著者
後藤 多可志 宇野 彰 春原 則子 金子 真人 粟屋 徳子 狐塚 順子 片野 晶子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.38-53, 2010 (Released:2010-04-16)
参考文献数
72
被引用文献数
24 9

本研究の目的は, 日本語話者の発達性読み書き障害児における視覚情報処理過程を体系的に評価し発達性読み書き障害の背景となる認知障害構造を明らかにすることである. 対象は日本語話者の発達性読み書き障害児20名と定型発達児59名である. 視機能, 視知覚, 視覚認知機能および視覚性記憶機能を測定, 評価した. 本研究の結果から, 視機能の問題は読み書きの正確性に大きな影響を与えないのではないかと思われた. 線分の傾き知覚と視覚性記憶機能は本研究で対象とした発達性読み書き障害児全例で低下していた. 視知覚と関連のあるvisual magnocellular systemとvisual parvocellular systemを検討した結果, 双方の視覚経路で機能低下を認める発達性読み書き障害児が20名中8名いた. 日本語圏の発達性読み書き障害児は海外での報告とは異なり2つの視覚経路の問題を併せもつことが多いのではないかと思われた.
著者
宇野 彰 春原 則子 金子 真人 粟屋 徳子 狐塚 順子 後藤 多可志
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.267-271, 2018-09-30 (Released:2019-10-02)
参考文献数
21
被引用文献数
3 1

発達性ディスレクシアでは, 読みだけの障害例は 40 年近く報告されていない。音読だけでなく書字にも障害が認められることから発達性読み書き障害と翻訳されることが多い。その背景となる認知障害について, 英語圏での音韻障害仮説を中心とする報告および他言語における共通点と相違点について解説し, 日本語話者の発達性ディスレクシア 84 名のデータに関して解説した。その結果, 日本語話者の発達性ディスレクシア児童・生徒の 65% 以上は複数の認知障害の組み合わせで生じており, 音韻障害のみが背景と思われる群は 20% 以下であり, 音韻障害のない群は 20% 以上とむしろ音韻障害を認めない発達性ディスレクシア例が多いことが分かった。
著者
宇野 彰 春原 則子 金子 真人 後藤 多可志 粟屋 徳子 狐塚 順子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.171-179, 2015 (Released:2015-05-21)
参考文献数
25
被引用文献数
15 2

ひらがな,もしくはカタカナ1モーラ表記文字に関して1年間以上習得が困難であった発達性読み書き障害児36名を対象として,音声言語の記憶力を活用した訓練方法を適用した.全例全般的知能が正常で,かつReyのAVLT (Auditory Verbal Learning Test)の遅延再生課題にて高得点を示していた小学生である.また,訓練開始前に練習をするとみずからの意思を表明していた児童,生徒である.訓練は,次に示す3段階にて実施した.すなわち,1)50音表を音だけで覚える,2)50音表を書字可能にする,3)文字想起の速度を上げる,であった.また,4)児童によっては拗音の音の分解練習を口頭で実施した.その結果,平均7週間以内という短期間にて,ひらがなやカタカナの書字と音読正答率が有意に上昇し,平均98%以上の文字が読み書き可能になった.さらに,1年後に測定したカタカナに関しては高い正答率が維持され,書字の反応開始時間も有意に短縮した.今回の症例シリーズ研究にて,良好な音声言語の記憶力を活用した練習方法の有効性が,正確性においても流暢性においても示されたのではないかと思われた.
著者
粟屋 徳子 春原 則子 宇野 彰 金子 真人 後藤 多可志 狐塚 順子 孫入 里英
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.294-301, 2012-06-30 (Released:2013-07-01)
参考文献数
25
被引用文献数
12 3

発達性読み書き障害児に対し, 春原ら (2005) の方法に従って漢字の成り立ちを音声言語化して覚える学習方法 (聴覚法) と書き写しながら覚える従来の学習方法 (視覚法) の 2 種の漢字書字訓練を行い聴覚法の適用を検討した。対象は発達性読み書き障害の小学 3 年生から中学 2 年生の 14 名で, 全例, 全般的知的機能, 音声言語の発達, 音声言語の長期記憶に問題はなかったが, 音韻認識や視覚的認知機能, 視覚的記憶に問題があると考えられた。症例ごとに未習得の漢字を選択し, 視覚法と聴覚法の 2 通りの方法で訓練を行い, 単一事例実験研究法を用いて効果を比較した。その結果, 2 例では両方法の間の成績に差を認めなかったが, 12 例では聴覚法が視覚法よりも有効であった。この 12 例はいずれも, 視覚的認知機能または視覚的記憶に問題を認めた。この結果は, 聴覚法による漢字書字訓練の適用に関する示唆を与えるものと思われた。
著者
三盃 亜美 宇野 彰 春原 則子 金子 真人 粟屋 徳子 狐塚 順子 後藤 多可志
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.218-225, 2018 (Released:2018-09-15)
参考文献数
11

