著者
里宇 文生 大野 祐介 岩下 航大 梅澤 慎吾 臼井 二美男
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.406-409, 2018-05-18 (Released:2018-06-14)
参考文献数
8

近年,下肢切断者が義足歩行を達成して日常生活へ復帰した後に,パラスポーツに参加する機会が増えている.下肢切断者のパラスポーツへの参加は,身体的効果,精神的効果が報告されており,医学的に有用である.下肢切断者が行うスポーツとしては,ウォーキングや登山,卓球,釣り,ゴルフ,自転車競技などの生活用義足を用いて行うスポーツに加え,専用の競技用義足を用いることで,陸上競技,バドミントン,テニス,スキー,スノーボード,サーフィン,スキューバダイビングなど,多くのパラスポーツを行うことが可能である.パラスポーツへの参加に関しては,費用や参加機会の点で課題が存在するが,医療者からの適切な情報提供が重要である.
著者
梅澤 慎吾 岩下 航大 大野 祐介 興津 太郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101921, 2013

【はじめに】両側大腿切断は左右の膝を失う固有の障害像から,実用歩行を困難にする要素が多い。しかし,優れた立脚・遊脚制御を備える膝継手(以下:高機能膝継手)が一般的になりつつある昨今,片側切断者に匹敵するレベルで歩行可能な事例が報告され始めている.その達成には要所を押さえた義肢部品の運用と,訓練全体のマネジメントが必須となる.第一報では二足実用歩行を獲得した一症例を報告した.今回は同様の方法で実用歩行を獲得した新たな症例から,時代に即した情報の一つとして,両大腿切断者の高活動ゴールの方向性を提示することを目的とする.【症例】34歳 男性 交通外傷による両側大腿切断.既往歴や合併障害なし.受傷後,前病院の断端形成術~装着前訓練を経て,義肢装具SC入院《断端長》右11.0cm,左24.0cm《受傷前身長》166cm,《義足装着》シリコーンライナー使用[初期評価:訓練開始時] 《ROM》左股関節伸展10°右股関節屈曲70°伸展-5°《筋力》左右股関節の伸展・外転筋MMT4《受傷~義肢装着の期間》約4ヶ月 [最終評価:18W終了時]《ROM》左股関節伸展15°右股関節屈曲80°伸展5°《筋力》左右股関節周囲筋 MMT5 《膝継手》固定⇒C-Leg⇒C-LegCompact【説明と同意】結果の公表を本人に説明し,個人情報の開示を行う旨を了解済みである。【経過と結果】[開始~10W]膝継手なし,または固定膝で訓練施行.船底型足部を利用したスタビーによる動作習熟が中心.移動範囲は前半が屋内,後半が屋外・屋内応用歩行を中心に行う.坂道下りが二足で可能になることを条件に,4段階で義足長を10cmずつ長くする.《10m歩行》11.5秒 《12分間歩行》500m 《TUG》19.2秒 《PCI》0.8 [10W~18W]C-Leg(Compact)変更後は膝屈曲位での二足坂道下り動作と歩行中の急激なブレーキ動作など,膝継手の立脚期油圧抵抗(イールディング機能)の習熟とその反復に重点を置いて訓練継続.杖なしでの坂道歩行や円滑な方向転換が2W~4Wで自立.最終では装着時身長が166cm、約1.5kmの屋外持続歩行や公共交通機関の利用がT杖携帯で自立となる。《10m歩行》8.5秒 《12分間歩行》660m 《TUG》14.3秒 《PCI》0.57【考察】従来の両大腿切断の訓練は到達目標が頭打ちになることが多いと推測する.両大腿切断者が義足で生活を送るには、多様な路面の攻略が必要になるが,特に坂道下り動作の自立が義足常用化の鍵になる.多くは手摺りを頼りに出来る公共の階段と違い,屋外の坂道に手摺りはなく,従来の膝継手では杖使用でも円滑な動作が困難だからである.この報告で提案する訓練の基軸は「安心感をもたらす膝継手選択による身体機能向上」と「高機能膝継手で引き出せる動作の習熟(坂道下り)」である.