著者
告 恭史郎
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.55, no.12, pp.1168, 2019 (Released:2019-12-01)
参考文献数
2

アセチルサリチル酸(アスピリン)は,1899年に販売が開始された最も古い化学合成医薬品であり,現在も世界中で解熱鎮痛薬として汎用されている.1970年代,アスピリンの薬理作用が,「cyclooxygenase(COX)の酵素活性を阻害し,プロスタグランジンの産生を抑制する」と見いだされたのを皮切りに,数多の非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs: NSAIDs)が開発された.しかし,アスピリンは後に開発されたNSAIDsとは異なり,COXの活性中心のセリン残基をアセチル化することで,その酵素活性を不可逆的に阻害するという極めて特異な作用機序を有する化合物である.本稿では,アスピリンの新規標的分子として,cyclic GMP-AMP合成酵素(cGAMP synthase: cGAS)を見いだし,本薬がCOXではなくcGASのアセチル化を介して,自己免疫疾患の治療効果を発揮することを示したDaiらの論文を概説したい.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Dai J. et al., Cell, 176, 1447-1460(2019).2) Dou Z. et al., Nature, 550, 402-406(2017).