本研究では,発達性ディスレクシアのある児童生徒(ディスレクシア群)を対象に,漢字を刺激とした文字/非文字判別課題と語彙判断課題を行い,定型発達児童生徒(定型発達群)の成績と比較して,視覚的分析と文字入力辞書の発達を検討した.文字/非文字判別課題では,実在字刺激に対してディスレクシア群と定型発達群の正答率に有意差は見られなかったが,実在字と形態が類似する非実在字に対してディスレクシア群の正答率は定型発達群よりも有意に低かった.また語彙判断課題においては,実在語,同音擬似語,実在語と形態が類似する非同音非語に対して,ディスレクシア群の正答率は定型発達群よりも低かった.実在語と形態が類似していない非同音非語に対しては正答率に有意差はなかった.以上の結果から,本研究のディスレクシア群の視覚的分析と文字入力辞書は定型発達群ほど発達していないと考えられた.
著者
唐澤 健太 春原 則子
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.421-428, 2019-12-31 (Released:2021-01-04)
参考文献数
17
被引用文献数
1

視床出血後にタイピング困難を主訴とした 1 例を経験した。失語, 失行, 失認は認めなかった。知的機能は良好だが, 処理速度に低下があると考えられた。発症 2 ヵ月後に, 音韻操作, 書字, タイピング能力の評価を実施した。結果, 音韻操作, 仮名書取, 仮名のローマ字への変換書字は良好だが, ローマ字書取で誤りを認めた。また, ローマ字音読においても誤りが認められた。本例は音韻表象とローマ字表象の双方向の情報処理過程が障害され, この影響により本例が訴えていたタイピングの困難さに繋がっていたのではないかと考える。また, 書字に比しタイピングが有意に保たれていた点は, 障害された音韻表象から文字表象への変換過程を, 音韻表象から直接運動エングラムへ変換する, いわゆる手続き記憶による処理過程が補うことでキー操作が行われていたためではないかと考える。
著者
渕田 隆史 春原 則子 今富 摂子 後藤 多可志
出版者
目白大学教育研究所
雑誌
目白大学高等教育研究 = Mejiro University Education Reseach (ISSN:21859140)
巻号頁・発行日
no.25, pp.117-125, 2019-03-31

言語聴覚士が対象者と行う会話は、ラポール形成のみならず対象者の言語症状やコミュニケーション能力の把握ならびに訓練課題として重要な意味を持つが、会話に苦手意識を持つ言語聴覚士を目指す学生は少なくない。言語聴覚学科(以下、本学科)では、学生の会話能力向上を目指したプログラムを実施し一定の成果を得ている。しかし、習得がなかなか困難な学生のいること、また、習得がしやすい側面と困難な側面のあることが明らかとなってきた。そこで今回、会話演習における評価点の高い学生と低い学生の会話特性について、聞き手役割の観点から詳細に分析した結果、成績上位群の発話ターンを中心に「あいづち+ 情報要求」パターンが抽出された。この聞き手ストラテジーの使用は「会話への積極的な関与」と「一つの話題の持続性」を示し、適切な会話展開の契機となっていた。しかし成績下位群の会話の分析から、「あいづち+ 情報要求」パターンを使用していても、質問内容が文脈上不適切であれば会話展開の契機とはならないということも示唆された。今回の分析により、会話演習における評価点の高い学生とそうでない学生との具体的な相違点が明らかとなった。
著者
石井 由起 春原 則子
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.422-428, 2018-12-31 (Released:2020-01-03)
参考文献数
19

複数の意味属性語の想起により目標語の喚語を促すSemantic Feature Analysis (SFA) による失語症の呼称訓練では般化や維持の報告が多い。しかし本邦での検討はほとんどない。今回, 慢性期流暢性失語症 2 例に SFA 訓練を行い, 訓練および維持効果, 非訓練語への般化を検討した。訓練前の呼称では, 両症例とも迂言がみられた。訓練は, 多層ベースラインをもとに 2 週に 1 回の頻度で 2 つのリストを実施し, 訓練前後に 100 語呼称を行った。その結果, ベースライン期 (基準期) に比べ訓練語の成績は有意に改善し, 維持期にも効果が持続した。非訓練語と 100 語呼称の成績も基準期より維持期で高かった。両症例の呼称の改善と般化には, SFA の手法を症例自身が self-generated cues として用いるようになったことの影響が考えられた。意味属性に関する語を有効な cue として活用するためにSFA の手法を意図的に用いるよう指導することの有用性が示唆された。
著者
蔦森 英史 宇野 彰 春原 則子 金子 真人 粟屋 徳子 狐塚 順子 後藤 多可志 片野 晶子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.167-172, 2009 (Released:2010-04-06)
参考文献数
20
被引用文献数
6 2 7

