著者
坂本 つや子 SAKAMOTO Tsuyako
出版者
三重大学人文学部文化学科
雑誌
人文論叢 (ISSN:02897253)
巻号頁・発行日
no.28, pp.73-87, 2011

クリストファー・マーロウの戯曲、Doctor Faustusの主人公フォースタスについて、マーロウが資料として用いたThe English Faust Bookをもとに検討する。順序は次のとおりである:1ヴィッテンベルクで学位を取得したフォースタスが悪魔と契約を結ぶ経緯、2数回の大旅行(地獄と天界の旅、ローマ訪問、世界旅行の途上楽園を遠望する)について、3カロルス5世の宮廷訪間、4アンホルト公爵夫妻訪間、5トロイのヘレンについてのエピソード、6ワグナーを相続人に指名する、学者たちとの別れ、手記の発見。The English Faust Bookでは、フォースタスはルネサンス人として異教の文化を学び、神の領域に属する知識を手に入れるため、冒険的探求の旅に出る。彼は手記を残し、死後出版されるよう心を配る。Doctor Faustusでは、フォースタスは悪魔に魂を売ることで人間に隠されている知識を獲得するが、その知識は彼を解放せず、むしろ神が支配する世界の枠組みの堅牢さを認識させる結果となる。しかし彼が高く評価するギリシア、ラテン世界の思潮は、中世的世界の枠組みを壊す力を秘めている。
著者
坂本 つや子
出版者
三重大学人文学部文化学科
雑誌
人文論叢 : 三重大学人文学部文化学科研究紀要 (ISSN:02897253)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.75-91, 2012-03-30

クリストファー・マーロウの戯曲に頻出する衣装と宝飾品の意味について、1.TheTragedyofDido,QueenofCarthageでは女王ダイドー、2.TamburlainetheGreat,PartsOneandTwoではタンバレンおよびゼノクレィティ、3.EdwardtheSecondではエドワード2世と王妃イザベル、寵臣ギャヴスタン、貴族たち、聖職者たち、4.DoctorFaustusではフォースタスについて考察する。全ての作品において、衣装と宝飾品は権力権威の表象となり、それが登場人物たちの支配への欲望、あるいは自分を中心にした秩序構築への欲望を満たすための手段として機能していることが明らかである。
著者
坂本 つや子
出版者
三重大学
雑誌
人文論叢 : 三重大学人文学部文化学科研究紀要 (ISSN:02897253)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.71-87, 2002-03-25

Oscar Wildeの三つの作品,The Importance of Being Earnest, Salome, The Selfish Giantについて,「庭」という観点から論じる。The Importance of Being Earnestでは,第一幕はロンドンのフラット,第二幕はウールトンのマナーハウスの庭,第三幕はマナーハウスの邸内が背景に設定されている。作者はShakespeareのA Midsummer-Night's Dreamを下敷きにして,宮廷の秩序に対する森の混沌,あるいはArtに対するNatureという,古典的対立概念を作品の構成に利用し,全体の秩序を統べる者として,Duchess of Bolton (舞台には登場しない)及びLady Bracknellを設定している。Salomeは聖書のエピソードと,Flaubertの短編Herodiasをもとに書かれた戯曲である。この作品には歴史と文明の集積地としての肉体が「囲われた庭」としてイメージされている。Salomeを恋する若者は彼女の肉体を「没薬(ミルラ)の園」と呼ぶ。Iokanaanは自らの身体を「主なる神の御堂」と呼ぶが,思想的純粋さに対する彼の自負は,Salomeの直観によって否定される。サロメは彼の神聖な白い身体とそそけた黒髪を「鳩や銀の百合に満ち満ちた庭園」,「茨の冠」に喩える一方,「癩病に冒された皮膚の白」,「黒葡萄を飾ったディオニュソスの髪」に喩える。このようにsalomeにおいては,聖とともに汚れや異教世界をも内包する,矛盾に満ちた複合体としての「囲われた庭」が渇仰の対象となる。The Selfish Giantは巨人の城に付属する広大な「庭」を背景に描かれている。童話の形式を取ったこの短編は,幼子の姿をしたキリストの「囲われた庭」への訪問,巨人のキリスト迫害と回心,キリストの顕現と聖痕の提示,巨人の「楽園」への昇天を描く奇跡劇(ミステリー・プレイ)である。
著者
坂本 つや子 Sakamoto Tsuyako
出版者
三重大学人文学部文化学科
雑誌
人文論叢 (ISSN:02897253)
巻号頁・発行日
no.27, pp.179-189, 2010

Constance Brown Kuriyama による Christopher Marlowe の伝記研究は、 John Bakeless に始まる、ヴィクトリア期以降マーロウ研究が盛んになって以来、次々に発見される資料をもとにした実証的研究の流れに沿っている。しかしクリヤマは膨大ではあっても、断片的な資料に基づいて過去の人物像を再構築する際に陥りがちな、先入観による事実歪曲の危険性についても認識している。クリヤマはカンタべリにおけるマーロウの一族とキングズ・スクールの教師、ケンブリッジ時代以降の友人や周辺の人々、ケンブリッジの頃から繋がりがあったと考えられる国務長官サー・フランシス・ウォルシンガムおよびバーリー卿父子、ロンドンの劇場関係者たち、およびパトロンであったトマス・ウォルシンガムやストレンジ卿、あるいはサー・ウォルター・ローリーおよびノーサンバランド伯爵等、マーロウの人生にかかわった人々との関係性について綿密に分析を行い、マーロウの人生の謎の部分について、極めて理性的な考証を行っている。