7 0 0 0 OA Candida auris

著者
廣瀬 由紀 田渕 経司
出版者
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会誌 (ISSN:24357952)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.1-5, 2022 (Released:2022-03-31)
参考文献数
25

Candida aurisは2009年に我が国において患者の外耳道から分離・報告された新しいカンジダの一種である。多くの菌株で高い環境生残性・抗真菌薬耐性傾向を示し,商業ベースの検査方法では診断できないという特徴がある。そのため,真菌では初めてとなる汎世界的流行を引き起こし,世界40か国,6つの地域で検出報告がある。すでに500近い論文が発表され,そのうちいくつかではout breakも報告されている1)。急速な世界的拡大,多剤耐性による高い死亡率を持つことから,2016年Centers for Disease control and Prevention(CDC)はC. aurisを「薬剤耐性脅威レポート」においてurgent threats(もっとも優先度の高い脅威)に位置付け,警告をしている。ここ10年で世界的脅威となりつつある,C. aurisについて概説する。
著者
神崎 晶
出版者
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会誌 (ISSN:24357952)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.17-20, 2021 (Released:2021-08-31)
参考文献数
20

本稿では,コロナウイルス感染症(COVID-19)とアレルギー疾患との関連性についてまとめる。アレルギー性鼻炎とCOVID-19の臨床症状には共通するものが多いが,差異についてまとめた。さらにアレルギー疾患患者がCOVID-19に感染した場合の臨床症状の変化についてまとめた。気管支喘息患者では呼吸機能が低下している点からCOVID-19感染で呼吸機能の増悪は容易に想像できるが,アレルギー疾患自体はTh1よりもTh2優位になっている状態であるため,COVID-19患者ではTh1系のサイトカインストームが生じにくいかもしれず,依然として物議を醸している。抗IgE抗体医薬がスギ花粉症に適応があるが,抗IgE抗体が抗ウイルス活性を有していることも示した。最後にCOVID-19による嗅覚障害の発生機序,当院で嗅覚障害の発生調査について解説した。
著者
伊藤 千尋 戸嶋 一郎 大脇 成広 清水 猛史
出版者
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会誌 (ISSN:24357952)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.71-75, 2021 (Released:2021-08-31)
参考文献数
23

放線菌症は,Actinomyces属により腫瘤性病変を形成する疾患である。症例1は74歳男性。2ヵ月前からの嗄声,1ヵ月前からの嚥下困難と咽頭痛を主訴に紹介受診した。喉頭内視鏡検査で,右梨状窩に潰瘍を伴う腫瘤を認め,造影CTでは下咽頭,頸部リンパ節,肺,副腎に造影効果を伴う腫瘤があり,PET-CTで同部にFDG集積を認めた。下咽頭病変の生検から放線菌症と診断した。関節リウマチに対し使用していたメトトレキサート内服を中止し,アンピシリン点滴を6週間行い全ての病変は消失した。その後アモキシシリン,続いてクリンダマイシンを10ヵ月間内服した。症例2は64歳男性。10日前からの咽頭痛と口臭を主訴に紹介受診した。喉頭蓋に白苔を伴う腫瘤を認め,生検で放線菌症と診断した。生検1週間後には喉頭蓋病変は自潰し,縮小した。アモキシシリンを3ヵ月間内服した。2症例とも再発なく経過している。
著者
神前 英明
出版者
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会誌 (ISSN:24357952)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.129-135, 2022 (Released:2022-12-28)
参考文献数
47

上気道における代表的な好酸球性炎症,アレルギー性炎症をきたす疾患として好酸球性副鼻腔炎,アレルギー性鼻炎があげられる。好酸球性副鼻腔炎は,手術後も再発が多いため,難治性疾患として扱われている。その病態として,抗原の感作なしに2型炎症を誘導する自然型アレルギーの関与が強いことが知られている。上皮細胞から産生された上皮由来サイトカイン(TSLP, IL-25, IL-33)は,2型自然リンパ球(ILC2)や病原性記憶Th2細胞を介して大量の2型サイトカイン産生を誘導し,好酸球浸潤,ムチン産生,杯細胞の過形成など,好酸球性副鼻腔炎に特徴的な組織像が形成されると考えられる。近年,病態の解明に伴うバイオ製剤の登場により,恩恵を得られる患者が増えている。アレルギー性鼻炎は,世界中で患者が増加しており,本邦では人口の半数が罹患していると推定される。アレルゲン免疫療法は,アレルギー性鼻炎に対する高い有効性が示され,長期的な寛解や治癒が期待できる唯一の方法である。アレルゲン免疫療法の作用機序は,IL-10,IL-35,TGF-β,IgG抗体の増加および制御性T細胞の誘導によって特徴づけられる免疫寛容の獲得に基づいている。しかしながら,アレルゲン免疫療法を行うことでなぜ長期寛解が得られるか,その全貌はまだ明かにされていない。いずれも2型炎症またはIgE依存的アレルギー炎症が特徴となる疾患で,これらの炎症を制御することが治療につながると考えられる。我々が行ってきた研究を中心に,好酸球性副鼻腔炎の病態と,アレルギー性鼻炎に対するアレルゲン免疫療法の作用機序について解説する。
著者
寺西 裕一 角南 貴司子
出版者
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会誌 (ISSN:24357952)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.83-90, 2022 (Released:2022-09-30)
参考文献数
35
被引用文献数
1

