著者
吉井 健一郎 志和地 弘信 入江 憲治 豊原 秀和
出版者
日本熱帯農業学会
雑誌
熱帯農業研究 (ISSN:18828434)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.81-87, 2012

インディカイネのプカールンドゥール品種はカンボジアのバッタンバン州の主力品種であるが,直播き栽培において播種後に水田が湛水すると苗立ちが悪くなることが知られている.これまでの研究において,プカールンドゥール品種の苗立ち不良は第一義的に溶存酸素量の不足によって起きていると考えられたことから,溶存酸素量と苗立ちとの関係について調べた.水だけを入れたポットに種子を播くと播種数が多くなるほど溶存酸素量が低下し,苗立ちが見られなくなった.しかし,ポットに空気を供給すると,苗立ち不良になる播種数のポットの苗立ちは改善した.そこで,溶存酸素量とプカールンドゥール品種の生長との関係を調べたところ,鞘葉は溶存酸素量にかかわらず伸長するが,溶存酸素量が2 mgl<sup>-1</sup>以下では本葉と根の伸長が阻害された.これらのことから,プカールンドゥール品種の苗立ちに必要な溶存酸素量は3 mgl<sup>-1</sup>以上と考えられた.水田土壌の溶存酸素の低下には土壌中の微生物が関与していると考えられている.そこで,種子をコサイドおよびカスミンボルドー剤で処理をして湛水した水田土壌中に播種したところ,いずれのボルドー剤処理においても苗立ちが改善した.ボルドー剤処理は水田土壌表面水中の溶存酸素量と水田土壌中の酸化還元電位の低下を抑制したことから,土壌中の微生物の活動を抑えたものと考えられた.ボルドー剤による種子処理は直播栽培による苗立ち不良の改善に期待される.