発達性読み書き障害は複数の認知的要因が関与しているとの報告がある (Wolf, 2000;宇野, 2002;粟屋, 2003) . しかし, 読み, 書きの学習到達度にそれぞれの情報処理過程がどのように影響しているのかはまだ明確になっていない. 本研究では全般的な知能は正常 (VIQ110, PIQ94, FIQ103) だが漢字と英語の書字に困難を示した発達性書字障害例について報告する. 症例は12歳の右利き男児である. 要素的な認知機能検査においては, 日本語での音韻認識力に問題が認められず, 視覚的記憶力のみに低下を示した. 本症例の漢字書字困難は過去の報告例と同様に, 視覚性記憶障害に起因しているものと考えられた. 英語における書字困難の障害構造については, 音素認識力に関しては測定できなかったが, 日本語話者の英語読み書き学習過程および要素的な認知機能障害から視覚性記憶障害に起因する可能性が示唆された.
著者
草野 みゆき 春原 則子 渡辺 基 百崎 良 安保 雅博
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.601-608, 2012-12-31 (Released:2014-01-06)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

慢性期失語症患者に対し短期間の集中的な言語訓練を実施し, その手法および効果について検討した。訓練は毎日40分×2回, 10日間個別に実施した。内容は 1) テーマを指定したスピーチ, 2) 症例ごとに設定した機能訓練, 3) PACE であった。また, 病棟スタッフとのコミュニケーション課題も設定した。介入前後に, SLTA, SLTA-ST (呼称) , Token Test, 失語症構文検査および日常生活上のコミュニケーション活動の状態に関する家族へのアンケート調査を行った。介入後, SLTA「聴く」以外で有意な改善を認め, 3 ヵ月後の評価でも6 項目中5 項目で成績は維持または改善がみられた。慢性期の失語症患者に対しても, その時点の言語機能の評価に基づいた集中的な介入を行うことによって, 言語機能や日常コミュニケーション能力に改善が得られることが示唆された。
著者
後藤 多可志 宇野 彰 春原 則子 金子 真人 粟屋 徳子 狐塚 順子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.187-194, 2014 (Released:2014-09-05)
参考文献数
26

本研究では,日本語話者の発達性読み書き障害児群を対象に有色透明フィルム使用が音読速度に与える影響を,明るさを統制しない場合の色の要因に焦点を当てて検討した.対象は8~14歳の発達性読み書き障害児と典型発達児,各12名である.音読課題(ひらがな,カタカナの単語と非語および文章)をフィルム不使用条件,無色透明フィルム使用条件および有色透明フィルム使用条件の3条件で実施し,音読所要時間を計測した.実験手続きは後藤ら(2011)に従ったが,有色および無色透明フィルム使用時に低下した刺激の表面照度の補正は行わなかった.両群ともに,所要時間はすべての音読課題において3条件間で有意差は認められなかった.明るさを統制しない場合でも有色透明フィルムの使用は発達性読み書き障害児の音読速度に影響を及ぼさない可能性が考えられた.
著者
宇野 彰 金子 真人 春原 則子 松田 博史 加藤 元一郎 笠原 麻里
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.130-136, 2002 (Released:2006-04-24)
参考文献数
33
被引用文献数
23 13

発達性読み書き障害について神経心理学的および認知神経心理学的検討を行った。はじめに, 読み書き検査を作成し健常児童の基準値を算出した。次に, 検査結果に基づいて 22名の発達性読み書き障害児を抽出し対象者とした。7~12歳までの男児 20名と女児 2名である。WISC-III, もしくは WISC-Rでの平均IQは 103.0, 言語性IQ 103.1, 動作性IQ 102.4であった。パトラック法による SPECTでは, 左側頭頭頂葉領域で右の同部位に比べて 10%以上の局所脳血流量の低下が認められた。音韻情報処理過程と視覚情報処理過程に関する検査を実施した結果, 双方の処理過程に問題が認められた児童が多かった。以上より, 発達性読み書き障害は局所大脳機能低下を背景とする高次神経機能障害であると思われ, 音韻情報処理過程の障害だけでなく, 少なくとも視覚情報処理過程にも障害を有することが多いと思われた。
著者
鈴木 香菜美 宇野 彰 春原 則子 金子 真人 WYDELL Takeo N. 粟屋 徳子 狐塚 順子 後藤 多可志
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.1-11, 2010-01-20
被引用文献数
3 5

