を測定 等速性筋力検査:BIO DEXにて肩関節内・外旋筋力180・240deg/secにて測定 上記の評価の値をそれぞれ比較、検討を行なった。【結果】・股割り数値が高い群は低い群に比べ、肩関節外旋可動域が高い値、内施が低い値、肩関節内・外旋筋力が高い値を示す傾向がみられた。・非投球側股関節内旋可動域が低い群は高い群に比べ、肩関節外旋筋力が低い値を示す傾向がみられた。【考察】今回股関節の評価の一つとして取り上げた股割りは、野球選手の股関節の総合的な柔軟性を評価するため、よく臨床の場で用いられ、理想の殿床間距離は約20cm未満といわれる。この股割りは、投球の非投球側下肢接地時(foot plant)に必要な可動域で、この数値が高いと下半身から上半身への運動連鎖がうまく行なわれず、上肢に負担がかかる結果となる。いわゆる「体の開き」「ためが無い」「肘下がり」などの悪循環にもつながる。今回の研究でも、股割りが高い群において、肩関節外旋可動域の拡大、内旋の低下、投球側肩関節の内・外旋筋力増大などの傾向が見られた。もう一つ注目した股関節評価として、股・膝関節90°屈曲位による非投球側股関節内旋可動域である。宮下らによると投球のフォロースルー期では、股関節内旋可動域角度が最大60°要求されるという報告もある事から、この角度が減少しているとフォロースルー期の急激な減速エネルギーを股関節内旋・体幹の回旋運動によって全身で吸収することが出来ない。ゆえに、肩関節外旋筋群や三角筋後部線維、後方関節包などに過度な負担がかかり、肩関節外旋筋群の筋力低下、肩関節内旋可動域低下につながると考えられる。今回、非投球側股関節内旋可動域が低下している選手は肩関節外旋筋群の筋力低下傾向は認められたが、肩関節内旋可動域低下は認められていない。今後は、等速性運動における肩関節内外旋筋力比と股関節の関連性、プロ野球選手と高校球児の身体的傾向の違いなどについても着目しながら、今回傾向が示唆された事を明確化させ、障害予防、パフォーマンス向上に繋げていきたい。
著者
古賀 崇之
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.33, 2010 (Released:2011-01-15)

【目的】 内側広筋は膝関節の保護や支持性,膝蓋骨の外側偏位を防止する役割があるとされている.しかし内側広筋は筋萎縮を生じやすく,回復しにくい筋といわれている.これに対し,大内転筋の筋活動を伴う股関節内転運動を行なうことで,内側広筋の筋活動を高めることができるとされている. そこで本研究では,スクワット動作においても大内転筋の筋活動を伴う股関節内転運動をすることで,内側広筋の筋活動を高めることができるかを検討することを目的とした.【方法】 対象者は健常男性7名とし,筋電図計はメデイエリアサポート社製のKm-818MTを使用した.測定肢は利き足とし,被験筋は内側広筋・外側広筋・大腿直筋・大内転筋の4つの筋とした.測定肢位は,スクワット肢位とし,この肢位を3秒間保つスクワット動作と,スクワット肢位にて両膝関節でボールを3秒間挟む動作(以下ボール動作)を行い,各動作の積分値を算出した.また徒手筋力検査の肢位にて各筋の最大随意収縮(以下MVC)の積分値を算出した.各筋のMVCの積分値を100%とし,各動作での各筋の積分値で除した%MVCを算出し,記録した.【結果】1.内側広筋と大内転筋の相関はr=0.45となり正の相関を示した.(p<0.05)2.内側広筋と大腿直筋の相関はr=0.05となりほとんど相関を示さなかった.(p<0.05)3.ボール動作における内側広筋の%MVCがスクワット動作より優位に高値を示した.(p<0.05)【考察】 内側広筋と大内転筋は正の相関を示し,大内転筋の筋活動が高まることで,内側広筋の筋活動が高まるということがわかった.河上らの報告によると内側広筋と大内転筋は筋連結をしている.そのため大内転筋が収縮することにより,内側広筋が伸張されることが考えられる.Edmanらの研究によると等尺性収縮中のカエルの筋線維に伸張を与え,その長さに保持すると,伸張前の張力より大きな張力が維持されることを示している.このことを「伸張による収縮増強効果」と呼んでいる. 以上のことより,大内転筋が収縮することで,筋連結により内側広筋は伸張され,内側広筋には「伸張による収縮増強効果」が生じた.この効果により内側広筋の筋活動が高まり,結果として内側広筋と大内転筋には正の相関を示したものと考えた. 河上らの報告による内側広筋と大腿直筋にも筋連結が見られる.しかし内側広筋と大腿直筋はほとんど相関を示さなかった.このことから,ただ筋連結をしているだけでは筋活動を高めることはできず,筋連結している筋同士の筋線維方向が一致していることが重要だと考えられる. 最後に,ボール動作における内側広筋の%MVCがスクワット動作より優位に高値を示したことから,立位動作においても大内転筋の筋活動を伴う股関節内転運動をすることで,内側広筋の筋活動を高めることが可能ということがわかった.