いずれも膝継手の理解無くして目的達成は困難といえる.高機能膝継手は,イールディング機能による立脚期制御と円滑な油圧抵抗のキャンセルによる遊脚期制御(良好なクリアランス形成)が独立して調整可能で,運用次第で多様な路面の歩行が可能になる.具体的には1.強力な油圧抵抗で大腿四頭筋の遠心性収縮を代用し,一方の膝が緩やかに屈曲しながら他方の足部接地を行う時間的猶予を与える 2.継手が完全伸展位,かつ設定した閾値以上の前足部荷重をしなければ油圧抵抗がキャンセルされず不意な状況で膝折れが起きない 3.C-Legをエネルギー効率の面で優位とする報告があり,義足歩行の継続が過負荷にならない等の特長がある。今症例では膝継手使用前に,膝折れのない安心できる環境の下で充分な時間を割き,二足歩行で多くの動作習熟を行った.これは股関節周囲筋群の強化と,多くの動作を獲得したという成功体験に繋がっている.この効果として,膝継手使用以降で動作習熟に時間を要する場面でも,かつて出来たことが基準となって,装着者本人に問題意識が芽生え,より動作習熟に尽力できる下地になったと分析する.立脚期を考慮すれば固定膝に利点もあるが,歩行速度や歩行効率等の評価から分かる通り,より高いレベルの目標達成には,遊動膝による良好な遊脚期形成が重要といえる.高機能膝継手はPC制御による製品が存在するが,これも良好なアライメント設定が前提になる. その他の検討事項として,床からの立ち上がりを考慮して重心位置(義足長)を低く保つために,低床型足部や,キャッチピンを用いない装着法も要検討である.(キスシステム,シールインライナー,吸着式)【理学療法学研究としての意義】公費対象でない製品は高額であるため,現制度内での運用は決して一般的でない.しかし,両側大腿切断者のQOL向上に大きく寄与する事実を公にすることで,同様の重度切断障害者が,膝継手の選択次第で屋内外を問わず義足で生活できる可能性を見いだせるきっかけとしたい.期限設定~動作達成度の評価や訓練施設の特定など,今後は条件付きで膝継手支給の仕組みが議論されることも必要である.
著者
梅澤 慎吾 岩下 航大 沖野 敦郎 藤田 悠介 西村 温子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】両大腿切断は左右の膝を失う固有の障害像から,実用歩行を困難にする要素が多い。しかし,優れた立脚・遊脚制御を備える膝継手が一般的になりつつある昨今,片側切断者に匹敵するレベルで歩行可能な事例が散見される。その達成のためには要所を押さえた義肢部品の運用と,全体のマネージメントが必須となる。先の報告では二足実用歩行を獲得した症例を報告した。今回は同様に実用歩行を獲得した新たな症例から,時代に即した情報の一つとして,大腿切断者の高活動ゴールの方向性を提示することを目的とする。【症例】27歳 男性 交通外傷による両大腿切断。既往歴や合併障害なし。前病院の断端形成術後,義肢装具SC入院《断端長》右23.0cm,左22.0cm《受傷前身長》181cm 《義足装着》シリコーンライナー使用[初期評価:リハ開始時(特徴的な要素のみ記載)]《ROM》左股関節伸展0°右股関節伸展0°《徒手筋力評価》左右股関節周囲筋4・体幹筋4《疼痛》左断端末外側に圧痛・荷重時痛 《受傷~義肢装着の期間》約1ヶ月[最終評価:24W終了時]《ROM》左股関節伸展5°右股関節屈曲伸展10°《徒手筋力評価》左右股関節周囲筋5体幹筋5《疼痛》同部位に圧痛残存するも,装着時はソケット修正で自制内[膝継手の変遷]固定膝⇒C-Leg⇒C-LegCompact【経過と結果】[開始~12W]膝継手非使用,または固定膝でリハ施行。スタビー(短義足)による動作習熟が中心。移動範囲は前半が屋内,後半が屋外・屋内応用歩行を中心に行う。坂道下りが二足で可能になることを条件に,4段階で義足長を10cm毎に長くする。