著者
土橋 ゆかり 佐藤 友美 佐藤 浩二 大隈 まり 衛藤 宏
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.185, 2008

【はじめに】<BR>協調運動障害や仮性球麻痺に加え、発動性低く訓練に対しても消極的な症例に対し病前の生活様式や興味関心を把握した上での活動が有効であった。今回の経験を振り返り発動性を引き出す為の活動提示の視点を報告する。<BR>【作業療法評価】<BR>80歳代、男性、診断名は脳梗塞後遺症、左右不全麻痺、両側仮性球麻痺、Br.Stage右上下肢stageVI、左上下肢stageV。難聴、嚥下・構音障害で著明あり、Yes、No程度の意思疎通は可能。B.I.は25点。であり、セルフケアは車椅子主体で要介助状態。家族構成は妻・娘の3人。<BR>【目標】<BR>3ヶ月で可能な限り妻と娘との在宅生活が継続して行えるよう、セルフケアが見守りから軽介助にて遂行可能となる。併せて、日中は落ち着いて生活できる活動を探り、生活リズムを確立する。<BR>【経過】<BR>更衣・整容の訓練を1週間導入するも訓練を拒否した。そこで、本人の意思が向けば主体的に動くことができる点を生かし、 (1)本人自ら関心を示した活動 (2)生活歴に基づく活動(3)OTが「これは症例が集中してできる」と考えた活動、の3つの視点から活動選択し、これらの活動を通して発動性を引き出し日中落ち着いて生活でき生活機能の改善に結び付ける事を試みた。以下、各活動選択の経過を記す。(1)では活動への関心が高いものを探る際の指標として、日常生活の中で注意が止まる、指を差す、物を手に取って見る、他者を呼んで何らかの主張を示す、の4点を重視した。その結果、「屋上へ行く」、「猫と触れ合う」、「陶芸」に関心を示した。 (2)では、なじみのある活動や手続き記憶を通して発動性を生かす事ができると考え生活歴に基づく活動を提示した。結果、「囲碁」、「新聞を読む」を選択した。 (3)では様々な環境を設定する事で関心を広げる事も必要と考え「パズル」、「棒体操」、「絵画」を実施した。<BR>【その後の経過】<BR>訓練時は、本人の関心を示した屋上にて歩行を行いその後、訓練室にて囲碁を実施する等、内容を組み合わせた。この結果、意欲的に歩行し能動的に軽介助歩行が行えるようになり、自分の意思をジェスチャーにて伝えることや感情表出も多く見られるようになった。日常生活場面では、身体耐久性は向上し介助量の軽減が図れ、約3ヶ月で目標達成となった。最終時、B.I.35点。在宅訪問の際は、仏壇に参る為やトイレに行為に妻との軽介助歩行が可能であった。退院6ヶ月後も、妻と散歩や畑に行く等、日中は離床し本人らしく在宅で過ごしている。<BR>【まとめ】<BR>訓練に対して拒否的で日中落ち着かない患者に対して、セルフケアへの直接的な訓練だけでなく様々な環境で本人の行動を評価し興味や関心を生かした作業活動を選択・提示する事が、活動のきっかけとなり心身機能面や活動面の機能向上には重要であった。