著者
深山 慶介 植野 拓 藤田 隆 大平 美咲 中司 貴大
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.165, 2010 (Released:2011-01-15)

【はじめに】腰痛には様々な要因があり、治療に難渋することは臨床でよくみられる。腰痛に関連するものの一つとして、骨盤の前後傾運動の報告はみられるが、骨盤の開閉に関する報告は少ない。今回は、骨盤の開閉の評価を行い腰痛との関連ついて検討したのでここに報告する。【対象】本研究に関する説明を行い、同意が得られた成人男女23名(男性9名 女性14名 平均年齢27歳±8歳)。【方法】骨盤の開閉の評価として、両上前腸骨棘間距離(以下両ASIS間距離)を後上腸骨棘間距離(以下両PSIS間距離)で割った比率を、骨盤の開閉比率とした。またその開閉比率を、立位で足部の内側を揃えた中間位(以下中間位)、踵を揃えてつま先を最大に開いた外旋位(以下外旋位)、つま先を揃えて踵を最大に開いた内旋位(以下内旋位)で、それぞれ求め、中間位と外旋位、中間位と内旋位の比較をt-検定により分析した(p<0.01)。 次に腰痛との関連について、腰痛の有無にて2群(腰痛有り14名、腰痛なし9名)に分け、骨盤中間位の開閉比率の比較をwilcoxon順位和検定により分析した(p<0.05)。【結果】 中間位の開閉比率の平均が2.17、外旋位が2.65、内旋位が1.8で、それぞれ中間位と外旋位、中間位と内旋位における骨盤の開閉比率において、有意に骨盤の開閉に差が見られた。次に腰痛の有無による2群間の開閉比率において、腰痛がある群の開閉比率の平均が2.35、腰痛がない群の開閉比率の平均が2.01で、腰痛がある人の開閉比率が腰痛がない人の開閉比率に比べ優位に高かった。【考察・まとめ】骨盤の開閉の動きは、仙腸関節により誘導される。動かない関節と言われている文献も少なくないが、今回の結果より、仙腸関節による骨盤の開閉の動きが認められたと考える。また、荷重伝達機能を持つ仙腸関節で結合されている骨盤は、様々な姿勢により影響を受ける事が予測される。今回、腰痛がある群が腰痛がない群に比べ、骨盤の開閉比率が優位に高かった事より、骨盤の開きが大きい人は腰痛になりやすいという傾向が示唆された。
著者
小松 鮎子 鶴崎 俊哉 上原 ひろの 西村 陽央 多門 大介
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.300, 2010 (Released:2011-01-15)

【目的】近年,四つ這いをしない子どもが増加しているとの指摘が多く聞かれる.そこで,「ハイハイをしない」というキーワードでインターネット検索をしてみると,Yahooで約257,000件,Googleでは約10,400,000件が該当した.これらの多くは母親による相談の書き込みと,それに対する医師をはじめとした医療従事者・保育関係者によるアドバイスであった.この背景には「ハイハイをしない」ということが異常・障害ではないかと懸念する気持ちや発達に対する不安感があると考えられる.しかし,実際にはそれらの子どもの多くは正常に発達していく.つまり,正常発達の流れの中でも「ハイハイをしない」ということは十分にあり得ると考えられる.そこで本研究では乳児の自然な四つ這い動作を観察し,四つ這い動作を通して獲得されると思われる体幹の使い方について,月齢,四つ這い実施期間との関連性を検討した. 【方法】対象は,長崎市内の子育て支援センターを利用している神経学的・整形外科的な問題がない乳児の中から,本研究に関する説明を行い保護者より同意の得られた12組(男児7名,女児5名)の母子を対象とした.そのうちデジタルビデオカメラの撮影中に四つ這い動作がみられた8ヶ月から1歳1ヶ月までの10名(男児7名,女児3名)の画像について,体幹の動きに注目して動作分析を行った.