著者
阿部 貴恵 近藤 美弥子 岡田 和隆 亀崎 良介 和田 麻友美 北川 善政 山崎 裕
出版者
北海道歯学会
雑誌
北海道歯学雑誌 (ISSN:09147063)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.127-131, 2014-03

口腔内セネストパチーは,口腔内の異常感を奇妙な表現で執拗に訴える病態で,難治性の疾患とされている.今回,口腔内にさまざまな異物の存在を訴え続けた75歳の女性に対し,心身医学的対応により症状の消失までには至らなかったものの,寛解が得られた症例を経験したので報告する. 主訴は,口の中から砂が出てきて口内全体に張り付くであった.カンジダ除菌後,口内には口腔乾燥以外の異常所見を認めなかったが,以後,「丸い塊」「フイルム」「六神丸」「セロハン」「ブドウ」様の異物が口内に出現すると感じるようになり,それを吐き出さずにはいられず,外出も困難になった.向精神薬や抗うつ薬を投与したが効果なく,精神科に紹介したが具体的な治療は行われなかった.当科での治療を引き続き希望したため,薬物療法は止め,発症の契機が疑われた長男の嫁との不仲を和解させ,好きなパチンコに行けるように生活指導を根気よく行ったことで,異物は完全には消失していないものの,症状は改善した.
著者
和田 麻友美 山崎 裕 村井 知佳 中村 裕介 佐藤 淳 秦 浩信 北川 善政
出版者
北海道歯学会
雑誌
北海道歯学雑誌 (ISSN:09147063)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.106-113, 2014-03

非定型歯痛(Atypical Odontalgia: AO)は,明確な原因がないにもかかわらず歯やその周囲に疼痛を訴える疾患であり,歯科医師は診断や治療に苦慮することが多い.当科で診断したAO症例の臨床経過および治療効果を明らかにする目的で後ろ向き研究を行った. 対象は2010年1月から2012年5月の期間に,当科で最終的にAOと診断した22例(男性:5例,女性:17例,平均年齢:54歳)であった.主訴は歯痛9例・抜歯後疼痛6例・歯肉痛5例・インプラント術後疼痛1例・上下顎の顎骨疼痛1例であった.病悩期間は半年未満9例(41 %)・半年~1年3例(14 %)・1年以上10例(45 %)であった.全例が当科受診前に他の歯科医療機関を受診していた.前医で行われた治療は,歯内療法・歯周療法・レーザー照射・スプリント療法・補綴療法・薬物療法など多岐にわたっていた. AOの臨床診断のもと,13例に対して当科で薬物療法を行った.使用した薬物は,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitor, SSRI:10例),ベンゾジアゼピン系抗不安薬(benzodiazepine derivative, BZD:9例)の順に多く,これらのうち7例が両者の併用例であった.治療効果は13例中7例(54 %)で疼痛の改善が認められた.改善した7例のうち,6例はSSRIとBZDとの併用療法であった. SSRIとBZDの併用による薬物療法はAO症例に有効である可能性が示された