著者
吹上 裕樹
出版者
社会学研究会
雑誌
ソシオロジ (ISSN:05841380)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.63-81, 2018-10-01 (Released:2021-07-10)
参考文献数
25

インターネットの普及や消費市場のグローバル化を背景に、今日の人々の音楽的活動は、ますます多様化・流動化してきている。いまや、私たちはあらゆる時代のあらゆる地域の音楽をインターネットをつうじて利用することができる。 こうした状況のなか、社会学は、人々の多様な音楽的活動を把握するのに相応しい、あらたな理論的枠組みを必要としている。本稿は、そのような枠組み構築に資する知見を、A・エニョンの社会学の検討をつうじて探求する。エニョンは、音楽を中心的な研究対象としてきた社会学者である。エニョンの音楽研究の特徴は、ジャンルの区分に縛られることなく、音楽の生産者と消費者、それらの間にある多様なメディア・技術・制度を横断的に検討している点にある。エニョンはフランスの社会学者であるが、その仕事の主要な部分は英語に翻訳され、国際的な影響力をもつようになってきている。一方日本では、エニョンの名前はまだそれほど知られていない。このことから、本稿ではまず、エニョンの議論の出発点となる美学主義と社会学主義の相克をめぐる問題を簡潔にふり返る。つづいて、エニョンの議論を理解す るうえで鍵となる「媒介(mediation)」の概念について詳しく検討する。そのうえで、音楽社会学の関連領域における近年の音楽研究の発展とエニョンの議論との接合を図る。最後に、現代における人々の音楽をはじめとする文化的活動をよりよく理解するために、エニョンの議論が重要であることを確認する。