また,動作分析の結果を比較する指標として,事前に母親に対して月齢と四つ這い開始月齢に関するインタビューを行った. 【結果】四つ這い動作時の体幹では,胸腰椎移行部が前彎している乳児と腰部がフラットである乳児の2パターンに分けられたが月齢および四つ這い実施期間との明確な関連性はなかった.また,四つ這いで前進する際に,股関節を固定し骨盤を側方傾斜させることで下肢を振り出す,股関節の屈伸と連動して骨盤の側方傾斜が生じる,一足下肢を足底接地するために骨盤に回旋が生じるなどのパターンが見られたが,月齢・四つ這いの実施期間ととの明確な関連性は見られなかった. 【考察】今回の研究では,脊柱の弯曲や骨盤の運動についてパターン化することは出来たが,これらの出現順序について月齢,四つ這い実施期間ともに関連性を見いだすことが出来なかった.この原因として,四つ這い開始時期に関する定義が曖昧なため母親から正確な情報が得られなかった可能性や四つ這いの開始時期に幅があり四つ這い以外の動作の中で体幹の運動を獲得していた可能性が考えられた.今後,横断的な研究としては対象者数を増やす必要があるが,平行して縦断的な研究を実施することで四つ這い動作の経時的な変化および体幹機能の獲得過程を明確にする必要性がある.また,四つ這い動作を促進する生活環境や四つ這い実施が立位アライメント・歩行等に与える影響についても検討していきたい.
著者
壹岐 伸弥 宇都宮 裕葵 山崎 数馬 渡 裕一
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.36, 2010 (Released:2011-01-15)

【はじめに】 臨床において腰痛を訴える患者は多く、原因として椎間板性、椎間関節性、神経根性、筋・筋膜性、靭帯性などがある。治療には体幹の安定性と可動性が重要であるが、今回、健常者を対象に腰痛の有無による骨盤帯周囲の安定性と可動性の差について比較検討した。【対象】 対象は下肢・体幹に整形外科的疾患既往のない健常者30名(男性:19名、女性:11名)、平均年齢:24.6±3.7歳、平均身長:164.2±8.0cm、平均体重:54.7±9.2kgであった。今回の研究及び報告にあたり、対象者に対し目的・方法について十分な説明を行い、同意を得て実施した。【方法】 1)骨盤アライメント評価は上前腸骨棘より上後腸骨棘が2~3横指高いものを良群、それ以外を不良群とした(良群:16名、不良群:14名)。2)日常生活における腰痛の有無を腰痛有り群、腰痛無し群とした(有り群: 15人、無し群: 15人)。3) 指床間距離(以下FFD)は立位で体幹を前屈させ、上肢は下垂し、その時の指尖と床との距離を測定した。4)重心動揺は、前方を注視、端座位にて、インターリハ株式会社Zebris PDM-Sを用い、自然座位、右下肢挙上位、左下肢挙上位の3パターンにおいて30秒間測定。また、その間の重心点(center of pressure 以下COP)X軸、Y軸の平均値を求めた。5)データ処理は、腰痛あり-なし群間の1)、3)差、各群の4)についてMann-WhitneyのU検定とWilcoxonの符号付順位検定を用い有意水準は5%未満とした。【結果】 1)骨盤アライメントは腰痛あり群がなし群に対して有意にアライメントの不良が多かった。(p<0.05)。2)FFDは腰痛あり・なし群において有意差を認めなかった。3)腰痛あり群では自然座位より左右挙上位ともに有意に重心動揺が大きかった(p<0.05)。腰痛なし群では有意差を認めなかった。重心点は腰痛あり・なし群ともに自然座位、左右下肢挙上位において差を認めなかった。【考察】 結果より日常生活において腰痛の有る者、無い者と比較し、端坐位での片脚挙上時に重心点の左右差は認めないが、重心動揺は大きく、立位においては骨盤中間位より前傾または後傾位をとる傾向にあった。