著者
平澤 洋一 松永 公廣 鄭 淑源
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 = Journal of the Japan Information-culture Society (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.52-59, 2011-07-31
参考文献数
18

日本の言語地理学は音韻・文法・語彙・人間行動などさまざまな特徴を手がかりにして調査語の分布を地図に描くことで,新旧・優劣・変化過程・伝播方向・方言区画などを明らかにしてきた。また,文化言語学は「言語は文化を映している」として,日本文化に関するさまざまな調査結果を提示してきたが,日本全域の文化圏の深層を地図上に描いた文献は管見に入らない。本研究は日本文化圏の深層,および現在にいたる歴史的変化過程をいくぶんなりとも明らかにすることを目的とする。本稿はその第一段階をなす。
著者
大井 奈美 Nami OHI 東京大学大学院学際情報学府 Graduate School of Interdisciplinary Information Studies The University of Tokyo
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 = Journal of the Japan Information-culture Society (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.7-15, 2012-08-31
参考文献数
20

本稿は,俳人,俳句結社などの俳句共同体,俳句メディアという多様な存在の相互関係から生じるコミュニケーションの観点から,俳句現象を包括的に理解しようと試みるものである。このように個々の自律的な存在のはたらきに留意しながら,同時にそれら個々の存在のはたらきのみには還元しきれない現象の全体(「システム」)にも目を向けようとする分析視角は,従来,「セカンド・オーダー・サイバネティクス」と総称されてきた研究分野に含まれる。本稿ではそのうち,とくに「基礎情報学」にもとづいて,新傾向・無季自由律俳句と伝統派俳句とをとりあげ,俳人,俳句共同体,俳句メディアなどによる複合的な影響を考慮しながら通時的分析をおこなうことで,豊穣な近現代俳文学史の一端を多層的観点から再考した。その結果,俳文学史は,俳句コミュニケーション創出機構の変遷,すなわち「俳句システムの進化」として理解された。その核心にあったのは,俳句批評の創出や俳句理論の変容などとしてあらわれた,俳句コミュニケーション創出機構の自覚化(俳句システムによる「二次観察」)であり,それには,作家のみならす,メディアや結社制度もまた大きな役割を果たしていたことが明らかになった。This study aims to understand haiku phenomena inclusively, from the viewpoint of communication, which emerges from reciprocal relationships among haiku poets, haiku societies, media on haiku, and other establishments relating to haiku. Such an analytic point of view, which tries to consider both operation of each autonomous agent and that of a whole system consisted by the agents, is included in the realm of second order cybernetics. The operation of a system cannot totally be reduced to that of a system's components and that is why such a viewpoint is required. Fundamental informatics, which in the same study field is employed as a theoretical framework and two haiku movements, which include Shin-keiko-haiku (the new trend haiku) and Dento-ha-haiku (the Hototogisu school haiku) forming an important part of modern haiku history, are focused in this study. As a result, modern haiku history is considered to be the evolution of a haiku system, whose main incentive is awareness of production mechanism of haiku communication, which is occurred through second order observations by a haiku system. This study also illuminates how haiku poets, haiku societies and media on haiku take part in the evolution of a haiku system.
著者
茜 拓也
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 = Journal of the Japan Information-culture Society (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.48-54, 2006-08-31
参考文献数
27