本研究の目的は, 発達性読み書き障害児の診断評価の補助的な指標となる書字特徴を明らかにすることである. 対象は専門機関にて診断を受けた1年生から6年生の発達性読み書き障害児45名と, 定型発達児560名である. 小学生の読み書きスクリーニング検査のひらがな, カタカナ1文字と単語の書取課題にて分析した結果, 発達性読み書き障害児の書字特徴は, 特殊音節で誤りやすく, その誤りは学年が上がっても減少しにくい点, 低学年ではひらがなの単語よりも1文字で誤りが多い点, ひらがなに比べてカタカナの習得の遅れが著しい点であると思われた. 一方, 主に1年生から3年生でひらがな単語の心像性効果が両群で認められる可能性が示唆された. したがって, ひらがなやカタカナに関して1文字と単語双方の書取課題を実施し, これらから得られた書字特徴を確認することが発達性読み書き障害児の診断評価における補助的な指標となりうるのではないかと考えられた.
著者
猪俣 朋恵 宇野 彰 伊澤 幸洋 春原 則子 金子 真人 粟屋 徳子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.246-253, 2011 (Released:2011-10-06)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

漢字学習過程を想定し, 意味を付与した非言語的な図形を繰り返し模写, 再生する長期記憶検査 (図形学習検査FLT;Figure Learning Test) を新たに作成し, 小学校1~6年生の典型発達児75名と発達性読み書き障害児6名に実施した. 典型発達児では FLTの遅延再生得点と漢字の書き取り成績との間に有意な相関関係を認めなかった. 非言語的図形の長期記憶力に明らかな低下がない場合, 非言語的図形の長期記憶力以外の他の要因も漢字書字成績に影響しやすいのではないかと考えた. 一方, 発達性読み書き障害児では, 高学年児においてFLTの遅延再生得点が典型発達児に比べて-1.5SDもしくは-2SD以下と低下していた. また, 繰り返しの学習の効果が十分に得られないという特徴や意味との対連合学習で困難を示すといった特徴がみられた. 非言語的図形の長期記憶力が漢字書字の学習到達度に影響しうることが示唆された.
著者
春原 則子 宇野 彰 金子 真人
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.10-15, 2005-01-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
17
被引用文献数
12 7

発達性読み書き障害の男児3例に対して2種類の方法で漢字書字訓練を行い, 単一事例実験研究法を用いてその効果について検討した.3例とも音韻認識力や視覚的認知, 視覚的記憶力に低下を認め, これらが漢字書字困難の原因になっていると考えられた.一方, 音声言語の記憶力は良好であった.漢字の成り立ちを音声言語化して覚える方法 (聴覚法) と, 書き写しながら覚える従来の学習方法 (視覚法) を行い, 訓練効果を比較した.その結果, 効果の持続という点において聴覚法が視覚法に比べて有用であることが示唆された.視覚的情報処理過程に低下がある一方で, 音声言語の記憶力が良好であった本3症例にとっては, 見て写しながら覚えるだけでは十分に漢字書字が獲得できず, 聴覚法が有効なルートとして機能したものと考えられた.
著者
春原 則子
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.281-284, 2018-09-30 (Released:2019-10-02)
参考文献数
18

発達性ディスレクシアの読み書き困難に対する介入には, 支援と指導という大きな 2 つの方向がある。本稿では, 仮名の読み書き, 漢字の書字に関する 2 つの指導方法を紹介した。いずれも詳細な認知機能の評価から障害構造を推定し, さらにバイパスとして活用できる良好な機能を見出すことによって編み出されたものである。どちらも症例シリーズ研究法によって科学的な効果が確認され, 適用についても明確に示されている。発達性ディスレクシアについては複数要因説が有力であり, 指導方法も一様ではない可能性が高い。さらなる適切な介入方法の立案と効果や適用に関する知見の積み重ねが急がれる。
著者
後藤 多可志 宇野 彰 春原 則子 横井 美緒 三盃 亜美 大六 一志
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.105-115, 2023 (Released:2023-04-29)
参考文献数
21

