著者
雑賀 あずさ 國澤 純
出版者
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会誌 (ISSN:24357952)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.141-145, 2022 (Released:2022-12-28)
参考文献数
10

食品成分や腸内細菌から形成される腸内環境は,我々の健康維持において重要な役割を担う。特に,食品由来の脂質に含まれる脂肪酸は,生体や腸内細菌を介した代謝により機能性脂肪酸代謝物に変換され,アレルギーや炎症反応に関わる免疫機構など様々な生理機能に影響を与える。一方,食品成分を基質として生体内で代謝・産生される機能性代謝物の産生能力は,我々自身や腸内細菌がもつ代謝酵素の活性を中心に様々な要因の影響を受けて決定される。従って,有益な生理機能を発揮する代謝物を生体内で産生できない場合には,期待通りの健康効果を得ることができないと予想される。つまり,一般に健康に有益な効果をもたらすことが知られている機能性食品素材においても,摂取した際の健康効果には,代謝の違いにより個人差が生じると考えられる。本稿では,腸内環境を介して産生される機能性代謝物のうち,食事性脂質由来のオメガ3脂肪酸を基質として産生される脂肪酸代謝物が持つ免疫制御機構について,新規医薬品素材や機能性食品素材としての応用展開の可能性を含めて紹介する。さらに,腸内細菌叢を含めた個人差を考慮した層別化・個別化栄養システムに向けての取り組みについて,我々が得た最新の知見を交えて紹介する。
著者
國澤 純
出版者
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

腸内細菌を介した免疫制御は、様々な疾患に関わることが分かり、健康科学における新潮流となっている。これまでの研究の多くは、腸管管腔や上皮細胞の粘液層に存在する細菌に焦点が当てられ解析が進められてきたが、我々は、これらの部位だけではなくパイエル板などの腸管リンパ組織の内部にも細菌が共生していることを明らかにし「組織内共生」という新概念を提唱してきた。本年度はこれまでの研究を拡張して大腸粘膜組織にも着目し、大腸粘膜固有層に存在するマクロファージに共生する細菌としてStenotrophomonas Maltophiliaを同定し、その共生メカニズムの解明を行った。骨髄由来もしくはマウスより単離したマクロファージとStenotrophomonas maltophiliaの共培養により、ミトコンドリア呼吸とIL-10産生が増加することを見いだした。さらにsmlt2713遺伝子にコードされる分子量25 kDaのタンパク質を欠損したStenotrophomonas maltophiliaではIL-10の産生誘導能が欠失すること、逆にIL-10欠損マクロファージではStenotrophomonas maltophiliaによる細胞内共生が破綻することから、smlt2713とIL-10はそれぞれ菌、宿主細胞において共生を成立させる必須因子であることが判明した。大腸のマクロファージはIL-10を産生することで恒常性の維持に貢献していることから、本研究結果は、大腸における細胞内共生ネットワークを介した恒常性維持機構の一つを提唱したものとなる。