著者
原田 貴子
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.69-80, 2009 (Released:2010-06-09)
参考文献数
31

不全片麻痺による巧緻運動障害が書字運動に与える影響を検討した。対象は脳血管障害による利き手の右不全片麻痺者(以下,麻痺群)20名(関節運動覚障害なし14名,あり6名)および年齢を一致させた右利き健常者13名である。1.2cm,6cm,15cm画のサイズの升に平仮名「ふ」を左右の手で書かせ,ペン先,第2中手骨骨頭,橈骨遠位端の3つの評点の運動を解析した。書字時間,各評点の速度変化パターンの均一性を示す相関係数,ペン先が手の近位部と独立あるいは従属して動いているかを表すペン先と他の評点の運動半径比を計算し,各サイズの左右の書字を比較した。結果:健常群の書字時間は右<左であるものの有意差はなかった。麻痺群の書字時間は右>左で有意差を認めた(p=0.002~0.0002)。評点の速度変化パターンの均一性は健常群のペン先と第2中手骨骨頭および麻痺群の運動覚障害なしの麻痺群のペン先では右>左の有意差を認めた(p=0.003~4×10-6)。運動覚障害のある麻痺群はすべての評点で逆に右<左の有意差を認めた(p=2×10-4~1×10-5)。第2中手骨骨頭/ペン先と橈骨遠位端/ペン先の運動半径比は健常群と運動覚障害なしの麻痺群で右<左の有意差を認めた(p=8×10-13~1×10-18)。結論:不全片麻痺による巧緻運動障害があっても運動覚が正常であれば書字の等時間性,運動分離性ならびに均一性といった利き手の書字運動の特徴は維持された。運動覚の書字運動における重要性が示された。
著者
岡島 康友 原田 貴子
出版者
杏林大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究では、書字運動を特徴づける三次元運動解析パラメータを探索し、右利きの軽症の右片麻痺者6例と右利き健常者10例を対象に、左右の手による書字運動特性を解析するとともに、麻痺による書字運動の変化を検討した。左右の手で1.2,6,15cm角の3種類の大きさの平仮名「ふ」を、初めに各人の自由な書体で、次に楷書体手本をなぞらせた。評点をペン先、示指MP関節位、橈骨遠位端の3ヶ所において三次元座標からオフラインにて、書字時間、書字軌跡長、各点の運動半径、そしてその運動半径比を計算した。運動半径比とはペン先の運動半径を1とした時の他の2つの評点における運動半径比で、手や腕を固定してペン先の動きだけで書字がなされれば0に近くなり、反対にペン先と手全体が一塊となった動きでは1に近い値を示す指標である。健常者の自由書字では字体が大きくなるほどペン先は速くなり、書字時間を一定にする傾向を認めた。利き手書字の習熟性の反映と解釈できた。加速度や躍度あるいは文字軌跡長/文字半径といった書字運動や文字を構成する線のスムースさを反映するパラメータの一部で、感覚障害のある麻痺手による書字の稚拙さを示すことができた。健常者の書字運動半径比の結果で、字が大きくなるほど評点は一塊となって動くが、その一塊性は右手より左手で顕著となった。一方、右不全片麻痺者において、感覚が正常であれば健常者の右書字と同じ運動半径比の特性を認めたが、感覚障害があると小さな字でも一塊の動きになることが示された。つまり、麻痺があっても、感覚障害がなければ、書字速度は遅くなるにもかかわらず運動半径に示される利き手の習熟書字の運動特性は保たれることがわかった。巧緻運動の特徴の1つとして、身体各部の運動の独立性をあげることができるが、本研究の示す運動半径比はまさに、そういった独立性・分離性を示すパラメータといえる。