《10m歩行》13.8秒 《12分間歩行》420m[12W~24W]C-Leg変更後は膝屈曲位での二足坂道下り動作と歩行中の急激なブレーキ動作など,膝継手の立脚期油圧抵抗(イールディング機能)の習熟と反復に重点を置いて訓練継続。杖なしでの坂道歩行や円滑な方向転換が16Wで自立。最終では装着時身長が178cm,約2~3kmの屋外持続歩行や公共交通機関の利用がT杖携帯で自立となる。《10m歩行》7.0秒 《12分間歩行》840m【考察】両大腿切断のリハは到達目標が頭打ちになることが多い。同障がい者が義足で生活を送るには,多様な路面の攻略が必要だが,特に坂道下り動作の自立が義足常用化の鍵になる。多くは手摺りを利用出来る公共の階段と違い,屋外の坂道に手摺りはなく,従来の膝継手では杖使用でも円滑な動作が困難だからである。この報告で提案するリハの基軸は「安心感をもたらす膝継手選択で可能になる身体機能向上」と「膝継手で引き出せる動作の習熟(坂道下り)」である。いずれも製品の理解が重要でなる。C-Legは,イールディング機能による立脚期制御と円滑な油圧抵抗のキャンセルによる遊脚期制御(クリアランスの形成)が独立して調整可能で,運用次第で多様な路面の歩行が可能になる。具体的には1.強力な油圧抵抗が大腿四頭筋の遠心性収縮を代用し,一方の膝を緩やかに屈曲させながら他方の足部接地を行う時間的猶予を与える 2.継手が完全伸展位で,かつ設定した閾値以上の前足部荷重をしなければ油圧抵抗がキャンセルされず不意に膝折れが起きない 3.エネルギー効率の面で優位とする報告があり,持続歩行が過負荷にならない等の特長がある。今症例では膝継手使用前に,低重心かつ膝折れのない環境で充分な時間を割き,二足歩行で多くの動作習熟を行った。これは股関節周囲筋群の強化と,多くの動作獲得という成功体験に繋がる。効果として,継手使用以降で動作習熟に時間を要する場面でも,かつて出来たことが基準となり,装着者に問題意識が芽生え積極性を生む下地になったと分析する。立脚期を考慮すれば固定膝に利点があるが,歩行速度や距離の結果より,高いレベルの目標達成には遊動膝の良好な遊脚期形成が重要となる。高機能膝継手はPC制御による製品が存在するが,良好なアライメント設定が前提になる。その他の検討事項として,床からの立ち上がりを考慮した低重心の保持を目的に,低床型足部やキャッチピンを使用しない装着法も有効な選択肢である。(キスシステム,シールインライナー,吸着式)【理学療法学研究としての意義】高額製品の制度内支給は決して一般的でない。しかし,両大腿切断者のQOL向上に大きく寄与する事実を公にすることで,重度切断障害者の自立支援に向けた有効な情報提供になると共に,このような実績の蓄積が制度に則った運用の円滑化を生む契機になることを望む。成功体験を得た両大腿切断者にとって,高機能膝継手は「便利」というレベルに止まらず,人生を通じて「必要不可欠」な製品である。
著者
梅澤 慎吾 岩下 航大 坂井 優之 大野 祐介 宮永 豊
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.C3O2155, 2010

【目的】<BR>昨今、立脚期油圧制御を備えた高機能膝継手が多数開発され、その代表格C-LEG(OttoBock)の研究報告は以前から行われている。しかしそれらは健常側で運動制御が可能な片側切断の症例や、両側切断では限られた環境での杖歩行が多数を占める。一方、両大腿切断者の二足実用歩行をゴールに据えた場合、高機能膝継手を選択する意義や活用のポイントはこれまで議論されていない。今回の報告では両側切断と片側切断で運動制御の違いを比較し、両切断者に高機能膝継手を処方した場合に歩行自立度に及ぼす影響を検証することを目的とした。<BR>【方法】《症例》30歳、男性、身長170cm。鉄道事故による両膝離断。H19年7月切断術施行。左右断端長45cm、両股関節に可動域制限なし、荷重痛により断端末荷重不可。H19年9月3日より当センター入所。