これら骨盤の前後傾では腰椎の過前弯や過後弯が生じ、腰椎部でのcoupling motionの運動性が増加すると言われている。このことより腰痛を生じる者においては、下部体幹筋群の協調した同時収縮が困難である事、後部靭帯系システムを効率よく利用できていない事、coupling motionの運動性増加が考えられ、日常生活において姿勢保持時や動作時に個々に要求される外力のレベルにうまく対応できず、動作遂行のために腰部の過剰な運動が強いられている事が腰痛の原因と考えられる。今回は、健常者を対象に行ったが、今後は実際の症例において検討し、体幹の安定性と可動性が腰痛に及ぼす影響について調査し、臨床での評価・治療に生かしていきたい。
著者
野中 信宏 貝田 英二 宮崎 洋一 山中 健生
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.212, 2010 (Released:2011-01-15)

【はじめに】 腱縫合術後早期運動療法の目的は腱縫合部の治癒を促し,腱性・関節性拘縮を予防することであり,順調であれば拘縮矯正訓練をほとんど必要としない.今回,手指伸筋腱Zone5での伸筋腱縫合術例に対してMP関節他動屈曲運動を含めた早期運動療法を試み,対照的な2例を経験したので報告する.【症例と術中所見】 本報告に承諾を得た症例1,2各40代,50代の男性で症例1は鋸にて右示指,2は鎌にて左中指のMP関節背側を受傷した.伸筋腱完全断裂にて同日津下法にmattress縫合を加えた腱縫合術を行った.【術後セラピィと経過】 両症例共に術直後から患側手挙上させ,術後2日時に手関節軽度背屈・損傷指伸展位でスプリントを作製し,運動時以外装着させた.術後3週間は1日1~2セット以下の運動をセラピスト管理下で行った.1他動伸展位を維持する程度の自動伸展運動,2PIP関節自他動屈曲運動,3MP関節他動内外転運動,4MP関節約60度他動屈曲運動.症例2は術後1週時に4の運動の際,遠位関節に腱固定効果が見られはじめ,またその運動に対する疼痛も出現し防御的に手関節・手指自動屈曲しようとする反応が出現したため,以降の運動はそれらが出現しないMP関節他動屈曲可動域約30度までに変更した.術後3週時から管理下以外で指自動伸展運動とPIP・DIP関節屈曲運動を許可した.症例2は浮腫の残存を認め,この時期よりPIP関節伸展不全が出現した.術後5週時から制限ないMP関節他動屈曲運動を開始した.術後6週時にスプリントを完全除去し,症例1は抵抗運動のみ禁止して治療終了し,症例2は残存した拘縮に対して術後12週時まで積極的な改善訓練を行った.【結果】 術後6週時%TAMは症例1は100%,2は60%であり,術後12週時に症例2は90%となった.【考察】 腱縫合術後の早期運動療法中,創傷治癒が成熟してくる術後10日前後から訓練間の安静時にできた極軽い腱癒着を臨床上良く経験する.ここで腱癒着を許すと術後3週以降の運動にて改善訓練が必要になる.症例1は伸筋腱癒着とMP関節伸展拘縮がほぼ発生せず,早期運動療法効果があった.一方症例2は早期運動中に腱癒着が予防できず伸展拘縮が発生したため,その改善訓練を必要とした.なおかつ最終的な成績は症例1より低かった.この両症例の差は4の運動継続の差にあったと思われる.その4の運動を症例2に控えた原因は,腱癒着による腱固定効果と運動時痛に対する防御的な反応の出現であり,再断裂の危険性を判断し変更した.また,症例2は浮腫消退が遅く,創周辺部も長らく肥厚しており,浮腫の残存が周辺組織の線維化を促進させ,より拘縮を発生させやすい環境下にあったと思われる.腱縫合術後の早期運動療法は継続し続けることで効果があるといえた.しかしながら,再断裂を最大限に回避することはいうまでもなく,今回症例2に控えた運動判断がどうであったか皆様の意見を頂戴したい.
