著者
古川 龍彦 秋山 伸一 住澤 知之
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

2デオキシ-D-リボースはチミジンホスホリラーゼ(TP)によるチミジンの代謝物の一つである。これまで我々は2デオキシ-D-リボースが血管新生活性を持っていることを見いだしてきた。初年度までに、2デオキシ-D-リボースの光学異性体である2デオキシ-L-リボースを作用させると、TPあるいは2デオキシ-D-リボースがもつin vitroの血管内皮細胞の管腔形成の促進、牛大動脈内皮細胞の遊走能の亢進、血管新生活性の作用を抑制することを見いだして、今年度はさらにTP強制発現ヒト癌細胞を移植したヌードマウスにデオキシ-L-リボースを経口投与して、対照群に比べて有為に腫瘍の増殖を抑制すること、また、脾静脈からTP強制発現ヒト癌細胞を肝転移させる転移実験モデルで転移病巣を有為に低下させることを明らかにした。これらのことから2デオキシ-D-リボースの構造を認識する分子を介して、多彩な機能を発揮させていることがさらに裏付けられた。また、2デオキシ-L-リボースが持つTPの生物活性を抑制作用を利用して新たな抗腫瘍薬剤として用いることができる可能性が示された。TPの発現細胞において低酸素に対して抵抗性であることを見いだしていたがさらに詳細に検討した。デオキシ-D-リボースを加えることで低酸素下でのHIF1αの安定化されるが妨げられること,p38MAPキナーゼの活性化が抑制されることを見いだした。現在、デオキシ-D-リボースが直接に作用する分子が何かを検討中である。TPのノックアウトマウス(TPKO)とTP/UP(ウリジンホスホリラーゼ)ダブルノックアウトマウス(TP/UPKO)を作成した。これらのマウスは雌雄とも妊娠可能で、形態的異常、体重減少などは見られない。TPKOにおいては肝臓でのみTP活性が失われていた。UPKOにおいては肝臓以外のすべての組織でTP活性が欠失していたTP/UPKOマウスでは各臓器ともTP活性が検出されなかった。血中のチミジン濃度は野性型と比較しTPKOは約2倍、TP/UPKOは約5倍であった。1999年にNishinoらはTPがヒトの神経筋疾患であるMNGE(Mitochondrial NeurogastroIntestinal Encephalomyopathy)の原因遺伝子であると報告した。10ヶ月齢の野性型マウスとTP/UPKOの骨格筋ではMNGIEに特徴的所見られなかったが、脳ではTP/UPKOにMRIのT2強調画像で高いシグナルが認められ、また、電顕写真での変化を見いだしており、TP/UPKOはTPの生理的役割の解析とともに、白質脳症のモデルマウスとして病因の解析に有用である可能性がある。
著者
秋山 伸一 原口 みさ子 古川 龍彦
出版者
鹿児島大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

MRPがグルタチオン抱合体排出ポンプとして機能していることを示唆する報告がなされた。MRPの発現している多剤耐性変異株C-A120からmembrane vesicleを調製し、ロイコトリエンC_4(LTC_4)の取り込みを調べたところ、ATP依存性にLTC_4を輸送することが判明した。LTC_4に対するKm値は1,55μM、ATPに対するKm値は80μMであった。LTC_4の取り込みはジニトロフェノールやシスプラチンのグルタチオン抱合体で阻害された。これらの結果から、C-A120細胞で発現しているMRPがグルタチオン抱合体を輸送することが明らかとなった。そこでブチオンスルホキシミン(BSO)により細胞内のグルタチオン(GSH)レベルを低下させることによりC-A120細胞の薬剤耐性を克服できるかを調べたところ、100μMのBSOはC-A120細胞のビンクリスチン(VCR)に対する耐性を完全に克服した。BSOはC-A120細胞のGSHレベルを親株KB-3-1細胞でのGSHレベルに低下させ、C-A120細胞内へのVCRの蓄積も上昇させた。つぎにP-糖蛋白質の関与した多剤耐性を克服する薬剤(ベラパミール、セファランチン、PAK-104P)がMRPの関与した多剤耐性を克服するかを検討した。ピリジン誘導体PAK-104PのみがC-A120細胞のVCRに対する耐性を完全に克服した。PAK-104PはC-A120細胞へのVCRの蓄積を増加させ、C-A120membrane vesicleへのLTC4の取り込みを阻害した。VCRのグルタチオン抱合体はまだ確認されていないが、VCRがグルタチオン抱合されMRPにより細胞外へ排出されることを示唆している。また、PAK-104PはP-糖蛋白質とMRPを同時に発現した多剤耐性腫瘍の耐性克服に有用と考えられた。腫瘍でのMRPの発現を調べたところ、肺扁平上皮癌で高い発現が認められた。胃癌や大腸癌では肺扁平上皮癌でみられたような高いMRPの発現を示すものはなかった。肺扁平上皮癌の一部では、少なくとも部分的にMRPが抗がん剤耐性に関与しているのではないかと考えられた。