- 著者
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喜多村 祐里
眞下 節
武田 雅俊
- 出版者
- 大阪大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2006
「痛み」の生物学的意義は、生体を侵害刺激から守るための「警告信号」であると考えられる。損傷や炎症の生じた部位の修復機構を促しながら、治癒までの期間、外界の刺激から遠ざけて効率的にかばうといった行動は「痛み」のおかげで誘発される。しかし、「痛み」が持続し慢性化することによって、脳の中の扁桃帯や前帯状回といった情動に関与する神経回路が活動し続けると、負の情動が形成されることになる。この負の情動は、「気分が落ち込む」「根気・集中力がなくなった」などの抑うつ感や、「よく眠れない」「目覚めがよくない」といった睡眠障害を引き起こし、やがて個人の社会的・生活機能をも低下させることにつながる。近年、「痛み」の研究は脳科学の進展とともにその歩みを早め、疼痛コントロールの重要性については、臨床家はもとより一般にも広く知られるようになった。本研究は、慢性疼痛における「痛み」、すなわち個人の主観的感覚に対して、「どのような治療的アプローチが考えられるのか」を模索する中で、プラセボ効果やカウンセリングといった心理的・認知行動学的アプローチの有効性について科学的根拠にもとづいた知見を得る目的で行われた。近赤外分光法(NIRS)やストレス関連物質であるコルチゾルおよびクロモグラニンの測定、また質問紙形式とVAS;visual analogue scaleによる痛みの主観的・客観的評価をさまざまな角度から行った。わずか2年間で得られた知見は、動物実験の結果や健常人による心理実験にもとづくものではあるが、このような基礎的研究を礎に大学内には「疼痛研究センター」が設立され、実際の臨床の場においてもこれらの知見が生かされるような体制が整いつつあることに、改めて大きな意義を感じている。