著者
君島 利治 Toshiharu Kimijima
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.13-20,

ラーキンの「広く感じのいい店」は,1961年6月18日に完成し,詩集『降臨節の婚礼』に収められる。5行1連の4連構成,僅か20行の短詩であり,詩人の住んでいたハルにある百貨店が舞台となっている。先ず,その店で売られている安物衣類を観察しながら,詩人は労働者階級の社会における立場の向上によって引き起こされた,階級間のボーダレス化を嘆いている。次に女性物の夜着を詳細に観察しながら,詩人は量産化される労働者階級の生活様式,その本質の軽薄さを批判する。その後の瞑想では,プラトニックな恋愛を擁護すると共に,肉体的な愛のみを重視する女性達を非難している。同時に階級間のボーダレス化は女性によって引き起こされたとも指摘し,女性の家庭,社会での立場が強くなったことに警告を発している。更にはこの詩の中には詩人の性的関心,自慰的衝動も確かに存在している。最終部分に出てくる「恍惚」とは,セックスにおける恍惚状態,階級が上がったと錯覚すること,自慰における射精と多義的に解釈できる。しかし,いずれの場合も「合成的で,真新しく,本質が欠如している」。店で売られている商品を見て回るというありふれた内容の詩ではあるが,そこに隠された詩人の意図は複雑である。少なくとも,プラトニックな恋愛を擁護する詩人の建前の奥には,薄手で派手な色のベビードールやショーティをじっくりと観察し,場合によっては勃起すらしているかもしれない詩人の姿を読み取らねばいけない。Larkin's The Large Cool Store' was finished on June 18, 1961, and then included in The Whitsun Weddings (1964). It is just a 20-line poem which consists of 4 stanzas, each 5 lines, and its scene is set at a department store in Hull, the city in the middle-east England where the poet lived until his death. First, the poet observes "cheap clothes" sold at the store, and he deplores the borderlessness among the classes which was caused by the rise of the social status of the working class. Next, the poet observes "Baby-Dolls and Shorties" in detail, and he criticizes the mass-produced life style of the working class and its frivolity. And then, in his meditation, the poet supports Platonic love and criticizes women who only prefer sensual love. At the same time, the poet thinks the borderlessness among classes is also caused by women, and cautions against the rise in domestic and social status. Further more, it is clear that the poet expresses sexual interest and masturbatory impulse in the poem. The word "ecstasies" in the last line can be interpreted in various ways:a sexual ecstasy in their literal sense, an illusion of the working class people that they must be in a class higher than what they are, and an ejaculation after masturbation. However, whichever interpretation you take, it is just "synthetic, new, and natureless". Although this poem has the ordinary context that the poet looks around a department store, it also has the hidden complex intention of the poet. At least, we readers should conceive that, though the poet supports Platonic love, it is just his principle, so in fact, he must have an erection when he stares at the thin, gaudy-coloured "Baby-Dolls and Shorties".
著者
君島 利治
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.152-159, 2008-09-16

この拙論は,フィリップ・ラーキンの詩「かなり悪い事態」の三つの読み方を提示し,この詩の解釈の可能性,その広がりについて論考したものである。一般的に,この詩は日常的な失敗から自分の運のなさ,敗北感を感じるというごくありふれた内容によって,ラーキン的な運命論や宿命論を導き出している。しかしその奥には,詩作に行き詰まり癇癪を起こした詩人が,ふと我に帰り詩作の可能性を見出し,自分を鼓舞する詩とも解釈できる。さらにメタファやイメージを最大限に生かして拡大解釈すると,この詩は性的な内容に溢れ,自分の恋人達との性交の場面を描写している詩とも解釈できる。これら三つの解釈のどれが最もふさわしいかは,やはり読み手に委ねられてしまうわけではあるが,既述した読み方が進むに連れ,詩人の真意に近づいているのではないかと考えられる。
著者
君島 利治
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.13-20, 2005-06-20

ラーキンの「広く感じのいい店」は,1961年6月18日に完成し,詩集『降臨節の婚礼』に収められる。5行1連の4連構成,僅か20行の短詩であり,詩人の住んでいたハルにある百貨店が舞台となっている。先ず,その店で売られている安物衣類を観察しながら,詩人は労働者階級の社会における立場の向上によって引き起こされた,階級間のボーダレス化を嘆いている。次に女性物の夜着を詳細に観察しながら,詩人は量産化される労働者階級の生活様式,その本質の軽薄さを批判する。その後の瞑想では,プラトニックな恋愛を擁護すると共に,肉体的な愛のみを重視する女性達を非難している。同時に階級間のボーダレス化は女性によって引き起こされたとも指摘し,女性の家庭,社会での立場が強くなったことに警告を発している。更にはこの詩の中には詩人の性的関心,自慰的衝動も確かに存在している。最終部分に出てくる「恍惚」とは,セックスにおける恍惚状態,階級が上がったと錯覚すること,自慰における射精と多義的に解釈できる。しかし,いずれの場合も「合成的で,真新しく,本質が欠如している」。店で売られている商品を見て回るというありふれた内容の詩ではあるが,そこに隠された詩人の意図は複雑である。少なくとも,プラトニックな恋愛を擁護する詩人の建前の奥には,薄手で派手な色のベビードールやショーティをじっくりと観察し,場合によっては勃起すらしているかもしれない詩人の姿を読み取らねばいけない。