著者
土佐 朋子
出版者
国立大学法人 東京医科歯科大学教養部
雑誌
東京医科歯科大学教養部研究紀要 (ISSN:03863492)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.77-94, 2017

『懐風藻』所収の大津皇子臨終詩には、複数の類型詩が指摘されている。場面および詩句の構成と表現において、強い類型性が確認されるそれらの臨刑詩は、人々の想像力が生み出す稗史の中に発生し伝承されたと考えられる。個別具体的な生と死のありようが捨象されて用いられる汎用性の高さから、特定個人の臨刑詩の継承ではなく、臨刑詩すべてに先行して、刑死者の最期を飾る決まり文句が存在し、知識人の悲劇を語る口承文芸の中で繰り返し活用され、再生産されたものと推定される。
著者
土佐 朋子
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

23本の『懐風藻』写本についてほぼすべての調査を行い、同時に新たに12本の『懐風藻』写本を紹介した。その結果、これまでの群書類従系統とその他の系統に区分する考え方を改め、群書類従に至るまでの本文系統、すなわち江戸期の書写活動の過程における本文派生状況を明らかにする必要性を指摘した。とくに、江戸初期の林家における書写活動の過程で、複数の本文が生じた可能性を指摘した。また、現存最古の注釈書『懐風藻箋註』を翻刻し、その作者今井舎人が系譜学者鈴木真年であることを確定し、歴史的関心から施される江戸期版本書入と比較して、漢籍に典拠を求める注釈姿勢の異質さを明らかにした。