歯性上顎洞炎は耳鼻咽喉科と歯科の境界領域にある疾患である。日常診療においてしばしば遭遇する疾患であるが,正確な診断がなされていないことも多い。本邦では統一された診療ガイドラインもなく,受診した診療科や医療機関により治療方針が異なっている。耳鼻咽喉科医は副鼻腔炎の鑑別診断として歯性上顎洞炎の可能性を念頭に置き,主にCTによる画像診断で根尖周囲を含めて注意深く観察することが重要である。また,比較的軽微な上顎洞内粘膜肥厚や根尖病巣については見逃されている場合があり,歯科治療を受ける機会を逸している可能性があるため注意が必要である。治療は原因歯の感染病巣除去のための歯科治療,副鼻腔自然口閉塞を解除するための耳鼻咽喉科での内視鏡下鼻内副鼻腔手術,抗菌薬治療を病状に合わせて行う。副鼻腔のみの治療では根本的な治癒は得られず,また歯科治療のみでも特に重症例では改善が得られないことがある。耳鼻咽喉科と歯科で連携して診療にあたることが必要である。
著者
松田 将也 寺田 哲也 北谷 和之 河田 了 奈邉 健
出版者
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会誌 (ISSN:24357952)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.21-26, 2021 (Released:2021-08-31)
参考文献数
44

舌下免疫療法(sublingual immunotherapy:SLIT)は,抗原を舌下に長期間投与し免疫寛容を誘導することから,アレルギー疾患に対する唯一の根治療法といえる。SLITのアレルギー性鼻炎に対する臨床的有効性は確立されており,その効果発現メカニズムには制御性T細胞(Treg細胞)の増加が関与するとされるが,その詳細は不明な点が多い。Treg細胞には,マスター転写因子としてforkhead box P3(Foxp3)を発現するCD25+ CD4+ T細胞(Foxp3+ Treg細胞),ならびに抗炎症性サイトカインであるIL-10を高産生するFoxp3– CD4+ T細胞(Tr1細胞)が存在する。SLITを行ったアレルギー性鼻炎の患者においては,Foxp3+ Treg細胞ならびにTr1細胞の顕著な増加が認められることから,これらの細胞がアレルギー症状の抑制に重要な役割を担うことが推察される。本総説においては,これまでに報告されてきたSLITによるTreg細胞の誘導機序,ならびにSLITの効果発現におけるTreg細胞の役割について概説するとともに,近年発見されたTreg細胞誘導剤の有用性について考察した。SLITにおけるTreg細胞の誘導機序の解明ならびにその誘導薬物の創出は,より効率的なSLITの創出に繋がると考えられる。
著者
吉崎 智一
出版者
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会誌 (ISSN:24357952)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.143-145, 2021 (Released:2021-12-28)
参考文献数
7

宇宙誕生から130億年,地球誕生から46億年,最も原始的な生物誕生から30億年が経過した。現在,コンセンサスが得られている生物の定義におけるキーワードは自己複製と代謝である。この定義に基づくとウイルスは特定の生物との間に密接な相互作用を示すにもかかわらず生物とはいいがたい。それともウイルスを生物か無生物のどちらかに分類すること自身に無理があり,意味のないことなのかもしれない。ウイルスというと悪役のイメージが強いが,例えば哺乳類の胎盤の獲得など,生物の進化に果たしてきた役割は大きい。ウイルスの誕生から今日に至るまでの道のりを縦糸とし,生物と無生物,自己と非自己,病原性と共生,など免疫,アレルギー,感染症的視点を横糸として,本学会で取り扱うテーマの学術的側面を深く考察する。
著者
雑賀 あずさ 國澤 純
出版者
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会誌 (ISSN:24357952)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.141-145, 2022 (Released:2022-12-28)
参考文献数
10

