著者
土田 翼 藤江 智也 吉田 映子 山本 千夏 鍜冶 利幸
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第43回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.O-41, 2016 (Released:2016-08-08)

【背景・目的】内皮細胞は種々の増殖因子・サイトカインを産生・分泌することで, 血管機能を調節している。TGF-β1は,内皮細胞の増殖を抑制的に制御し,動脈硬化などの血管病変の進展に関与する。一方,メタロチオネイン(MT)は重金属の毒性軽減や細胞内の亜鉛代謝などに寄与する多機能な生体防御タンパク質であるが,細胞機能調節因子によるMTの誘導に関する報告は少ない。本研究では,TGF-β1による血管内皮細胞のMT遺伝子の転写誘導とそのメカニズムについて解析した。【方法】培養ウシ大動脈内皮細胞をTGF-β1で処理し,MTアイソフォーム(MT-1A,MT-1EおよびMT-2A)mRNAの発現をreal-time RT-PCR法により解析した。Smad2/3,ERK,p38 MAPKおよびJNKのリン酸化はWestern Blot法で検出した。siRNAはリポフェクション法により導入した。【結果・考察】血管内皮細胞において,TGF-β1の濃度および時間に依存してMT-1A/2A mRNAレベルが上昇したが,この上昇はTGF-β1中和抗体の同時処理により消失した。TGF-β受容体ALK1またはALK5 siRNAを導入した内皮細胞では,ALK5の発現抑制によりMT-1A/2A mRNAの発現の上昇が抑制された。ALK5下流のSmad2およびSmad3のsiRNAをそれぞれ導入したところ,Smad2 siRNAによりMT-1A/2A mRNAの発現上昇が抑制された。またnon-Smad経路としてMAPK経路を検討したところ,TGF-β1により全てのMAPKsが活性化したが,p38 MAPKおよびJNK阻害剤によりTGF-β1によるMT-1A mRNAの発現上昇のみが抑制された。以上の結果より,TGF-β1は内皮細胞のMT-1A/2A遺伝子を転写誘導すること,この誘導はALK5を介したSmad2シグナルの活性化に介在されること,およびp38 MAPKおよびJNKの活性化はMT-1Aの転写誘導を選択的に介在することが明らかになった。
著者
秋山 雅博 外山 喬士 吉田 映子 鵜木 隆光 安孫子 ユミ 新開 泰弘 熊谷 嘉人
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.42, pp.P-113, 2015

【目的】水俣病の原因物質としても知られるメチル水銀(MeHg)は, 高濃度の摂取により深刻な神経毒性を引き起こすことが示されているが, 我々は大型魚類などを介し日常的にMeHgに暴露されている現状にある. そのため, 生体におけるMeHgへの毒性防御機構の解明は急務の課題となっている. これまでに我々はMeHgの解毒代謝物の一つとして(MeHg)<sub>2</sub>Sを発見し, 生体内においてはシステインの代謝関連酵素によって産生される活性イオウ分子(reactive sulfur species, RSS)がこの解毒代謝に寄与している可能性を示してきた. しかし, これまでの研究は主に培養細胞を用いた<i>in vitro</i>レベルの研究であり, 実際に個体レベルでの知見は得られていない. そこで本研究では個体レベルにおいて, 生体内で産生されるRSSによるMeHgの解毒代謝機構を証明することを目的とした.<br>【方法】Cystathionine γ-lyase (CSE)は生体内においてRSSを産生するシステイン代謝関連酵素の一つである. 本研究ではこの<i>CSE</i>遺伝子を全身で欠損しているCSE ノックアウト(KO)マウスに対するMeHg毒性を評価することでCSEによって産生されるRSSがMeHgの解毒代謝機構に関与しているかを個体レベルで検証した.<br>【結果および考察】<br><i>CSE</i>-KOマウスは通常では神経毒性を引き起こさない低濃度のMeHgの投与によって振戦などの神経障害が現れ, その後死亡した. このことから個体レベルにおいてCSEはMeHgの解毒代謝機構に関与していることが示唆された. 近年, CSEから生じるRSSは硫化水素(H<sub>2</sub>S/HS<sup>-</sup>)ではなく, システインパースルフィド(Cys-S-SH)であるという事実が明らかとなっており, このCys-S-SHなどによるMeHgの捕獲に伴うイオウ付加体形成がMeHgの解毒代謝に寄与している可能性が高いと考えられる.
著者
吉田 映子
出版者
東京理科大学
雑誌
理学専攻科雑誌 (ISSN:02864487)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.85-90, 2002-10-01
著者
今野 裕太 中浴 静香 吉田 映子 藤原 泰之 山本 千夏 安池 修之 鍜冶 利幸
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.42, pp.P-71, 2015

【背景・目的】有機-無機ハイブリッド分子は合成試薬として広く利用されてきたが,生命科学への貢献は皆無に等しい。当研究室では,有機ビスマス化合物(PMTABiおよびDAPBi)の強い細胞毒性がそのアンチモン置換体(PMTASおよびDAPSb)では消失することを見出した。また, これらの化合物に感受性低下を示す有機ビスマス化合物感受性低下細胞(RPB-1γ,RPB-2,RPB-3およびRDB-1細胞)を樹立した。本研究の目的は,有機ビスマス化合物の毒性発現機構の解明を目指し,有機ビスマス化合物の感受性と細胞内金属蓄積量の関係を明らかにすることである。<br>【方法】チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO-GT細胞)および有機ビスマス化合物感受性低下細胞に,<br>PMTABi,PMTAS,DAPBi,DAPSbを曝露し,形態学的観察を行うとともに,それぞれの化合物の細胞内蓄積量をICP-MSで測定し,Bi量またはSb量で評価した。<br>【結果・考察】PMTABiの蓄積量は,CHO-GT細胞に比べ,20 µMまでは全ての耐性細胞において高かったが,50 µMではRPB-1γ,RPB-2およびRPB-3細胞への蓄積量はCHO-GTよりも低くなった。DAPBiの蓄積量は,CHO-GT細胞に比べ,50 µMまでRPB-3およびRDB-1細胞において高かった。しかしながら,RDB-1細胞へのDAPBiの蓄積量は50 µMまで濃度依存的であったが,RPB-3細胞では50 µMで減少した。RPB-2細胞には有機ビスマス化合物が蓄積しなかった。PMTABiを曝露して獲得したRPB-1γ,RPB-2およびRPB-3細胞がDAPBiに対しても耐性を示すことが確認された。アンチモン置換体は全ての細胞種において細胞内に蓄積せず,形態学的観察による細胞毒性も確認されなかった。以上より,有機ビスマス化合物の細胞毒性は,その細胞内蓄積量だけでなく,細胞種と有機ビスマス化合物の濃度によって異なるメカニズムが存在することが示唆される。