1990年代半ば以降,インターネットという新しい技術に象徴される情報通信技術の進展によって,ジャーナリズム活動がマス・メディアだけの問題ではなくなった。これまではマス・メディアが発信する情報の受け手に甘んじてきた人々が自分の求める情報を検索したり,対話的に情報を処理したり,自ら情報発信や意思決定の主体になったりするなど,能動的な情報行動が可能となった。また,マス・メディア側も,失った市民の信頼を回復しようと,米国のパブリック・ジャーナリズムに見られるように,このような能動的な情報行動を行う人々との往復運動の中で,オーディエンスとの双方向性,オーディエンス同士の多方向性を重視したジャーナリズム活動を実践し始めた。そこで,本論文では,日本においてインターネットのウェブログを活用しながらパブリック・ジャーナリズムを実践している既存のマス・メディア,特に地方新聞社による新たな取り組みの一つとして,神奈川新聞社のウェブログ「カナロコ」と中国新聞社の「ふれあい」を取り上げる。そして,「世論」という概念から検討し,日本におけるパブリック・ジャーナリズムの一モデルを提示し,その可能性について論じたい。
著者
水野 加寿 柴岡 信一郎 鳥谷尾 秀行 小林 裕光 渋井 二三男
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 = Journal of the Japan Information-culture Society (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.53-59, 2011-12-13
参考文献数
13

高齢者、障害者、生活習慣病者等の社会的弱者を対象とする"WAPT:プールリハビリ講座開設"を基軸とする市民参加型社会福祉健康文化プログラムを実施していくなかで、市民の健康増進を計り運動の日常化を推進し、健康意識の向上による健康への自己管理意欲をたかめることを目的に、講座開設をモデル化し、プログラム内容の充実と定着をはかり、講座開設の継続と広がりを促進する。また、上述する要旨の具体化として"水中リハビリ運動教室"を開催し、参加者に対し運動機能テストおよび体組成測定をおこない水冶運動療法訓練による生理的応答の変化を臨床的に考査した。こうした市民参加型社会福祉健康プログラムの取り組みがモデル化され具現化されることによって地域社会の活性化が促進されるものと考える。
著者
佐野 昌己
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 = Journal of the Japan Information-culture Society (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.88-93, 2006-08-31
参考文献数
17

本稿は,日本製アニメ(以下,日本アニメ)の制作に3次元コンピュータグラフィックス(以下3DCG)技術を持つ人材の育成が重要であることに注目し,次世代の3DCG技術者を生み出す方策を見出すことを目的としている。日本アニメは,国内はもちろん海外から高い評価を得ているだけでなく,有力なビジネスとして政府や経済界からも注目されている。しかし,アニメ産業は深刻な人材難と後継者問題を抱えており,各方面からの期待に応えるどころか自身の改革に迫られているのである。そして,このアニメ産業の諸問題を技術面から変革するのが3DCGであり,今後益々人材が必要となるのである。そこで,本稿において日本アニメの現状を考察し人材不足の要因を示す。そして,3DCGが人材不足という難題を解決するために重要な役割を果たすことができることを明らかにする。さらに,今日の3DCGの普及に大きな影響を与えた日本の商業CG先駆者達が,CG制作に惹きつられた動機を,直接インタビューすることから調査することで,次世代3DCG制作者育成について考察する。
著者
戸田 淳
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 = Journal of the Japan Information-culture Society (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.49-54, 2010-09-07
参考文献数
18

インターネット広告は,「広告」と呼ばれていながらもその本質は従来の広告とは大きく異なるものであることを,その歴史研究を通じて明らかにした。なぜインターネット上で広告ビジネスが展開されるようになったのか。その後に生じた広告主やインターネット利用者の姿勢の変化が,広告のあり方にどのような影響を及ぼしてきたのか。こうした点に着目し,わが国のインターネット広告の歴史を検証した。その結果,今後の広告活動においては,その広告効果は広告を掲載するメディアの集客力によって決まるものではなくなり,広告メッセージそのものがコンテンツとしてどれだけの魅力を持っているかにより決定されるものとなっていくであろう,という結論が得られた。
著者
吉田 友敬 中西 智子 Tomoyoshi Yoshida Satoko Nakanishi 名古屋大学大学院人間情報学研究科 三重大学教育学部 Graduate School of Human Informations Nagoya University School of Education Mie University
雑誌
情報文化学会誌 = Journal of the Japan Information-culture Society (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.43-50, 1996-11-01