食品成分や腸内細菌から形成される腸内環境は,我々の健康維持において重要な役割を担う。特に,食品由来の脂質に含まれる脂肪酸は,生体や腸内細菌を介した代謝により機能性脂肪酸代謝物に変換され,アレルギーや炎症反応に関わる免疫機構など様々な生理機能に影響を与える。一方,食品成分を基質として生体内で代謝・産生される機能性代謝物の産生能力は,我々自身や腸内細菌がもつ代謝酵素の活性を中心に様々な要因の影響を受けて決定される。従って,有益な生理機能を発揮する代謝物を生体内で産生できない場合には,期待通りの健康効果を得ることができないと予想される。つまり,一般に健康に有益な効果をもたらすことが知られている機能性食品素材においても,摂取した際の健康効果には,代謝の違いにより個人差が生じると考えられる。本稿では,腸内環境を介して産生される機能性代謝物のうち,食事性脂質由来のオメガ3脂肪酸を基質として産生される脂肪酸代謝物が持つ免疫制御機構について,新規医薬品素材や機能性食品素材としての応用展開の可能性を含めて紹介する。さらに,腸内細菌叢を含めた個人差を考慮した層別化・個別化栄養システムに向けての取り組みについて,我々が得た最新の知見を交えて紹介する。
著者
竹内 万彦
出版者
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会誌 (ISSN:24357952)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.97-101, 2022 (Released:2022-09-30)
参考文献数
12

ヒトの殆どの疾患には遺伝子が関与しており,臨床医には遺伝子の変化(バリアント)についてある一定の理解が求められる。ここでは,単一の遺伝子のバリアントによっておこる疾患を例にとり,遺伝子のバリアントについて理解を深めるように概説した。従来,頻度1%を境に多型と変異とが区別されていたが,その境界は明瞭ではなく,現在では,バリアント(多様体)という語が使用されるようになった。バリアントとは多型や変異を含んだ概念である。バリアントの種類には,DNAレベルでは置換,欠失などがあり,タンパク質レベルではミスセンス,ナンセンス,フレームシフトなどがある。バリアントはHGVSに従って表記する。バリアントには蛋白の機能を変化させ,ひいては疾患を引き起こす病的なものからそうでないものまである。遺伝子情報やバリアントの病原性についてはweb上のサイトが有用であり,GeneCards,Mutation taster,gnomAD,ClinVarなどのサイトについて紹介した。これらのサイトの閲覧や使用に精通し,必要な情報を引き出し,また,バリアントについての理解を深めることが耳鼻咽喉科臨床でみられる数多くの遺伝性疾患の理解を深めることになる。
著者
高原 幹
出版者
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会誌 (ISSN:24357952)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.129-133, 2021 (Released:2021-12-28)
参考文献数
22

扁桃病巣疾患に関する本教室の基礎的,臨床的検討の結果を概説する。本疾患群の病因として,常在細菌や内在するDNAに対して扁桃が過剰免疫応答を起こし,ホーミング受容体を介した扁桃T細胞の病巣への遊走,IgAを含めた免疫グロブリンの量的,質的産生異常が背景にあり,扁桃を原因とした自己免疫・炎症疾患症候群(tonsil induced autoimmune/inflammatory syndrome:TIAS)であると考えられる。TIASを構成する疾患において扁桃摘出術の効果は高く,耳鼻咽喉科を紹介された症例において,積極的に手術を勧めることが望まれる。
著者
志村 智隆 小宅 功一郎 粟倉 秀幸 池谷 洋一 野垣 岳稔 小林 斉 小林 一女 大氣 采女 大谷 友里恵 工藤 健人 郡司 寛之 甘利 泰伸 泉本 彩 井上 由樹子 今泉 直美
出版者
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会誌
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.77-81, 2021

<p>今回,溶連菌感染後反応性関節炎(post-streptococcal reactive arthritis:PSReA)の1症例を経験したのでここに報告する。症例は39歳女性。X月Y–17日,発熱・咽頭痛を主訴に当院救急外来を受診した。口蓋扁桃への膿栓付着を認め細菌性扁桃炎の診断でアモキシシリン内服処方にて帰宅指示となっていた。X月Y日,1週間前からの発熱・咽頭痛の持続と全身的な関節痛を主訴に当科を受診した。口蓋扁桃への膿栓付着は消退し,一般採血所見はWBCの軽度上昇のみでCRP値・ASO値の上昇は認めず溶連菌迅速検査も陰性であった。咽頭痛や関節痛の症状が強く,急性リウマチ熱(acute rheumatic fever:ARF)を視野に補体価を含めた採血を提出し鎮痛薬の処方としていたが,X月Y+5日,耐え難い咽頭痛・頸部痛の出現あり当科を再診した。採血ではWBCの軽度上昇のみで赤沈値は陰性であったがASO値の上昇を認め,溶連菌感染後約10日後の関節症状出現という経過からPSReAの診断となった。PSReAはARFに類似した検査所見や症状を示すとされるが,血液検査における炎症反応の上昇や赤沈値の亢進は目立たない場合が多いとされる。ARFとは異なった疾患として分類され心合併症は起こらないものとされるが,溶連菌性扁桃炎・咽頭炎を日常診療で頻回に扱う我々耳鼻咽喉科医としては留意しておくべき病態と考えられる。</p>