著者
藤田 有加
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.275, 2010 (Released:2011-01-15)

【はじめに】高齢者に多くみられるアライメントの変化として、脊柱後弯姿勢(円背)が挙げられる。脊柱後弯姿勢とは、脊柱の矢状面の弯曲異常のことであり、主として胸椎部の後弯が増加したものを言う。曾田らは「円背を有する80歳以上の高齢者では%肺活量と最大吸気筋力が低下する」とし、脊柱後弯姿勢と呼吸機能の関係性について述べている。このことから、脊柱後弯姿勢から脊柱を伸展させ、姿勢を変化させると、呼吸機能にも変化が出ると予想される。しかし、姿勢の変化と呼吸機能の関連性について調べた報告はみられていない。そこで本研究は、座位姿勢における脊柱後弯姿勢を伸展方向に矯正した時の呼吸機能の変化を調査し、姿勢の変化が呼吸機能に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。【対象】年齢65歳以上の高齢者女性30名を対象とした。なお、被検者には研究の目的と方法を十分に説明し、同意を得た上で研究を開始した。【方法】安楽座位と努力伸展座位の2つの姿勢で、円背指数・胸郭拡張度・肺活量の測定を行った。脊柱後弯の程度を評価するために、形を自在に変形できる自在曲線定規を用いて円背指数の測定を行った。座位にてC7からL4までの脊柱後弯に沿って棘突起に定規を合わせた後、紙上にトレースした。弯曲のC7とL4を結ぶ直線距離をLcm、直線Lから弯曲の頂点までの距離をHcmとし、その割合を円背指数(H/L×100)として算出した。胸郭拡張度は腋窩部、剣状突起部第10肋骨部を測定した。肺活量の測定はフクダ電子株式会社製、電子スパイロメーターを用いた。統計処理として、対応のあるt検定を用いて、安楽座位と努力伸展座位での円背指数と肺活量を比較し、さらに円背指数と肺活量のそれぞれの変化率の相関をピアソンの相関係数を用いて行った。【結果】円背指数,肺活量ともに努力伸展座位において有意差がみられた(p<0.01)。また、安静座位から姿勢を矯正したときの円背指数の変化率と肺活量の変化率の間に相関が認められた(r=0.58、p<0.0001)。胸郭拡張度は剣状突起部のみ努力伸展座位で有意差がみられた。【考察】本研究の結果から脊柱後弯姿勢を有していても、脊柱を伸展させ、姿勢を変化させることができれば、呼吸機能は改善できることが示唆された。さらに姿勢の変化が大きいほど、呼吸機能の改善も大きくなるといえる。これは、体幹のアライメント不良が一時的でも改善された事で、胸郭で押しつぶされていた横隔膜が働きやすい状態になったと考えられる。また、短縮していた腹筋群の筋長が延長し、収縮が得られやすくなったためであると考えられる。今後は,この脊柱を伸展させた姿勢を日常生活の中でも持続できるよう、アプローチしていく必要があると考える。
著者
松岡 太志 宮崎 一臣
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.374, 2010 (Released:2011-01-15)

【はじめに】 脊椎圧迫骨折の保存療法には,体幹ギプス固定と半硬性コルセットによる固定がある.当院でもこの2種類の治療法を行っている.体幹ギプス固定は入院後ギプスにて体幹を固定し,3週から4週間の固定の後,軟性コルセットを作成し治療を継続する.半硬性コルセットによる固定は,入院後すぐにコルセットを作製し,治療を行う.どちらの治療法も,早期に患部を固定し,後療法へ移れるために,有効な治療法であると言える. しかし,どちらの治療法がより有効であるかを示した研究は少ない.そこで本研究は,脊椎圧迫骨折患者の保存療法において,どちらがより有効な治療法であるのかを調査することとする.【目的】 体幹ギプス固定と半硬性コルセットによる固定との治療成績に差があるか否か,を調査・検討することである.【対象】 平成18年6月から平成21年6月までに当院回復期病棟に入院し退院した脊椎圧迫骨折の患者143例を対象とした.