著者
小田口 浩 若杉 安希乃 伊東 秀憲 正田 久和 蒲生 裕司 渡辺 浩二 星野 卓之 及川 哲郎 花輪 壽彦
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.53-61, 2008-01-20
参考文献数
29

柴胡加竜骨牡蛎湯を服用することにより,自律神経機能の変化とともに降圧効果が得られた高血圧症の1例を経験したので報告する。<br>患者は46歳,男性で,軽症高血圧の他,交感神経緊張状態を疑わせる症状も呈していた。柴胡加竜骨牡蛎湯エキス顆粒(ツムラ)を約3カ月間服用することで,外来血圧は収縮期,拡張期ともに著明に低下した。24時間自由行動下血圧測定(ABPM)では,24時間平均血圧の低下が認められたほか,脳血管障害の危険因子とされる早朝血圧上昇が改善した。起立検査では,服用前は立位負荷により交感神経優位に傾いた自律神経バランスが,服用後は逆に副交感神経優位に傾くという結果が認められた。脂質プロファイルの改善も認められた。<br>本症例の経過は,柴胡加竜骨牡蛎湯が自律神経機能に効果を及ぼすことで降圧効果を示す可能性を示唆しており,ストレス過多により交感神経緊張をきたした高血圧患者に対する有用性が期待される。
著者
加藤 耕平 及川 哲郎 花輪 壽彦
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋醫學雜誌 = Japanese journal of oriental medicine (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.374-381, 2011-05-20
被引用文献数
1 1

〔背景と目的〕漢方医学は食事を重視してきた医学であり,漢方薬には食用となる様々な植物が用いられている。したがって,栄養学との関連性があり,栄養学科の学生に対する漢方医学教育の必要性があると考えられる。しかしこれまで栄養学科の学生を対象にした意識調査は行われていない。このため栄養学科の学生に対して漢方薬(漢方医学)の意識調査を実施した。<br>〔方法〕管理栄養士養成課程の3年生に質問項目13のアンケートを行った。<br>〔結果〕9施設延べ509名から回答を得た。漢方薬(漢方医学)に「興味がある」と答えた学生は全体の59.3%であった。「興味がない」と答えた学生の86.4%は,その理由は「漢方薬(漢方医学)に触れる機会が少なく,よく分からない」と回答した。一方「授業で漢方薬を取り扱って欲しいですか」という問いに対して81.3%が「そう思う」と回答した。<br>〔結論〕漢方医学は,栄養学科の学生に対して教育的ニーズがあることが示唆された。
著者
洪里 和良 及川 哲郎 花輪 壽彦
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋醫學雜誌 = Japanese journal of oriental medicine (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.147-151, 2011-03-20
被引用文献数
1

慢性心不全に対して茯苓杏仁甘草湯加防已黄耆が有効であった1例を経験したので報告する。症例は87歳女性。主訴は安静時の心臓の重苦しさであった。X-6年から某大学病院で慢性心不全の薬物治療を受けていた。数度の入院を繰り返したが,胸部不快感が強く,気分が塞ぐようになり何をするのも嫌になるなどしたため,西洋医学的治療に加えて漢方治療を求めてX年7月に当研究所を受診した。brain natriuretic peptide(BNP)545pg/ml,心胸郭比(CTR)64.1%であった。New York Heart Association(NYHA)の心機能分類ではIV度であった。茯苓杏仁甘草湯加防已黄耆を処方したところ,胸部不快感や抑うつ気分は徐々に改善し,また,他の西洋医学的治療に変更がないにもかかわらず,約1年後にBNP104pg/ml,CTR57.5%に改善した。胸部不快感や抑うつ気分も消失した。NYHAの心機能分類はI度になった。これらの結果から,茯苓杏仁甘草湯加防已黄耆は慢性心不全に効果があることが示唆された。
著者
卯木 希代子 早崎 知幸 鈴木 邦彦 及川 哲郎 花輪 壽彦
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.161-166, 2009 (Released:2009-08-05)
参考文献数
21
被引用文献数
2 1

数年来の耳鳴に対して蘇子降気湯を投与した症例を経験したので,著効を得た2症例の症例呈示と合わせて報告する。症例1は70歳女性。主訴はめまい,耳鳴,不眠である。5歳時の両耳中耳炎手術後より耳鳴があったが,3カ月前より回転性めまいが出現,以後耳鳴が強くなり来所した。頭重感,不眠,足先が冷えやすい等の症状があり,蘇子降気湯加紫蘇葉を処方したところ,服用1カ月でめまいは改善し,3カ月後には不眠や耳鳴も改善し,8カ月後には普通の生活ができるようになった。症例2は58歳男性。難聴,耳鳴を主訴に来所した。5年前より回転性めまいと右の聴力低下が出現,進行して聴力を喪失し,さらに1年前より左の聴力低下も出現した。近医にてビタミン剤や漢方薬を処方されたが聴力過敏・耳鳴が出現した。イライラ,不眠,手足が冷える等の症状も認めた。八味丸料加味を投与したが食欲不振となり服用できず,気の上衝を目標に蘇子降気湯加紫蘇葉附子に変方したところ,服用1カ月で自覚症状が改善し,騒音も気にならなくなった。その後の服用継続にて不眠・足冷も改善した。当研究所漢方外来において耳鳴に対する蘇子降気湯の投与を行った13例中,評価可能な10例のうち5例に本方は有効であった。有効例のうち4例は,のぼせまたは足冷を伴っていた。蘇子降気湯は『療治経験筆記』において「第一に喘急,第二に耳鳴」との記載がある。数年経過した難治性の耳鳴にも本方が有用であることが示唆された。