床から車椅子の移乗がプッシュアップ台利用にて自立。訓練期間(4ヶ月)を区分すると内容は次の通り。《C-Leg試用前2ヶ月》開始1ヶ月がソケットと足部のみのスタビー義足を使用し、立位バランスと歩行訓練。後の1ヶ月で段階的に義足長を本来の身長に合わせ、同様の訓練を実施しながら膝継手の変更を試みる。<BR>《両側C-Leg変更後2ヶ月》遊脚期の膝屈曲による足部クリアランスの確保を念頭に置き、平地で杖なし持続歩行が可能となった段階で応用歩行へ移行。坂道の下り・歩行時の減速・方向転換など立脚期油圧制御(イールディング機能)を最大活用することに重点を置き習熟を図る。<BR> 【説明と同意】 研究の目的、方法、予想される臨床上の利益、協力者が不利な扱いを受けないこと、データ管理に注意を払うこと、結果の公表の仕方などを本人に説明し、可能な限りで個人情報の開示を行う旨を了解済みである。<BR>【結果】《C-Leg変更前》固定膝と遊脚期油圧制御膝継手(OttoBock3R60)の組み合わせで約1kmの持続歩行を獲得。これは平地や両側に手摺りのある階段など条件付きの環境にて両T字杖で行っている。一方、屋内外を問わず、坂道の下りは杖使用でも動作獲得は達成されなかった。<BR>《C-Leg変更後》約2ヶ月で屋外杖なし歩行自立、片側手摺りを利用しての階段交互昇降と杖なしでの坂道歩行自立。また約3kmの屋外持続歩行や公共交通機関の利用が杖なしで自立となる。最終では実際に職場で訓練を実施。想定される様々な動作を行い、車いすを用いず遂行可能であることを確認。一方、車での通勤を可能にする環境整備(車の改造、駐車場の確保)も進めた後に退所。復帰後半年間はパートタイム、後にフルタイムで職場復帰を果たす。<BR>【考察】これまでの両大腿義足の訓練は「転倒の恐怖感」が自立への障壁になっていると推測される。片側大腿切断の場合、1.坂道の下り2.歩行時の減速や方向転換など日常生活で頻回に繰り返される動作の多くは、速度調整や安定性の保障などを健常側下肢によって行っている。これに対して両大腿切断者は1.2の動作で転倒しない為の保障を得られず、積極的な動作獲得への取り組みが行えないと考えられる。一方でC-Legの特筆すべき機能として1.強力な油圧抵抗で大腿四頭筋の遠心性収縮を代用し、一方の膝を緩やかに屈曲させながら他方の足部接地を行う時間的猶予を与える(坂道の下りが自立する可能性) 2.歩行時踵接地から爪先離地まで、一連の歩行動作を行わなければ油圧抵抗がキャンセルされず不意な状況で膝折れを起こさない(方向転換時の安定性向上) 3.C-Legをエネルギー効率の面で優位とする報告があり、義足歩行を継続しながらも過負荷にならず、実生活を視野に入れやすいなどの特長がある。今症例のC-Leg使用前、使用後を比較すると坂道下り動作の獲得が達成されたこと、また持続歩行距離に決定的な違いを見出すことができる。この結果は恐怖感が軽減され、省エネルギー歩行が可能であれば、多様な動作のチャレンジが可能となり訓練過程で身体能力がさらに向上し、より高い目標を掴める可能性があることを意味する。訓練で重要となるのは、膝折れを起こさないように立脚期股関節伸展を行う通常歩行、意図的に膝折れする方向に荷重する坂道の下り、この相反する動作の仕組みを説明し、膝継手の特長を義足ユーザーとセラピストが共通理解のうえで反復・習熟を図ることが重要である。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>両膝を失った状況で公の環境に順応するには、たとえ残存機能を最大限発揮したとしても、ある程度義肢に依存しなければならない側面がある。このようなケースでは膝継手の特長を理解し、調整を適宜セラピストが行うことも求められる。膝継手の特性が両切断者の身体面・精神面にいかに影響を及ぼすかについては、同様の症例でC-Leg並びに、他の膝継手を比較し、定量的・客観的な評価を行っていく必要がある。<BR><BR>