内訳は男性32例,女性111例で,平均年齢は79.8±8.3歳.在院日数は56.9±21.4日であった.治療法については,体幹ギプス固定44例,半硬性コルセットによる固定99例であった. また,今回は脊椎圧迫骨折のみによる入院患者で,受傷後すぐに来院若しくは救急病院を受診し,治療を開始できた患者を対象とし,他の骨折などの合併症を有する患者,指示入力が困難であるような重篤な認知症である患者は除外した.【評価及び方法】 評価項目として,在院日数,痛み,退院時のADL能力,受傷後8週経過時点で,骨癒合していないものを遷延治癒とし,その有無を挙げた.痛みについてはVAS,ADL能力についてはFIMにて評価した.以上の項目を評価し,体幹ギプス群と半硬性コルセット群の2群間に分け比較した.【結果】 在院日数は体幹ギプス群55.1±22.6日,半硬性コルセット群57.8±20.9日であり有意差を認めなかった.退院時のADL能力については,FIMにて体幹ギプス群117.1±7.0点,半硬性コルセット群112.0±14.4点であり,有意差を認めなかった(運動項目・認知項目共に有意差なし).痛みについても,有意差を認めなかった.遷延治癒に関しては、体幹ギプス群4例,半硬性コルセット群8例で有意差を認めなかった.【考察】 今回の結果より,体幹ギプスと半硬性コルセットの治療成績に差がないことがわかった. 体幹ギプスに関しては,強固に固定できるが,固定期間中取り外しができないため,患者のストレスが強く,ADLの中でも清拭等制限されるものが多い.一方半硬性コルセットは,取り外しができ,ADL上の制限も少なく,患者のストレスは体幹ギプスに比べると少ないのではないかと考える.治療成績に差がなければ,患者のストレスが少ないほうがより良いのではないかと考える.しかし,装着率の問題は否定できず, 今後の研究の課題となる.【まとめ】 脊椎圧迫骨折の保存療法において,体幹ギプス固定と半硬性コルセットによる固定との治療成績に差はない.
著者
鶴田 崇 渡辺 裕介 湯朝 友基 張 敬範 江本 玄 緑川 孝二
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.201, 2010 (Released:2011-01-15)

【はじめに】 当院における投球障害肘に対する理学評価は、肘関節・下肢・体幹も含めた全身は勿論のこと、肩関節の評価として原の11項目も利用している。原の11項目における肩甲上腕関節の柔軟性を評価するCombined Abduction Test(以下CAT)・Horizontal Flexion Test(以下HFT)は、肩甲骨を徒手的に固定して上肢を外転や水平屈曲させ、その角度を計測する方法で左右差を調べるが、陽性と陰性を判断する角度基準が明確でない。そこで今回、投球障害肘に対するCAT・HFTの初回の陽性角度と陰性に改善した角度を計測し比較検討した。【対象】 野球部に所属し、投球障害肘を持つ男性30例、全例投球側。平均年齢は12,7±1,7歳(10~17歳)。なお、対象者には本研究の目的を十分に説明し同意を得た。【方法】 投球禁止・投球開始・試合復帰時期、初回の陽性時の角度と陰性に改善した時のCAT・HFTをそれぞれゴニオメーターで計測し比較した。陽性と陰性の判断基準は原に準じ、CATにおいては上腕部が側頭に近づくと正常で、近づかなければ異常、HFTは手指が反対側の床に着くと正常、床に着かない場合は異常と判断した。また、投球禁止~投球開始までの期間、投球開始~試合復帰までの期間を計測した。【結果】 投球禁止宣告時の平均CATは103,5°±6,3(29/30例陽性)、HFTは88,7°±3,0(30/30例陽性)。投球開始許可時の平均CATは129.5°±1,3(1/30例陽性)、HFTは106,5°±5,6(10/30例陽性)。試合復帰許可時の平均CATは128,3°±3,1(2/30例陽性)、HFTは105,3°±6,2(11/30例陽性)。