著者
砂野 唯
出版者
日本熱帯農業学会
雑誌
熱帯農業研究 (ISSN:18828434)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.69-74, 2013 (Released:2015-08-04)
参考文献数
15
被引用文献数
3

アフリカ農村では,穀物やイモ類から作った主食がカロリー源として大量に摂取されている.穀物やイモ類には,人体の成長と組織の修復に不可欠なタンパク質が少量しか含まれないうえに,タンパク質を構成している必須アミノ酸のバランスが悪く,リジン含量が低い.そのため,多くの人びとはマメ類や肉,魚,または乳製品を材料とする副食を食べることで,これらの栄養素を補っている.しかし,エチオピア南部に暮らすデラシェは,モロコシとトウモロコシから作った醸造酒パルショータ(parshot)を主食としており,それ以外をほとんど口にしない.このような食事習慣は,世界的にも珍しい.そこで,本研究では,彼らの栄養事情を解明し,何故,このような飲酒文化がこの地で生まれたのかを考察した.モロコシとトウモロコシ,デラシェで飲まれる3種類の醸造酒の栄養価を分析したところ,3種類の醸造酒の方が高いアミノ酸スコアを示した.また,現地での観察によると,人びとは普段はパルショータを,乾期にはその他の2種類の醸造酒を主食として,毎日大量に飲んでいた.人びとは,モロコシとトウモロコシをアルコール発酵させることで栄養価を高めるとともに,固形食よりも満腹になりにくい濁酒状にして摂取量を増やしていた.人びとは1日に飲む醸造酒から生存に必要なカロリーと栄養を全て満たしており,栄養価に優れたパルショータを普段から主食としていた.多くのアフリカ農村では,マメ類を栽培したり,生業を多様化することによって栄養事情の改善を図っているが,デラシェ地域では単一の作物から効率良く栄養を摂取するために調理方法と摂取方法を工夫している.その結果,地域に特有の飲酒文化が生まれたことが明らかになった.
著者
砂野 唯
出版者
日本熱帯農業学会
雑誌
熱帯農業研究 (ISSN:18828434)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.1-6, 2015 (Released:2015-12-25)
参考文献数
13

紀元前数世紀前まで,世界各地では「貯蔵穴」とよばれるフラスコ状や袋状の地下貯蔵庫が,風雨やスズメ,ネズミ,水,火による劣化や泥棒による盗難を防ぐために穀物や堅果類の貯蔵用として,使われていた.しかし,貯蔵穴内は多湿になり易い。そのため,多湿な環境下での貯蔵に不向きなコメやコムギ,オオムギの栽培が広まるにつれて,姿を消し地上貯蔵庫へと置き換わっていった. 一方,調査地であるエチオピア南部デラシェ地域で暮らすデラシャは,今でもポロタ(polota)と呼ばれる深さ約2m,最大直径約1.5mのフラスコ型の貯蔵欠でモロコシを貯蔵している.先行研究の多くは,貯蔵穴の貯蔵効率を低いとしているが,ポロタでは最大20年間もモロコシを貯蔵することができる.本稿では,貯蔵穴ポロタの構造と機能について明らかにするとともに,他の貯蔵穴が姿を消すなかでもポロタが地域特異的に使われ続けている要因について考察する. モロコシの入ったポロタ内の酸素濃度と二酸化炭素濃度を分析したところ,低酸素かつ高二酸化炭素な空間が維持されていた.この原因を解明するために,ポロタの造られている層を採取して蛍光X線解析したところ,この層は玄武岩が化学風化して生成された気密性の高い層であり,この高い気密性がポロタ内の低酸素かつ高二酸化炭素状態を形成していることが明らかになった.この低酸素濃度が害虫の食害を防ぎ,高二酸化炭素濃度がポロタでのモロコシの長期貯蔵を誘導していた. 飢饉が起こり易い半乾燥地帯に暮らすデラシャは,ポロタでモロコシを長期貯蔵することで凶作に備えている.ポロタは高い貯蔵効率故に,各地で貯蔵穴が姿を消し,防虫剤や地上貯蔵庫が広まるなかでも利用され続けてきた.
著者
近藤 友大 雨宮 俊 香西 直子 緒方 達志 米本 仁巳 樋口 浩和
出版者
日本熱帯農業学会
雑誌
熱帯農業研究 (ISSN:18828434)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.59-66, 2021 (Released:2022-06-03)
参考文献数
21

