- 著者
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梅澤 慎吾
岩下 航大
坂井 優之
大野 祐介
宮永 豊
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement
- 巻号頁・発行日
- vol.2009, pp.C3O2155, 2010
【目的】<BR>昨今、立脚期油圧制御を備えた高機能膝継手が多数開発され、その代表格C-LEG(OttoBock)の研究報告は以前から行われている。しかしそれらは健常側で運動制御が可能な片側切断の症例や、両側切断では限られた環境での杖歩行が多数を占める。一方、両大腿切断者の二足実用歩行をゴールに据えた場合、高機能膝継手を選択する意義や活用のポイントはこれまで議論されていない。今回の報告では両側切断と片側切断で運動制御の違いを比較し、両切断者に高機能膝継手を処方した場合に歩行自立度に及ぼす影響を検証することを目的とした。<BR>【方法】《症例》30歳、男性、身長170cm。鉄道事故による両膝離断。H19年7月切断術施行。左右断端長45cm、両股関節に可動域制限なし、荷重痛により断端末荷重不可。H19年9月3日より当センター入所。床から車椅子の移乗がプッシュアップ台利用にて自立。訓練期間(4ヶ月)を区分すると内容は次の通り。《C-Leg試用前2ヶ月》開始1ヶ月がソケットと足部のみのスタビー義足を使用し、立位バランスと歩行訓練。後の1ヶ月で段階的に義足長を本来の身長に合わせ、同様の訓練を実施しながら膝継手の変更を試みる。<BR>《両側C-Leg変更後2ヶ月》遊脚期の膝屈曲による足部クリアランスの確保を念頭に置き、平地で杖なし持続歩行が可能となった段階で応用歩行へ移行。坂道の下り・歩行時の減速・方向転換など立脚期油圧制御(イールディング機能)を最大活用することに重点を置き習熟を図る。<BR> 【説明と同意】 研究の目的、方法、予想される臨床上の利益、協力者が不利な扱いを受けないこと、データ管理に注意を払うこと、結果の公表の仕方などを本人に説明し、可能な限りで個人情報の開示を行う旨を了解済みである。<BR>【結果】《C-Leg変更前》固定膝と遊脚期油圧制御膝継手(OttoBock3R60)の組み合わせで約1kmの持続歩行を獲得。これは平地や両側に手摺りのある階段など条件付きの環境にて両T字杖で行っている。一方、屋内外を問わず、坂道の下りは杖使用でも動作獲得は達成されなかった。<BR>《C-Leg変更後》約2ヶ月で屋外杖なし歩行自立、片側手摺りを利用しての階段交互昇降と杖なしでの坂道歩行自立。また約3kmの屋外持続歩行や公共交通機関の利用が杖なしで自立となる。最終では実際に職場で訓練を実施。想定される様々な動作を行い、車いすを用いず遂行可能であることを確認。一方、車での通勤を可能にする環境整備(車の改造、駐車場の確保)も進めた後に退所。復帰後半年間はパートタイム、後にフルタイムで職場復帰を果たす。<BR>【考察】これまでの両大腿義足の訓練は「転倒の恐怖感」が自立への障壁になっていると推測される。片側大腿切断の場合、1.坂道の下り2.歩行時の減速や方向転換など日常生活で頻回に繰り返される動作の多くは、速度調整や安定性の保障などを健常側下肢によって行っている。これに対して両大腿切断者は1.2の動作で転倒しない為の保障を得られず、積極的な動作獲得への取り組みが行えないと考えられる。一方でC-Legの特筆すべき機能として1.強力な油圧抵抗で大腿四頭筋の遠心性収縮を代用し、一方の膝を緩やかに屈曲させながら他方の足部接地を行う時間的猶予を与える(坂道の下りが自立する可能性) 2.歩行時踵接地から爪先離地まで、一連の歩行動作を行わなければ油圧抵抗がキャンセルされず不意な状況で膝折れを起こさない(方向転換時の安定性向上) 3.C-Legをエネルギー効率の面で優位とする報告があり、義足歩行を継続しながらも過負荷にならず、実生活を視野に入れやすいなどの特長がある。今症例のC-Leg使用前、使用後を比較すると坂道下り動作の獲得が達成されたこと、また持続歩行距離に決定的な違いを見出すことができる。この結果は恐怖感が軽減され、省エネルギー歩行が可能であれば、多様な動作のチャレンジが可能となり訓練過程で身体能力がさらに向上し、より高い目標を掴める可能性があることを意味する。訓練で重要となるのは、膝折れを起こさないように立脚期股関節伸展を行う通常歩行、意図的に膝折れする方向に荷重する坂道の下り、この相反する動作の仕組みを説明し、膝継手の特長を義足ユーザーとセラピストが共通理解のうえで反復・習熟を図ることが重要である。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>両膝を失った状況で公の環境に順応するには、たとえ残存機能を最大限発揮したとしても、ある程度義肢に依存しなければならない側面がある。このようなケースでは膝継手の特長を理解し、調整を適宜セラピストが行うことも求められる。膝継手の特性が両切断者の身体面・精神面にいかに影響を及ぼすかについては、同様の症例でC-Leg並びに、他の膝継手を比較し、定量的・客観的な評価を行っていく必要がある。<BR><BR>