初診時のCAT陽性平均角度は103,3±6,3、陰性改善時は130°±0。初診時のHFT陽性平均角度は89.5°±1,8、陰性改善時は110,5°±0,9。 投球禁止~投球開始までの平均期間は28,2±10,7日、投球開始~試合復帰までの平均期間は54,9±20,4日。【考察】 投球障害肘を評価する上で、肘関節よりも中枢部である肩関節・体幹を評価することは必須である。それ故に、投球障害肘を治療する際、原の11項目に含まれているCAT・HFTは肩甲上腕関節の柔軟性を的確に診る上で非常に重要である。しかし、患者の理解力や治療における目標設定が曖昧であり、双方とも陽性・陰性の判断角度が明確ではない。 今回の研究によって、目標角度がCATはおおよそ130°、HFTはおおよそ110°と明確になることで、具体的な数値として表現されれば、患者と治療側の間で問題点や治療選択が共有でき、自己認識が高まると思われる。
著者
市坪 明子 伊東山 洋一 伊東山 徹代 野間 俊司 中村 智哉 河上 紗智子 池田 美穂 千代田 愛美 永田 英二 松崎 智範 工藤 理沙
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.333, 2010 (Released:2011-01-15)

【目的】パーキンソン病に対する理学療法とし ては、転倒なき歩行能力の確保が重要であり、訓練プ ログラムとしては様々なものがあるが、明らかな効果 を示すものは少ない。そこで今回、歩行能力の維持・ 向上を目的に、腹臥位療法を取り入れたところ、歩行 のみならずADLも改善し、効果が得られたので若干 の考察を加えてここに報告する。【方法】 対象者はパーキンソン病と診断された男女10名、年 齢は平均67.7±9.15才、発症からの経過は平均45.7 ±18.7ヶ月である。Yahrのstageは_II_が2名、_III_が4 名、_IV_が4名である。そこでこれらの症例に対して腹 臥位を20分間とって貰い、その前後で10mタイム、 10m間の歩数、10m中のすくみ足の回数を測定すると ともに、ADLはFIMとYahrの分類を用いて評価した。 統計学的処理は、Wilcoxonの符号付順位和検定を用い て効果判定をした。有意水準は5%未満とした。尚、 本研究は症例に研究の意図を説明し、了承を得て実施 した。【結果】10mタイムは施行前34.0± 19.9秒、施行後25.0±11.5秒(p<0.05)。10m歩 数は施行前57.2±32.4歩、施行後43.0±23.9歩(p< 0.05)。10m中のすくみ足の回数は施行前3.2±1.4回、 施行後1.5±1.28回(p<0.05)。FIMの点数は施行前 58.2±19.3点、施行後65.9±17.1点(p<0.05)とな りYahrの評価では施行前3±0.67が施行後2.8±0.75 (p<0.05)となり、全ての項目に効果を示し、有意 差を認めた。【考察】パーキンソン病を有 する症例に対し、有働が提唱する腹臥位療法を取り入 れ、歩行改善を目標にプログラムを実施した。その結 果、歩行能力の改善のみならず、症例の中には一回の みの施行でADLが介助から監視レベルへと改善しYahr の重症度分類をも下げる程の効果を示した例もあっ た。その理由としては、腹臥位をとることで症例の持 つ自重により股関節ならびに脊柱がストレッチされ、 関節の可撓性の増大に繋がったからであろう。その事 で、姿勢アライメントならびに歩行時のダイナミック なバランスが改善され、パーキンソン病に特有のすく み足や突進現象の改善に効果を示したと考える。今回、 腹臥位療法の効果について確認できた事で、在宅や施 設でも簡単に出来る訓練法として更に推奨される訓 練法と考える。ただ、今回試行時間や持続性について は検討しておらず、今後とも研究を続けていきたい。 【まとめ】1.パーキンソン病を有する症例 に対して腹臥位療法を施行した。2.腹臥位療法 を行った前後で、歩行能力、ADLともに改善が見られ、 効果が確認できた。3.腹臥位療法の効果の持続 性や試行時間などは、今後検討が必要と考える。