音楽において, リズムのゆらぎは, 音楽の流れに乗ることや, 音楽的感動にとって大切な要素である。このゆらぎの本質的な要因は何であるか。特にゆらぎのスペクトル解析に関しては, 武者等の研究がある。その中で, メトロノーム等に合わせることなく, 自由に拍打ちをする, フリータッピングにおいて, 1/fゆらぎが見出されている。本研究では, この方向を発展させて, 実際の楽曲に合わせて拍打ちをする実験を行った。その結果, 新たに1/fゆらぎが見出され, 人間的なリズムのゆらぎが私たちの感性に対して重要な意味を担っていることが推測される。また, いくつかの例において, リズムのゆらぎと引き込み同調の関連が示唆される。
著者
唐木田 健一 Ken-ichi KARAKIDA 富士ゼロックス株式会社ITデバイス研究所 Intelligent Devices Lab Fuji Xerox Co. Ltd.
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 = Journal of the Japan Information-culture Society (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.29-36, 2001-12-10
参考文献数
17
被引用文献数
1

水越伸は,その著書『メディアの生成』のなかで,無線電話という新しい技術がラジオ放送という新しいメディアに結実していく過程を多面的に記述した。そこにおいては,新しいメディアは,まずは既存のメディアの延長上でとらえられ,社会的に共有される。しかしながら,それが展開されるうちに,当初のビジョンは実態とのズレを生じる。そして,そのズレを原動力として,新しいメディアの生成が導かれる。本稿では,水越のこの観察を紹介するとともに,それが新しい秩序(思想,理論,様式,など)の生成機構に関して高い一般的意義を有すること,とりわけ自然科学における基本理論の形成過程ときわめてよく対応することを示した。また,このような創造過程に関わる日本社会の問題点を論じた。Shin Mizukoshi described in his book, "Formation of Media" (in Japanese, Tokyo, 1993), the detailed process that a new technology, wireless telephone, developed into a new medium, radio broadcasting. In this process, the new technology was first accepted in the framework of the existing media, and shared in the society. However, in the development process, the first vision about the technology showed inconsistencies with the actual situation, which drove the technology into the formation of the new medium. The present paper shows the general significance of Mizukoshi's observation, in particular its great similarity with the process of the formation of fundamental theories in sciences. The problems of Japanese society concerning such creation processes were also discussed.
著者
平澤 洋一
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 = Journal of the Japan Information-culture Society (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.17-26, 1997-09
参考文献数
6

文化の発達につれて民族は色彩基本語の数を増やしていき, 文化度と主要色彩語との間には高い相関性がある, とバーリン・ケイはいう。また, このような普遍論には相対論からの反論が出され, 論争を繰り返してきた。本稿では, 文献調査と実態調査をもとに, 意味論の立場から外界と認知と意味領域の問題を再検討し, 普遍論では説明のつかない言語事実を提示した。そして, 日本語の色彩系列では「青」が鍵になることをつきとめた。
著者
設樂 剛 桑原 武夫
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 = Journal of the Japan Information-culture Society (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.42-51, 2011-07-31
参考文献数
33

本研究は,ブランディングにおける物語の効果を実証的に検討するものである。ここではロレックスに焦点をあて,物語が,生活者の好感度および購買意欲の変化に与える影響について,実験的方法を用いて明らかにした。物語論の観点から,物語の構成要素として,語り手,世界観,登場人物が設定された(本論では,語り手に,ロレックス社社長,大学教授,フリー・ライターを,世界観に,社会的責任,オープンな革新性を強調する世界観を,また同社を支持する登場人物として,著名人集団,不特定多数のクラウドを配した)。これら各要因と水準を組み合わせ,計12条件の物語を作成した。本研究では,語り手,世界観,登場人物を説明変数とし,生活者の好感度と購買意欲を目的変数として,3元配置分散分析を行った。その結果,好感度に対する効果として,語り手および登場人物で主効果が,語り手と登場人物で交互作用効果が有意であった。また購買意欲に対する効果として,世界観で主効果が有意であった。物語ごとの効果の相違が明らかになり,相対的に小さな効果にとどまる物語が特定される一方,同社が現在採用している物語以外に,より効果の高い物語が存在することを示した。
著者
西本 紫乃
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 = Journal of the Japan Information-culture Society (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.45-52, 2011-12-13
参考文献数
32

