著者
吉野 公喜 佐藤 正幸
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.10-19, 1983-12-29 (Released:2017-07-28)

補聴器の装用により、明らかに域値の上昇(聴力の低下)が認められ、装用を休止することによって、域値の下降(聴力の回復)が認められる現象を、「聴力の可逆的低下」と規定した。この域値の可逆的低下が典型的に認められる両側感音難聴者に、聴力測定条件を一定として、昭和56年10月より昭和57年9月までの1年間に測定をくりかえし、域値の上昇過程と下降過程及びそれに及ぼす使用補聴器の周波数レスポンスの影響に検討を加えた。本症例で得られた知見は、次のようにまとめられる。(1)本症例にみる「聴力の可逆的低下」は、1000Hz、2000Hzを中心とした谷型を呈しており、低下のみられる周波数域は、使用補聴器の周波数レスポンスのピークにみられる音響的特徴と無関係ではない。(2)音響利得を45dBと一定に保つとき、補聴器装用による域値の上昇は、20dBを越えなかった。(3)域値の上昇過程と下降過程とを観察するとき、域値の上昇にくらべ、その下降(回復)には、多くの時間を要した。本症例にあっては、域値の回復には、2週間の休止が必要とされた。(4)本症例にあっては、装用耳の域値の上昇と非装用耳の域値の下降をくりかえしながらも、単音節に対する最高受聴明瞭度は、右耳で、100%(67語表)、86%(57語表)、左耳で95%(67語表)、82%(57語表)を示した。連続話声に(入力音圧70〜75dB)に対する。preffered listening levelは、116〜120dB(SPL)であり、増幅音声に対する有効性の高いことが示された。
著者
李 尚禧 吉野 公喜 蘆原 郁
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.1-9, 1998-11-30
被引用文献数
1

聴覚障害者の語音識別能力における個人差の原因を解明することは、聴覚障害児・者の言語訓練・聴能訓練プログラムの開発において重要である。本研究では、聴覚障害者の母音ホルマント周波数の弁別能力と語音識別能力との関係を明らかにすることを目的とした。感音聴覚障害者12名を被験者として、自然音声の日本語母音の第2ホルマント周波数を人工的に変化させた加工音声を作製し、実際の音声知覚により近い状態におけるホルマント周波数の弁別閾値の測定を行った。その結果、ホルマント周波数の弁別能力と語音識別能力の間には高い相関関係が見られ、語音識別におけるホルマント周波数の弁別能力の重要性が示唆された。また、平均聴力レベルとホルマント周波数の弁別閾値の間には必ずしも一致が見られないことが示された。