著者
小沢 慶彰 村上 雅彦 渡辺 誠 冨岡 幸大 吉澤 宗大 五藤 哲 山崎 公靖 藤森 聡 大塚 耕司 青木 武士
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.75, no.6, pp.696-700, 2015 (Released:2016-09-10)
参考文献数
8

直腸腫瘍に対し砕石位にて手術施行後に下肢コンパートメント症候群を合併した2例を経験したので,その予防対策とともに報告する.症例1は61歳男性.直腸癌に対し腹腔鏡下低位前方切除術施行した.体位は砕石位,下肢の固定にはブーツタイプの固定具を用い,術中は頭低位,右低位とした.手術時間は6時間25分であった.第1病日より左下腿の自発痛と腫脹を認めた.後脛骨神経・伏在神経領域の痺れ,足関節・足趾底屈筋群の筋力低下を認めた.下肢造影CTで左内側筋肉の腫脹と低吸収域を認めた.血清CKは10,888IU/Lと高値,コンパートメント圧は22mmHgと高値であった.左下腿浅後方に限局したコンパートメント症候群と診断し,同日筋膜減張切開を施行した.術後は後遺症なく軽快した.症例2は60歳男性.直腸GISTに対し腹会陰式直腸切断術を施行した.体位,下肢の固定は症例1と同様であり,手術時間4時間50分であった.術直後より左大腿~下腿の自発痛と腫脹を認めた.術後5時間には下腿腫脹増悪,血清CKは30,462IU/Lで,コンパートメント圧は60mmHgと高値であった.左下腿コンパートメント症候群と診断,同日筋膜減張切開を施行した.術後は後遺症なく軽快した.直腸に対する手術は砕石位で行うことが多いため,下腿圧迫から生じる下肢コンパートメント症候群の発症を十分念頭におく必要がある.一度発症すれば重篤な機能障害を残す可能性のある合併症であり,砕石位を取る際には十分な配慮をもって固定する必要がある.また,発症した際には早期に適切な対処が必要である.当手術室ではこれらの臨床経験から,砕石位手術の際に新たな基準を設定,導入しており,導入後は同様の合併症は認めていない.それら詳細も含めて報告する.