著者
藤原 泰之 来栖 花菜 高橋 勉 三木 雄一
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第43回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-156, 2016 (Released:2016-08-08)

【目的】マクロファージは、外来性異物や異物的自己成分を認識し、除去する機能を有する貪食細胞である。我々はこれまでに、多機能性タンパク質であるヌクレオリンがマクロファージ表面のスカベンジャーレセプターの一つとして機能し、変性タンパク質や変性LDL、アポトーシス細胞などを認識・除去することを明らかにしてきた。アミロイドβ(Aβ)は、神経変性疾患、特にアルツハイマー病の発症に深く関与するとされているが、脳血管壁にも沈着することが報告されている。本研究の目的は、マクロファージによるAβの認識・除去機能へのヌクレオリンの関与を明らかにすることである。【方法】Aβは、monomer Aβ40、monomer Aβ42および線維化させたfibril Aβ40およびfibril Aβ42を用いた。各種Aβとリコンビナントヌクレオリン(rNUC)の結合能をsurface plasmon resonance(SPR)法により検討した。フローサイトメーターを用いて、蛍光標識した各種Aβとマクロファージとの結合性を測定した。また、ヌクレオリンアプタマーであるantineoplastic guanine rich oligonucleotide(AGRO)および抗ヌクレオリン抗体を用いた競合拮抗実験を行った。【結果・考察】固定化したrNUCに対し、monomerおよびfibril Aβ40は結合しなかったが、monomerおよびfibril Aβ42は結合することが確認された。蛍光標識したmonomerおよびfibril Aβ42は腹腔マクロファージと濃度依存的に結合すること、これらの結合はAGROおよび抗ヌクレオリン抗体の共存により阻害されることが確認された。また、共焦点レーザー蛍光顕微鏡観察により、蛍光標識したmonomerおよびfibril Aβ42はマクロファージに貪食されることが観察されたが、その貪食作用は抗ヌクレオリン抗体によって有意に阻害された。以上より、マクロファージ表面のヌクレオリンは、Aβ40は認識しないが、monomer Aβ42およびfibril Aβ42の両方を取り込むレセプターとして機能していることが示唆された。
著者
村上 正樹 藤江 智也 松村 実生 藤原 泰之 木村 朋紀 安池 修之 山本 千夏 佐藤 雅彦 鍜冶 利幸
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.41, pp.P-2, 2014

【背景・目的】有機金属化合物はそれを構成する分子構造や金属イオンとは異なる生物活性を持ち得るため,生命科学への活用が期待される。メタロチオネイン(MT)は有害重金属の毒性軽減などに関与するが、誘導機構には不明な点が多い。本研究では,有機アンチモン化合物ライブラリーから見出された化合物(Sb35)によるMT誘導の特性について,ウシ大動脈由来血管内皮細胞(BAE)を用いて調べた。<br>【方法】BAEをSb35で処理し,MTサブタイプおよびMTF-1 mRNAの発現をReal-Time RT PCR法により評価した。金属応答配列MREおよび抗酸化応答配列AREの活性をDual Luciferase Assayにより測定した。<br>【結果・考察】Sb35は,BAEが発現するMTのすべてのサブタイプ(MT-1A,MT-1EおよびMT-2)のmRNA発現を濃度依存的に増加させたが,MREを顕著に活性化しなかった。しかしながら,転写因子MTF-1をノックダウンすると,すべてのMTサブタイプの発現が抑制された。一方,Sb35は転写因子Nrf2を活性化し,AREを強く活性化した。そこでNrf2をノックダウンしたところ,MT-1AおよびMT-1EのmRNA発現が有意に抑制された。MT-2の発現には変化は認められなかった。以上の結果より,Sb35はすべてのMTサブタイプの遺伝子発現を誘導するが,MT-1AおよびMT-1Eの誘導はMTF-1-MRE経路とNrf2-ARE経路の両方に介在されること,これに対しMT-2の誘導はNrf2-ARE経路に依存せず,MTF-1-MRE経路に介在されることが示唆された。Sb35がNrf2の活性化によってサブタイプ選択的にMT遺伝子の発現を誘導することは,この有機アンチモン化合物がMTの誘導機構解析の有用なツールであることを示している。
著者
今野 裕太 中浴 静香 吉田 映子 藤原 泰之 山本 千夏 安池 修之 鍜冶 利幸
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.42, pp.P-71, 2015

