著者
唐木田 健一
出版者
科学基礎論学会
雑誌
科学基礎論研究 (ISSN:00227668)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.17-21, 1983-12-25 (Released:2009-07-23)
参考文献数
13

我々は主として量子論の発生と展開を対象とし, 理論変化の過程を考察した。我々の結論は次のようにまとめることができる : 自然科学における基本理論の変化とは, (1) 伝統的理論に対抗して新理論が出現し, それが何らかの事情で多数派を形成してゆき旧理論が廃棄されるという過程ではなく, (2) 伝統的理論が《自滅》していく過程であること。イ) ここにおける自滅とは理論内部の矛盾に基づくものであり, ロ) 理論の外から, すなわち競合する理論あるいは伝統的理論を反証する実験事実によって, もたらされたものではないこと。(3) 理論は自滅によって完成される (すなわち限界づけられる) こと。(4) 理論の自滅の過程は同時に新理論の誕生と確立の過程とも呼ばれること。
著者
唐木田 健一 Ken-ichi KARAKIDA 富士ゼロックス株式会社ITデバイス研究所 Intelligent Devices Lab Fuji Xerox Co. Ltd.
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 = Journal of the Japan Information-culture Society (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.29-36, 2001-12-10
参考文献数
17
被引用文献数
1

水越伸は,その著書『メディアの生成』のなかで,無線電話という新しい技術がラジオ放送という新しいメディアに結実していく過程を多面的に記述した。そこにおいては,新しいメディアは,まずは既存のメディアの延長上でとらえられ,社会的に共有される。しかしながら,それが展開されるうちに,当初のビジョンは実態とのズレを生じる。そして,そのズレを原動力として,新しいメディアの生成が導かれる。本稿では,水越のこの観察を紹介するとともに,それが新しい秩序(思想,理論,様式,など)の生成機構に関して高い一般的意義を有すること,とりわけ自然科学における基本理論の形成過程ときわめてよく対応することを示した。また,このような創造過程に関わる日本社会の問題点を論じた。Shin Mizukoshi described in his book, "Formation of Media" (in Japanese, Tokyo, 1993), the detailed process that a new technology, wireless telephone, developed into a new medium, radio broadcasting. In this process, the new technology was first accepted in the framework of the existing media, and shared in the society. However, in the development process, the first vision about the technology showed inconsistencies with the actual situation, which drove the technology into the formation of the new medium. The present paper shows the general significance of Mizukoshi's observation, in particular its great similarity with the process of the formation of fundamental theories in sciences. The problems of Japanese society concerning such creation processes were also discussed.