著者
原田 拓真 猪島 綾子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.152, no.6, pp.306-318, 2018 (Released:2018-12-08)
参考文献数
19
被引用文献数
1 1

パルボシクリブは世界で最初のサイクリン依存性キナーゼ(CDK)4および6阻害薬であり,CDK4または6とサイクリンDから成る複合体の活性を阻害することで細胞周期の進行を停止させ,腫瘍の増殖を抑制すると考えられる.非臨床モデルを用いた検討でパルボシクリブに感受性を示す細胞株の多くがエストロゲン受容体(ER)陽性であることが確認され,パルボシクリブが抗腫瘍効果を示すには網膜芽細胞腫タンパク質(Rb)の発現が必要であることが確認された.また,ER陽性ヒト乳がん細胞株を用いた試験から,抗エストロゲン薬との併用投与による抗腫瘍作用の増強が確認された.これらの非臨床試験データに基づき,ホルモン受容体陽性・ヒト上皮増殖因子受容体2陰性(HR+/HER2-)の進行・再発乳がんに対し抗エストロゲン薬との併用を行う臨床試験を行った.進行乳がんに対する全身抗がん療法歴のないER+/HER2-の閉経後進行乳がん女性患者を対象としてパルボシクリブ+レトロゾール併用投与の効果をレトロゾール単独投与と比較したPALOMA-2試験では,パルボシクリブ併用投与群で主要評価項目である無増悪生存期間(progression-free survival:PFS)の有意な延長が認められた.抗エストロゲン薬を用いた内分泌療法に抵抗性を示したHR+/HER2-の進行乳がん女性患者を対象とし,パルボシクリブ+フルベストラント併用投与の効果をフルベストラント単独投与と比較したPALOMA-3試験では,中間解析において主要評価項目であるPFSに統計学的に有意な延長が認められたため,試験は有効中止となった.また,これらいずれの試験でも,パルボシクリブ投与群において有害事象による減量または休薬の割合は高かったものの,投与中止の割合はプラセボ投与群と大きく変わるものではなかった.
著者
原田 拓真
出版者
獣医循環器研究会
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.61-66, 2018 (Released:2019-06-10)

薬物誘発性のTorsades de Pointes(TdP)は致死性の多形性心室頻拍であり,1990年代から2000年代に多数報告がなされ,医薬品市場から撤退あるいは開発のハードルとなってきた。この状況に対応すべく,各国の医薬品規制当局と製薬業界で構成される医薬品規制調和国際会議(International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use; ICH)では,QT間隔の延長をTdPの代替マーカーとして評価するための手法をガイドライン化し,非臨床試験評価法として浸透してきた。その後,一つのチャネル評価のみではイオンチャネルの総和としての催不整脈作用を評価しきれておらず,また,QT間隔の延長評価では催不整脈作用が直接評価されていないために,有望な医薬品候補化合物がドロップアウトするという弊害も明らかになってきた。そこで,近年,in vivo試験およびin silico(コンピュータを用いた予測)などを用いた新たな評価系が模索されつつある。本稿では,現在の薬物誘発性不整脈評価方法を紹介するとともに,今後の展望を紹介する。
著者
原田 拓真 徳力 幹彦
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.59, no.7, pp.561-567, 1997-07-25
参考文献数
43

高周波可聴域を有するコモンマーモセット(Callithrix jacchus)20例を用いて, 最大99kHzまでの可聴域全般にわたるクリック音刺激周波数および音圧が聴性脳幹反応(BAEP)の波形およびピーク潜時に及ほす影響を検討した. 4, 32および99 kHzの周波数刺激でBAEPを記録した結果, ピーク数は刺激音圧により変化し, 80 dB peak equivalent sound pressure level(pe SPL)の音圧の場合に最大数の明瞭な波形を得ることができた. このことから, コモンマーモセットを用いて広範囲の周波数にわたるBAEP記録を行う場合には, 80 dB pe SPLが適していると考えられた. また, 刺激音圧を100 dB pe SPLから50dB pe SPLに変化させるとBAEP各波の潜時は延長した. 一方, 80 dB pe SPLの一定音圧下で刺激周波数を0.5 kHzから99 kHzに変化させてBAEPを記録した結果, 刺激音圧に対する各波潜時および振幅の変化は一様ではなかった. すなわち, I波振幅は16kHzおよび32 kHz刺激時に増大し, IIIおよびV波振幅は4-8 kHzおよび64-99 kHz刺激時に増大した. これらの各波振幅の増大は末梢性あるいは中枢性聴覚経路の神経核活動の同調性に関連しているものと考えられた.