著者
唐澤 健太 春原 則子 森田 秋子
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.242-249, 2015-06-30 (Released:2016-07-01)
参考文献数
19
被引用文献数
1

仮名一文字や仮名単語の音読は比較的良好だが, 仮名非語の音読に著明な障害を示す音韻失読の 1 例を経験した。単語音読では同音擬似語効果を認め,転置非語において語彙化錯読を多く認めた。音韻操作課題ではすべての検査において成績の低下を認め, 特に単語の逆唱のような音韻操作に負荷がかかる課題で誤りが多くみられた。また, 単純動作を指示された通りに素早く繰り返す課題では, 異なる順序に誤る傾向を認めた。訓練として, 文字を使用しない音韻操作課題と順序情報処理課題を約 3 週間実施した。 その結果, この間音読訓練はまったく実施しなかったにもかかわらず非同音非語の音読が有意に改善し, 音韻操作課題,順序情報処理課題ともに成績が向上した。本例における非語音読の改善は, 音韻操作と順序情報処理のいずれか, あるいは双方へのアプローチによる可能性が大きいと考えられた。
著者
森田 秋子
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.287-291, 2018-09-30 (Released:2019-10-02)
参考文献数
3

多職種連携を進めるために, 高次脳機能障害に関わる専門職は適切な情報を発信する役目を持つ。 情報はしばしば特徴的な個別症状の説明に重きが置かれることが多いが, むしろ「患者は何ができ何ができないか, どこまでわかっているか」につながる総合的な重症度を示す, 全般的認知機能に関する情報の重要性が高い。認知関連行動アセスメント ( Cognitive-related Behavioral Assessment: CBA) (森田ら 2014) は, 行動観察をもとに全般的認知機能を評価する評価表であり, わかりやすい概念や用語を用い, 専門知識のない職種でも評価や議論に参加しやすい利点を持つ。そのため職種を越えた障害像の共有につながり, 多職種連携のツールとなる可能性がある。   コミュニケーションを専門とする言語聴覚士は, 高次脳機能障害のリハビリテーションに, 会話を活用できる可能性がある。会話による自己の行動や思考を言語化する過程が, 患者の自己意識への働きかけとなり, 病識向上などへの効果が期待される。
著者
森田 秋子 小林 修二 濱中 康治 三吉 佐和子 飯島 節
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.42, no.6, pp.708-711, 2005-11-25 (Released:2011-03-02)
参考文献数
6

脳血管障害発症後早期に半側空間無視 (unilateral spatial neglect 以下USN) を呈し, その後机上検査および行動観察において所見が認められなくなった患者の長期経過を追った. 症例1は61歳男性, 3年前の右被殻出血後に左USNが出現したが, その後机上検査および行動観察にてUSNは出現しなくなり自宅へ退院した. しかし, 百人一首遊びあるいは電動車椅子操作などのストレスのかかる場面で, 左USNが再び出現した. 症例2は62歳男性, 初回の右被殻出血後に左USNが出現したが, 退院時には机上検査, 行動所見ともに所見は認められなかった. 6年後あらたに右片麻痺をきたし, 大脳左半球の脳梗塞が疑われた. 再発作直後は両方向への注意低下を認めたが, 徐々に左USNが明らかに認められるようになった. 症例3は70歳男性, 64歳時に右被殻梗塞発症後早期に左USNが出現したが, その後机上検査でも行動所見でも認められなくなり自宅退院した. 6年後ADLと知的レベルの全般的な低下を来たし, 検査の結果左USNが再び検出された.3例では, 発症早期に机上検査と行動所見において明らかな左USNが認められたが, その後所見は出現しなくなった. しかし, 新規課題あるいは難易度の高い課題, 疲労時, 反対側に出現した脳梗塞などによりUSNが再び出現した.USNは, USNそのものの重症度, 患者の課題遂行能力および環境要因, の3つの要素の相対的な関係において出現様式が規定されるものと考えられた. 一度は検出できなくなったUSNが, 全般的注意機能の低下や環境変化などにともなって再び出現する場合があることは, 高齢者においてとくに注意すべきである.