著者
唐澤 健太 春原 則子
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.421-428, 2019-12-31 (Released:2021-01-04)
参考文献数
17
被引用文献数
1

視床出血後にタイピング困難を主訴とした 1 例を経験した。失語, 失行, 失認は認めなかった。知的機能は良好だが, 処理速度に低下があると考えられた。発症 2 ヵ月後に, 音韻操作, 書字, タイピング能力の評価を実施した。結果, 音韻操作, 仮名書取, 仮名のローマ字への変換書字は良好だが, ローマ字書取で誤りを認めた。また, ローマ字音読においても誤りが認められた。本例は音韻表象とローマ字表象の双方向の情報処理過程が障害され, この影響により本例が訴えていたタイピングの困難さに繋がっていたのではないかと考える。また, 書字に比しタイピングが有意に保たれていた点は, 障害された音韻表象から文字表象への変換過程を, 音韻表象から直接運動エングラムへ変換する, いわゆる手続き記憶による処理過程が補うことでキー操作が行われていたためではないかと考える。
著者
唐澤 健太 春原 則子 森田 秋子
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.242-249, 2015-06-30 (Released:2016-07-01)
参考文献数
19
被引用文献数
1

仮名一文字や仮名単語の音読は比較的良好だが, 仮名非語の音読に著明な障害を示す音韻失読の 1 例を経験した。単語音読では同音擬似語効果を認め,転置非語において語彙化錯読を多く認めた。音韻操作課題ではすべての検査において成績の低下を認め, 特に単語の逆唱のような音韻操作に負荷がかかる課題で誤りが多くみられた。また, 単純動作を指示された通りに素早く繰り返す課題では, 異なる順序に誤る傾向を認めた。訓練として, 文字を使用しない音韻操作課題と順序情報処理課題を約 3 週間実施した。 その結果, この間音読訓練はまったく実施しなかったにもかかわらず非同音非語の音読が有意に改善し, 音韻操作課題,順序情報処理課題ともに成績が向上した。本例における非語音読の改善は, 音韻操作と順序情報処理のいずれか, あるいは双方へのアプローチによる可能性が大きいと考えられた。