著者
水田 敏郎 藤澤 清 吉田 和則 保野 孝弘 大森 慈子 宮地 弘一郎 権藤 恭之 堅田 明義
出版者
仁愛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究では,知的障害を有する高齢者を対象に認知機能の検討をおこなった.S1-S2パラダイムに基づき,S1を顔刺激としS2で提示される複数の顔刺激からS1を検出するものとし,ボタン押し反応や視行動,ならびに心拍反応から検討を行った.その結果,若年成人群ではS1-S2間隔における心拍反応において,第1減速-加速-第2減速の三相からなる一過性の変動が出現し予期的減速反応を反映したものと考えた.また,後半S2提示直後の刺激探索に関する方略の獲得にあわせて,反応時間の短縮が認められた.他方,高齢者群では正答率,平均反応所要時間などの指標はいずれも若年成人に比べると成績が劣っていた.心拍反応については個人差が大きかったが全体的に若年群に比べて変化が小さく,加齢による心拍変動の減少によると思われた.次に,知的障害高齢者を対象とした同様の心理機能の検討を試みた.その結果,知的障害を有する事例はS2として提示した複数の刺激のなかからターゲット刺激を検出するのが困難であった.そのうち1事例の反応所要時間は顕著に延長しサッケード潜時は比較的短かった.この事例の心拍反応には,わずかに予期的反応を反映した減速反応がみられた.また別の事例では,反応所要時間は比較的短くサッケード潜時は延長していた.本事例の心拍反応はS1提示直後から減速し,S1に対する低位的性格をもつ反応と位置づけた.また同事例では予期的反応がほとんど惹起されず,このことが原因となってサッケードの生起が遅れたと考えられた.以上より本パラダイムで心拍指標を用いて検討すると,刺激の分析を含めた認知過程ならびに予期的反応の生起過程を捉えることが可能になるといえる.また心拍に反映された2つの心理過程は,行動指標の結果にも合致し,知的障害高齢者の認知機能の評価に有効であることが指摘できた.