本研究では,小学4年生から中学3年生までの発達性読み書き障害児24名と典型発達児24名を対象に,ユニバーサルデザインデジタル教科書体(以下,UD書体)が音読や読解に与える影響を検討した.刺激は,音読課題(仮名非語,文章およびアルファベット)と文章読解課題で,書体はUD書体と教科書体の2種類を使用した.対象児に,2種類の書体で作成された音読課題と読解課題を実施した後,文字の読みやすさについて内観を聴取した.その結果,両群ともに音読課題における所要時間,誤読数,自己修正数と,読解課題の正答数に2書体間で有意差は認められなかった.主観的に,両群とも文字の可読性と読みの正確性についてUD書体を有意に選好したが,読みの流暢性についてUD書体は有意に選好されなかった.本研究の結果から,客観的評価と主観的評価は異なり,UD書体による正確性,流暢性および読解力に関する「読みやすさ」の指標は見出せなかった.
著者
土方 彩 宇野 彰 春原 則子 金子 真人 粟屋 徳子 狐塚 順子 後藤 多可志
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.221-229, 2010 (Released:2010-08-31)
参考文献数
30
被引用文献数
2 2

小学5, 6年生の定型発達児28名と発達性dyslexia児8名を対象に, 漢字単語の読解力に対する音読力と聴覚的理解力の貢献度を検討した. その結果, 定型発達児群における漢字単語の読解力に対して聴覚的理解力が有意に, そして音読力は有意傾向の影響力を示した. また, 読解力も音読力と聴覚的理解力の双方に対し有意に影響していた. 一方, 発達性dyslexia児群における漢字単語の読解力には音読力のみが有意に影響しており, 読解力も音読力に対して有意な影響力を示した. これらの結果から定型発達児の漢字単語の読解力には音読力と聴覚的理解力の双方が重要であり, 読解力もまた音読力と聴覚的理解力に対して影響力をもっていること, 発達性dyslexia児は音読力が低いため, たとえ聴覚的理解力が高かったとしても, その能力を読解力に対して十分に活用できていないことなどが推測された. また定型発達児群における読解力と音読力, 聴覚的理解力に関して, 一貫して心像性が有意な説明変数として抽出され, 3つの能力に対し意味の思い浮かべやすさが影響していると思われた.
著者
井村 純子 春原 則子 宇野 彰 金子 真人 Wydell Taeko N. 粟屋 徳子 後藤 多可志 狐塚 順子 新家 尚子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.165-172, 2011 (Released:2011-04-28)
参考文献数
24
被引用文献数
4

典型発達児と発達性読み書き障害 (DD) 児における漢字書字の特徴の相違を明らかにするため, 「小学生の読み書きスクリーニング検査 (STRAW) 」を用いて, 通常学級在籍の典型発達児708名とDD児21名の漢字単語書取の反応を比較, 検討した. DD児21名全員に音韻情報処理過程と視覚情報処理過程双方の障害を認めた. 漢字書字においてDD群は典型発達群に比べ無反応が多く, また形態的に似ていない非実在文字を書く傾向があった. さらに漢字の構成要素間の間隔が広いという特徴や, 文字が傾く特徴が認められた. DD群の漢字書字には視覚的な情報処理機能の低下が影響している可能性が示唆された. 典型発達群では正答率と音声提示による親密度との間に有意に高い相関を認めた一方, DD群では正答率と音声提示による単語心像性および画数との間に有意に高い相関を認めた. これらの知見は, DD児の漢字書字指導において考慮されるべきであると考えられた.
著者
後藤 多可志 宇野 彰 春原 則子 金子 真人 粟屋 徳子 庄司 信行
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.322-331, 2007-10-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
33
被引用文献数
1 1

英語圏では発達性読み書き障害の障害構造の一仮説に, 視覚情報処理における大細胞システムの障害仮説が提唱されている.本研究では, 日本語話者の発達性読み書き障害児の大細胞システムの機能をFrequency Doubling TechnologyとVision Contrast Test Systemを用いて検討した.対象は日本語話者の発達性読み書き障害児5名である.読み書きに関する学習到達度検査, 認知機能検査, 大細胞システムの機能測定および眼球運動の観察を実施した.その結果, 全例視力の問題はなかったが, 動的刺激と静的刺激のコントラスト閾値は健常群に比して低下し, 3例には眼球運動の異常が見られた.以上より, 日本語話者の発達性読み書き障害児にも海外での報告と同様に大細胞システムの障害が認められるのではないかと思われた.大細胞システムの障害は視覚情報処理過程や文字の読み書きに影響を及ぼす可能性が考えられた.