著者
脇田 義久 神田 一 高澄 耕次 土屋 陽一
出版者
日本乳酸菌学会
雑誌
日本乳酸菌学会誌 (ISSN:1343327X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.145-151, 2018-11-06 (Released:2020-01-29)
参考文献数
11

代表的な酒類酵母である Saccharomyces cerevisiae はラクトースを分解する能力がないことから、乳のみを原料としてアルコール飲料を製造することは容易でない。一方、ヨーグルトで使用されている乳酸菌 Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus(LDB)は β- ガラクトシダーゼによりラクトースをガラクトースとグルコースに分解可能である。本研究では S. cerevisiae とLDB の複合発酵による乳からのアルコール産生について検討を行った。最初に、LDB48P 株を親株として、N-methyl-N ’-nitro-N-nitrosoguanidine を用いた変異処理により β- ガラクトシダーゼのカタボライト抑制を解除した LDB48A-12 株を取得した。LDB48A-12 株はラクトース分解能が向上するのみならず、増殖速度が遅く、且つ乳酸の生産量が低下するという予想外の特徴を有していた。そこで LDB48A-12 株と S. cerevisiae SBC3207 株を用いて、10% 脱脂粉乳溶液を原料とし 30℃あるいは 37℃で、4 日間発酵を行ったところ、アルコール度数が 1 ~1.5% であり、LDB48P 株を使用した際の 1.5 倍に上昇した。また、LDB48P 株を使用した際と比較して、発酵後の pH 低下が抑えられた。これらの結果は、乳を原料とした新たな低アルコール飲料製造の可能性を拓くものと考えられる。また、LDB48P 株と LDB48A-12 株の比較ゲノム解析から、LDB48A-12 株において、ゲノム複製に関与する dnaA 遺伝子およびカタボライト抑制に関与する rpoA 遺伝子に変異が確認され、これらの遺伝子変異が組み合わさることで、乳酒製造に適した表現型が現れているものと推察された。