情報の自由な流通について制約のある中国において,近年インターネットが「公共圏」として「市民社会」の発展をうながすか,という可能性に関心が高まっている。ただし,少なからぬ研究者によって「市民社会」の概念については中国社会の特質を考慮すべきであるとの指摘がなされている。本稿では,中国のインターネット空間における流行語に着目した。インターネット・ユーザーがやりとりする象徴的な言葉から,その公共性と世論形成についての実態をさぐり,中国社会の文化的文脈の影響と「市民社会」の生成の可能性について考察する。
著者
村上 幸雄
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 = Journal of the Japan Information-culture Society (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.42-52, 1997-09
参考文献数
3
被引用文献数
1

A.Toffler's "The Third Wave" means the opening of a new erea of information culture. On the other hand, in this paper, "The Fourth Wave" overlapped with the preceding third wave is predicted. In this coming Fourth Wave, we ourselves should change into a new creative information source, in other words, a new human race. In order to achieve this objective, the author suggests, at the end of this paper, the importance of putting practical use of orthomolecular psychiatry as the most powerful and leading methodology.
著者
緒方 啓孝 小山 嘉紀 岡部 一光 小宮山 哲 張 英恩 藤野 猛士 横田 一正
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 = Journal of the Japan Information-culture Society (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.68-73, 2011-12-13
参考文献数
23

様々な業種において,笑いや笑顔が重要であるとされている。特に介護施設では,職員の笑顔による環境の改善が望まれている。しかし,笑顔を客観的に容易に評価する一般的手法がないため,笑顔を身に付けるための効果的な教育や指導,訓練等を行うことが難しいという問題がある。笑顔の客観的評価の一手法として,画像処理技術を用いた方法があるが,感情の表出の一つである笑顔をICTにより判定を強制することへは批判も見られる。本研究では,介護施設の職員を対象としてICTを利用した笑顔判定を行い,実際に判定を受けた職員に対して意識調査を実施した。特定施設入居者生活介護事業や訪問介護事業所等,それぞれ異なる介護サービスを提供する6事業所の職員を対象に,笑顔判定の実験および質問紙調査を実施した。質問紙調査の結果に対して因子分析・テキストマイニング分析を行った。その結果,笑顔に対して興味・関心を持ち,笑顔への自信や意識の向上,笑顔への興味・関心の向上が確認できた。また,ICTを用いた笑顔判定を職員は楽しみながら行ったことが分かった。
著者
森山 賀文 飯村 伊智郎 中山 茂
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 = Journal of the Japan Information-culture Society (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.6-10, 2008-12-05
参考文献数
9
被引用文献数
1

組合せ最適化問題とは,数多くの組合せの中から最適な解を求める問題であるが,問題の規模によっては現実的な時間内に厳密な解を求めることが困難となる場合がある。このような厳密な解を求めることが現実的に困難になるとき,準最適解を可能な限り高速に求める近似的解法が用いられる。その一つとしてアントコロニー最適化(Ant Colony Optimization: ACO)が知られている。しかしながら,ACOの最も基本的なAnt System(AS)を実装する場合でも,アリの群知能に関する知識が必要であり,それらをシミュレートするために煩雑なコーディング作業をプログラム開発者が行う必要がある。そこで本論文では,そのコーディングの煩雑さを軽減し,一般ユーザでもASを容易に適用できる環境構築を目的として,ACOのためのAnt言語を提案する。提案するAnt言語を巡回セールスマン問題に適用した結果,プログラムのステップ数とファイルサイズの大幅な削減ができ,コーディングの煩雑さを軽減することができた。