【背景・目的】有機-無機ハイブリッド分子は合成試薬として広く利用されてきたが,生命科学への貢献は皆無に等しい。当研究室では,有機ビスマス化合物(PMTABiおよびDAPBi)の強い細胞毒性がそのアンチモン置換体(PMTASおよびDAPSb)では消失することを見出した。また, これらの化合物に感受性低下を示す有機ビスマス化合物感受性低下細胞(RPB-1γ,RPB-2,RPB-3およびRDB-1細胞)を樹立した。本研究の目的は,有機ビスマス化合物の毒性発現機構の解明を目指し,有機ビスマス化合物の感受性と細胞内金属蓄積量の関係を明らかにすることである。<br>【方法】チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO-GT細胞)および有機ビスマス化合物感受性低下細胞に,<br>PMTABi,PMTAS,DAPBi,DAPSbを曝露し,形態学的観察を行うとともに,それぞれの化合物の細胞内蓄積量をICP-MSで測定し,Bi量またはSb量で評価した。<br>【結果・考察】PMTABiの蓄積量は,CHO-GT細胞に比べ,20 µMまでは全ての耐性細胞において高かったが,50 µMではRPB-1γ,RPB-2およびRPB-3細胞への蓄積量はCHO-GTよりも低くなった。DAPBiの蓄積量は,CHO-GT細胞に比べ,50 µMまでRPB-3およびRDB-1細胞において高かった。しかしながら,RDB-1細胞へのDAPBiの蓄積量は50 µMまで濃度依存的であったが,RPB-3細胞では50 µMで減少した。RPB-2細胞には有機ビスマス化合物が蓄積しなかった。PMTABiを曝露して獲得したRPB-1γ,RPB-2およびRPB-3細胞がDAPBiに対しても耐性を示すことが確認された。アンチモン置換体は全ての細胞種において細胞内に蓄積せず,形態学的観察による細胞毒性も確認されなかった。以上より,有機ビスマス化合物の細胞毒性は,その細胞内蓄積量だけでなく,細胞種と有機ビスマス化合物の濃度によって異なるメカニズムが存在することが示唆される。
著者
恒岡 弥生 富田 幸一朗 高橋 勉 篠田 陽 藤原 泰之
雑誌
日本薬学会第140年会(京都)
巻号頁・発行日
2020-02-01

【目的】メタロチオネイン(MT)はカドミウム(Cd)や亜鉛などの重金属の曝露により肝臓をはじめとする様々な組織で誘導合成されることが知られているが、血管周囲脂肪組織(PVAT)におけるMT誘導合成に関する知見はない。そこで今回、PVATのMT発現誘導に対するCdの影響を検討し、PVATのMT発現誘導における基礎的知見を得ることを目的とした。【方法】8週齢雄性C57BL/6JマウスにCd(1 mg/kg)を腹腔内投与し、3時間後に肝臓およびPVAT付き胸部大動脈を摘出した。さらに胸部大動脈は内膜画分、中膜と外膜画分、PVAT画分の3つの画分に分けた後、それぞれの組織からトータルRNAを抽出し、各遺伝子のmRNA量をリアルタイムRT-PCR法により測定した。【結果・考察】Cd投与3時間後の肝臓におけるMt1 および Mt2 mRNA量は、対照群に比べて約10倍と5倍にそれぞれ有意に増加した。このとき、胸部大動脈から分画した内膜画分ではMt1および Mt2 mRNA量が対照群と比較してそれぞれ約15倍と8倍、中膜と外膜画分ではMt1 mRNA量が約5倍、さらにPVAT画分ではMt1および Mt2 mRNA量がそれぞれ約5倍と4倍に有意に増加していた。以上の結果から、Cdは肝臓と同様に胸部大動脈の内膜組織並びに中膜と外膜組織、加えてPVATにおいても曝露後速やかにMTの発現を誘導することが明らかとなった。MTは有害金属の解毒作用や活性酸素種の消去作用などを示す生体防御因子の一つであることから、PVATをはじめとする血管組織でのMT合成誘導は、Cdによる血管毒性発現の防御に寄与している可能性が考えられる。
著者
徳本 真紀 李 辰竜 藤原 泰之 佐藤 雅彦
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第44回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-50, 2017 (Released:2018-03-29)

【目的】カドミウム (Cd) は、鉄の体内動態に影響を及ぼすことが報告されているが、その機構はほとんど検討されていない。そこで本研究では、Cdを慢性曝露したマウスにおける肝臓中鉄濃度および十二指腸中の鉄輸送関連遺伝子の発現変動を検討した。【方法】5週齢の雌性C57BL/6Jマウスに300 ppmのCdを含有した餌を21ヶ月間自由摂取させた。経時的に血清、肝臓および十二指腸を採取し、各種解析に用いた。十二指腸は胃の直下2 cmとした。【結果および考察】Cd曝露によりGOT・GPT活性およびBUN値が有意に高値を示したため、肝毒性並びに腎毒性が出現していることが示された。Cd曝露群の肝臓中Cd濃度は300 µg/g以上となり、投与期間に依存して増加したが、肝臓中の鉄濃度は対照群の50%以下となり顕著な低値を示した。次に、十二指腸における鉄輸送関連遺伝子の発現レベルを測定した。非ヘム鉄 (Fe3+) は十二指腸刷子縁膜上でDuodenal cytochrome b (Dcytb) により二価に還元され、Divalent metal transporter 1 (DMT1) により小腸上皮細胞内に取り込まれる。CdはDMT1 mRNAレベルに影響を及ぼさなかったが、Dcytb mRNAレベルを曝露期間を通じて有意に減少させた。また、葉酸輸送体であるHeme carrier protein 1 (HCP1) はヘム鉄 (Fe2+) の輸送にも関与することが知られているが、HCP1 mRNAレベルはCdの曝露期間を通じて有意に低下した。以上の結果から、Cdは十二指腸における鉄吸収機構に影響を及ぼしてヘム鉄・非ヘム鉄の吸収をともに阻害し、生体内鉄蓄積量を減少させることが示唆された。