著者
秋山 伸一 PIRKER Rober MIYAZONO Koh HELDIN Carlー 原口 みさ子 住澤 知之 吉村 昭彦 HELDIN Carl-henrich CARL Heldin
出版者
鹿児島大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1993

1.チミジンホスホリラーゼが血管新生因子であるPD-ECGFと同一分子であることを明らかにし、さらにチミジンホスホリラーゼ阻害剤である6-アミノ-5-クロロウラシルがチミジンホスホリラーゼによる血管新生を阻害することをゼラチンスポンジアッセイにより明らかにした。この実験結果は非常に大きな意味を持つため、大腸菌のチミジンホスホリラーゼ酵素活性中心部位と相同性を有するPD-ECGFの部位にsite directed mutagenesisにより突然変異を入れ、チミジンホスホリラーゼ活性のない3種類のPD-ECGF分子を作製した(K115E,Lys115→Glu;L148R,Leu148→Arg;R202S,Arg202→Ser)。突然変異を有するPD-ECGFcDNAをCOS細胞にトランスフェクトして、発現レベルを調べると、wild typeのPD-ECGFと同程度発現がみられたが、チミジンホスホリラーゼ活性はほとんど認められなかった。ゼラチンスポンジ法により、これらのPD-ECGFの血管新生を調べたところ、突然変異PD-ECGFはいずれも血管新生活性を有していなかった。チミジンホスホリラーゼ阻害剤がチミジンホスホリラーゼの血管新生活性を阻害することと考えあわせると、チミジンホスホリラーゼの酵素活性が同酵素による血管新生に必須であることが明らかとなった。そこで、同酵素によるチミジンの分解産物が血管新生活性を有しているのではないかと考え調べたところ、デオキシリボースが血管新生活性を持つことが鶏卵漿尿膜法で判明した。また、デオキシリボースは血管内皮細胞の遊走性を亢進した。チミジンホスホリラーゼには、内皮細胞の増殖を促進する作用はなかったが、チミジンを分解してチミジンの組織内濃度を低下させ、血管内皮細胞の増殖のために有利な条件を作り出している可能性がある。このように、チミジンホスホリラーゼの酵素活性が血管新生に必要であることが明らかになると、その酵素活性の強力な阻害剤はチミジンホスホリラーゼによる血管新生を阻害し、その結果として腫瘍の増殖を抑制するのではないかと考えられる。我々は、6-アミノ-5-クロロウラシルよりもさらに強力なチミジンホスホリラーゼ阻害剤を見出し、この阻害剤が腫瘍の増殖や転移にどのような影響を与えるのか検討中である。2.ヒトの固型腫瘍では、チミジンホスホリラーゼ活性がしばしば上昇している。固型腫瘍におけるチミジンホスホリラーゼ活性と血管新生の関連性を調べるため、ヒト大腸癌21症例、アデノーマ13例について、チミジンホスホリラーゼ活性と血管内皮細胞のマーカー蛋白質であるトロンボモジュリンの発現レベルを調べ相関性を検討した。その結果、大腸癌でのチミジンホスホリラーゼ活性とトロンボモジュリンの発現レベルの間には相関性のあることが判明した。このことは、大腸癌においてチミジンホスホリラーゼが血管新生に関与している可能性を示唆している。我々はさらに大腸癌におけるチミジンホスホリラーゼの発現と予後との関係を調べた。チミジンホスホリラーゼを発現している大腸癌の症例は、発現していない症例に比べ予後が悪いことが明らかとなった。またチミジンホスホリラーゼ陽性の大腸癌では、リンパ節へ転移する頻度が高いことがわかった。チミジンホスホリラーゼの単クローン抗体を用いた免疫組織化学染色法にり、大腸癌やその他の固型腫瘍内では癌細胞のみならず浸潤したリンパ球もチミジンホスホリラーゼによる血管新生に関与している可能性が示された。血管新生因子はチミジンホスホリラーゼ以外にもVEGF,bFGFなどがあり、個々の腫瘍でどの血管新生因子が腫瘍血管の新生に関与しているかを調べる必要がある。我々はVEGF、bFGFなどについてもそれらの発現レベルを各々の腫瘍で調べ、血管新生との関連性について解析を進めている。
著者
秋山 伸一 原口 みさ子 古川 龍彦
出版者
鹿児島大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

MRPがグルタチオン抱合体排出ポンプとして機能していることを示唆する報告がなされた。MRPの発現している多剤耐性変異株C-A120からmembrane vesicleを調製し、ロイコトリエンC_4(LTC_4)の取り込みを調べたところ、ATP依存性にLTC_4を輸送することが判明した。LTC_4に対するKm値は1,55μM、ATPに対するKm値は80μMであった。LTC_4の取り込みはジニトロフェノールやシスプラチンのグルタチオン抱合体で阻害された。これらの結果から、C-A120細胞で発現しているMRPがグルタチオン抱合体を輸送することが明らかとなった。そこでブチオンスルホキシミン(BSO)により細胞内のグルタチオン(GSH)レベルを低下させることによりC-A120細胞の薬剤耐性を克服できるかを調べたところ、100μMのBSOはC-A120細胞のビンクリスチン(VCR)に対する耐性を完全に克服した。BSOはC-A120細胞のGSHレベルを親株KB-3-1細胞でのGSHレベルに低下させ、C-A120細胞内へのVCRの蓄積も上昇させた。つぎにP-糖蛋白質の関与した多剤耐性を克服する薬剤(ベラパミール、セファランチン、PAK-104P)がMRPの関与した多剤耐性を克服するかを検討した。ピリジン誘導体PAK-104PのみがC-A120細胞のVCRに対する耐性を完全に克服した。PAK-104PはC-A120細胞へのVCRの蓄積を増加させ、C-A120membrane vesicleへのLTC4の取り込みを阻害した。VCRのグルタチオン抱合体はまだ確認されていないが、VCRがグルタチオン抱合されMRPにより細胞外へ排出されることを示唆している。また、PAK-104PはP-糖蛋白質とMRPを同時に発現した多剤耐性腫瘍の耐性克服に有用と考えられた。腫瘍でのMRPの発現を調べたところ、肺扁平上皮癌で高い発現が認められた。胃癌や大腸癌では肺扁平上皮癌でみられたような高いMRPの発現を示すものはなかった。肺扁平上皮癌の一部では、少なくとも部分的にMRPが抗がん剤耐性に関与しているのではないかと考えられた。