生食用パッションフルーツの消費量が増加している.生食用果実には,低い酸含量と長い棚持ち期間が求められる.果実は成熟すると結果枝から脱落し落下する.落下が果実品質に及ぼす影響は明らかになっていない.収穫直後の果実を30,60,90,180 cmの高さから落とし,追熟後の果汁品質,棚持ち期間を落下させてない果実(0 cm区)と比較した.さらに,追熟中の呼吸速度,エチレン生成速度を測定した.90,180 cm区では酸含量が高く糖酸比が低かった.官能試験でも落下距離が長いほど酸っぱく感じられた.180 cm区では異味異臭が感じられた.180 cm区の30果のうち6果の果皮に亀裂が生じた以外は,外観の損傷はなかった.亀裂のある果実は亀裂のない果実よりも酸含量が低かった.60,90,180 cm区の果実の内部組織は損傷し,90,180 cm区では果実内部で果汁が仮種皮から漏出した.落下させた果実はカビにより棚持ち期間が短くなった.落下直後に呼吸速度が増加した.落下距離が長いほど落下直後の呼吸速度の増加は大きかった.落下させた果実の呼吸速度は落下から1~4日後に急激に減少した.6日後以降は落下距離が長い果実ほど呼吸速度が小さかった.0 cm区では収穫1日後にエチレン生成速度が増加したが,90,180 cm区では増加しなかった.追熟期間を通じて,90,180 cm区のエチレン生成速度は小さかった.落下距離が長いほど衝撃荷重が大きく,衝撃荷重が大きいほど追熟後の酸含量が高かった.以上から,収穫時の90 cm以上の距離の落下により果実品質が低下し,30 cm以上の距離の落下で棚持ち期間が短くなることが明らかになった.
著者
浅見 祐弥 烏谷 亜紗子 賴 宏亮 井上 章二
出版者
日本熱帯農業学会
雑誌
熱帯農業研究 (ISSN:18828434)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.14-18, 2021

<p>窒素施肥濃度の違いが<i>Bupleurum kaoi</i> Liu. (<i>B. kaoi</i>) の生育および成分含量に与える影響を明らかにすることを目的とした.供試した<i>B. kaoi</i>は,生薬として根が用いられる台湾固有種である.本研究は硝酸安の濃度を変えたホーグランド溶液を0,2,4,10,16,22 mMの6段階に設定し,週に1度施肥を行った.また乾物生産特性および根の成分含量を明らかにした.成分分析は,サイコサポニン(SS) a,b1,b2,cおよびdの 5種類の定量分析を行った.<i>B. kaoi</i>の生育及び乾物生産特性の結果は,草丈,葉数およびSPADで10 mM以上のとき,増加傾向にあった.さらに地上部および地下部の乾物重も同様に10 mM以上で有意に高い値を示した.10 mM 以上の処理区において,生育および乾物生産の有意差はなかった.主成分であるSSa および SSd においては 16 mM 以上で有意に増加した.また SSb1,SSb2,SSc においては10 mM 以上で有意に成分含量が高いことを示し,10 mM以上で総サイコサポニンが有意に増加した.以上の結果から,窒素施肥濃度10 mM以上で根の乾物重および成分含量は飽和点に達し,最適窒素施肥濃度の指標となる可能性が示唆された.</p>
著者
吉井 健一郎 志和地 弘信 入江 憲治 豊原 秀和
出版者
日本熱帯農業学会
雑誌
熱帯農業研究 (ISSN:18828434)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.81-87, 2012

インディカイネのプカールンドゥール品種はカンボジアのバッタンバン州の主力品種であるが,直播き栽培において播種後に水田が湛水すると苗立ちが悪くなることが知られている.これまでの研究において,プカールンドゥール品種の苗立ち不良は第一義的に溶存酸素量の不足によって起きていると考えられたことから,溶存酸素量と苗立ちとの関係について調べた.水だけを入れたポットに種子を播くと播種数が多くなるほど溶存酸素量が低下し,苗立ちが見られなくなった.しかし,ポットに空気を供給すると,苗立ち不良になる播種数のポットの苗立ちは改善した.そこで,溶存酸素量とプカールンドゥール品種の生長との関係を調べたところ,鞘葉は溶存酸素量にかかわらず伸長するが,溶存酸素量が2 mgl<sup>-1</sup>以下では本葉と根の伸長が阻害された.これらのことから,プカールンドゥール品種の苗立ちに必要な溶存酸素量は3 mgl<sup>-1</sup>以上と考えられた.水田土壌の溶存酸素の低下には土壌中の微生物が関与していると考えられている.そこで,種子をコサイドおよびカスミンボルドー剤で処理をして湛水した水田土壌中に播種したところ,いずれのボルドー剤処理においても苗立ちが改善した.ボルドー剤処理は水田土壌表面水中の溶存酸素量と水田土壌中の酸化還元電位の低下を抑制したことから,土壌中の微生物の活動を抑えたものと考えられた.ボルドー剤による種子処理は直播栽培による苗立ち不良の改善に期待される.
著者
鳥山 和伸
出版者
日本熱帯農業学会
雑誌
熱帯農業研究 (ISSN:18828434)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.170-174, 2012 (Released:2015-08-04)
参考文献数
40
被引用文献数
1