著者
YE TINT TUN 入江 憲治 THAN SEIN 白田 和人 豊原 秀和 菊池 文雄 藤巻 宏
出版者
Japanese Society for Tropical Agriculture
雑誌
熱帯農業 (ISSN:00215260)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.42-50, 2006-03-01 (Released:2010-03-19)
参考文献数
13
被引用文献数
1

ミャンマーのイネ地方品種には, 胚乳のアミロース含量が0から40%にわたる広範な変異がある.Chin, KachinおよびShanなどの山岳部の諸州の地方品種には, アミロース含量にとくに大きな変異がみられる.これらの地域で, 極低アミロース (4%以下) の地方品種が頻繁に出現するのは, タイ, ラオスからベトナムにわたり広がるもち稲栽培圏の影響を受けているとみられる.本研究では, さまざまなアミロース含量をもつ地方品種の利用法を調査した.ミャンマーでは, 消費者や販売業者が飯米の粘性や柔軟性に基づいて米をKauk Hnyin, Kauk Sei, Kauk ChawおよびKauk Kyan.の4群に分けている.それぞれの群の名称は, もち米, 粘る米, 柔らかい米, 堅い米を意味しており, 収集標本のアミロース含量の測定の結果, もち (無) , 低, 中, 高のアミロース含量であることが判明した.今回調査したChinおよびShanの両州では, Kauk Seiが最も多く, 地域の人たちが常食にしている.また, Kauk SeiおよびKauk Hnyinの両群の米は, 伝統的な祭事の時にスナックを作る材料として習慣的に用いられている.もち米とみられるKauk Hnyinは, 全国的に分布しているが, 粘る米とされるKauk Seiは, ミャンマーの山間部で卓越している.ミャンマーにおける米の調理・加工製品は, 7つのタイプに分けられた.すなわち, 飯米, ケーキ, 生地製品, フリッター, 麺, プディングならびに飲料.それぞれのタイプには, 数種類あるいはそれ以上の異なる調理・加工製品が含まれる.調理・加工の方法は, 米の素材 (米粒あるいは米粉) , 品質・成分 (アミロース含量) , 加熱法, 添加食材の種類などにより異なる.ミャンマーのイネ地方品種のアミロース含量の変化は, さまざまな調理や加工の方法に対応して選抜されてきた結果と考えられる.
著者
吉井 健一郎 志和地 弘信 入江 憲治 豊原 秀和
出版者
日本熱帯農業学会
雑誌
熱帯農業研究 (ISSN:18828434)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.81-87, 2012

インディカイネのプカールンドゥール品種はカンボジアのバッタンバン州の主力品種であるが,直播き栽培において播種後に水田が湛水すると苗立ちが悪くなることが知られている.これまでの研究において,プカールンドゥール品種の苗立ち不良は第一義的に溶存酸素量の不足によって起きていると考えられたことから,溶存酸素量と苗立ちとの関係について調べた.水だけを入れたポットに種子を播くと播種数が多くなるほど溶存酸素量が低下し,苗立ちが見られなくなった.しかし,ポットに空気を供給すると,苗立ち不良になる播種数のポットの苗立ちは改善した.そこで,溶存酸素量とプカールンドゥール品種の生長との関係を調べたところ,鞘葉は溶存酸素量にかかわらず伸長するが,溶存酸素量が2 mgl<sup>-1</sup>以下では本葉と根の伸長が阻害された.これらのことから,プカールンドゥール品種の苗立ちに必要な溶存酸素量は3 mgl<sup>-1</sup>以上と考えられた.水田土壌の溶存酸素の低下には土壌中の微生物が関与していると考えられている.そこで,種子をコサイドおよびカスミンボルドー剤で処理をして湛水した水田土壌中に播種したところ,いずれのボルドー剤処理においても苗立ちが改善した.ボルドー剤処理は水田土壌表面水中の溶存酸素量と水田土壌中の酸化還元電位の低下を抑制したことから,土壌中の微生物の活動を抑えたものと考えられた.ボルドー剤による種子処理は直播栽培による苗立ち不良の改善に期待される.
著者
杉原 たまえ 石田 裕 三津浜 三栄子 鈴野 弘子 豊原秀和
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.186-192, 2008-03-15

本研究は,南西諸島のような物理的・環境的条件の限定された地域における在来的な自生植物資源の有用性に関する研究である。沖縄県伊江村(伊江島)では,アブラナ科のハマカブラBrassica campestris L.を,マーナと称し,島の人々はかねてから利用してきた。この植物は日本全国で確認されているが,沖縄県においては自生地が限られ,またこれを日常的に食しているのは伊江島だけといわれている。雑草であるがゆえに,この植物の生産に取り組んでいる農家は,2戸に過ぎない。われわれはこのマーナに関する一般的特性に関する聞き取り調査をおこない,さらに栄養分析をおこなった。その結果,特にマーナのポリフェノール含有量は比較的高い数値で,一般的な野菜の10倍程度であった。日常的に利用されながら雑草的な扱いにとどまっているが,成分的には機能性に加え,栄養学的な面でも優れていることが示され,今後食用化が進められるべき素材であることが示唆された。伊江島では製糖工場が閉鎖され,農家の高齢化も伴って耕作放棄が目立ちつつある中で,ラッカセイ,トウガン,花卉につぐ,マーナの特産化が模索されるべきであろう。
著者
豊原 秀和 吉松 円 出田 まき 室井 明子 妙田 貴生 小塩 海平 菊池 文雄 藤巻 宏
出版者
日本熱帯農業学会
雑誌
熱帯農業 (ISSN:00215260)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.188-194, 2002-09-01
被引用文献数
2

ダイジョ (Dioscorea alata L.) は,雌雄異株植物であるが,種子による繁殖は確認されておらず,通常は塊茎による無性増殖が行われている.それにもかかわらず,塊茎や葉の形状あるいは植物体各部の色素の発現などに多様な変異が観察され,染色体数についても3倍体(2n=30)から8倍体(2n=80)までの幅広い変異が報告されている.本研究では,パプアニューギニア(PNG)より導入した地方品種12点とその他の地域から収集し東京農業大学で保存栽培されていたダイジョ品種22点を供試して,葉の形状の種内変異を解析した.分散分析および主成分分析により葉の形状の変異を解析した結果,葉の大きさや形について多様な遺伝的変異があり,一部の塊茎形状と葉形状との間に関連性があることがわかった.さらに,染色体数の調査を行い,4倍体(2n=40)ならびに8倍体(2n=80)の存在を確認し,葉ならびに気孔の大きさと倍数性との関係も一部明らかにすることができた.