著者
坂本 宗樹 結城 俊也
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.10, 2008

【はじめに】片麻痺患者の歩行練習において、下肢関節の支持機能(身体位置の感覚や筋張力発現)低下の程度に個人差がある事から、一様に短下肢装具対応では機能的な歩行に繋がり難い患者もいると考えていた中、重度の左片麻痺患者に対し長下肢装具使用下での立位・歩行練習の機会を得た。当症例を通して装具非使用・短下肢装具使用下では獲得する事が困難と思われる効果が見られたので以下に報告する。<BR>【症例紹介】79歳男性、診断名:右脳内出血(前頭葉・頭頂葉皮質下)、経過:平成17年6月18日に発症し、Z大学病院に入院。リハビリテーション(以下、リハビリ)目的にて7月20日当院回復期リハビリ病棟へ転院となる。初期評価(7月21日):覚醒良好、Br.stage上下肢・手指共にI、起居動作中等度~全介助、端座位保持困難、所謂プッシャー症候群顕在。退院日:11月29日<BR>【方法】11の運動課題を、森中らが推奨するCCAD joint付きプラスチック長下肢装具(以下、当該装具)を使用して9月22日より2ヶ月間実施。膝・足継ぎ手の設定は上記運動課題の遂行状況を確認し、膝伸展0°・足底屈5°とした。<BR>【結果】当該装具使用開始から2ヶ月間でT字杖軽~中等度介助歩行(10m歩行:113秒)からT字杖監視歩行(10m歩行:73秒)に至った。<BR>【考察】歩行における長下肢装具の適合性として、直接衝撃を受ける足底と床反力との関係においては、当症例の初期接地が全面同時接地であった事から足底部分の形状が足底全面を覆わずに前足部~中足部までを覆う形状とする事で相対的に少ない床反力に留まり、かつ当該装具特有のフレキシブル機能発揮下での足継手底屈5°固定による前方制限によって床面と下腿長軸の関係が垂直までの位置関係に留まった事で床反力作用点が足・膝関節共に関節付近を通り、膝関節伸展の筋張力が作用し易かった。また反張膝にならないよう足継手固定、膝伸展0°設定とした事で、より下肢伸展筋張力が発揮され易く、立脚期が安定し易くなった。そしてツイスター使用により股関節外旋を抑制する事で、過剰な関節運動の自由度を抑制し、より推進力を発揮・遊脚期での下肢軌道が安定し易かった。これに歩行周期の骨格筋作用を理解した理学療法士の介助も付加する事でより再現性の高い練習が行えたと考える。<BR>【まとめ】下肢装具を用いた歩行分析を通して、(1)身体機能(歩行能力)と装具機能(剛性)の関係性(適合性)は適正か、(2)床反力作用線は下肢の各関節付近を通っているか、を整理し、上記2つを解決する作業に臨む事で装具療法を洗練化し、機能的な歩行を導く事に寄与すると考える。
著者
坂本 宗樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>罹患歴の長い糖尿病患者において,食事・運動療法を患者自身の意志で継続的に努めるのは困難な場合が多い。小河らは,罹患歴が10年以上になるとインスリン導入からの離脱が困難になるとし,特に高齢者では合併症の進行を伴い,治療効果のある運動療法の提供に難渋する。今回,このような経過で外来でのフォローが困難となり,インスリン量増量するもコントロールが不良な事例に対し,4週間の入院期間中に運動療法を実施した。急性効果及びトレーニング効果について以下に報告する。</p><p></p><p>【症例紹介および方法】</p><p></p><p>79歳 女性 身長149cm 体重53,4kg BMI24.1</p><p>現病歴:外来受診時,血糖280mg/dl,HbA1c10.0,精査加療目的で入院。</p><p>インスリン導入時期:4年以上前にBasal supported Oral Therapy(以下,BOT)中。</p><p>入院時ADL:独居にて自立。</p><p>阻害因子:①腰部脊柱管症由来の腰痛,②黄斑変性由来の視力低下,③末梢神経障害由来の下肢の痺れ,④罹患歴25年を経過し,高齢なため苦労してまで長生きしなくていいという価値観を有し,行動変容ステージにおける前熟考期に相当。</p><p>トレーニング効果として,筋量の測定には生体電気インピーダンス方式体組成計であるPhysion MD(日本シューター社)を用い,リハ開始時及び退院前に測定。行動変容のための体調確認および運動実行に対する意思は適宜確認。そして,インスリン投与単位はカルテにて確認。</p><p>リハ開始時筋量測定結果や阻害因子を考慮した上で,有酸素・抵抗運動が共に行える負荷調整が出来て,かつ坐位にて安全に行える環境として以下の運動設定とし,運動前後に血糖測定を行い,急性効果を確認。</p><p>強度 自覚的運動強度Borg Scale11~13</p><p>頻度 3~4日/週,1回/日</p><p>種類 座式上下肢協調運動器であるNuStep T4r(NuStep社)を使用し,負荷3にて有酸 素・抵抗同時運動</p><p>持続時間 20~30分</p><p>実施時間帯 午後1時30分~2時</p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>急性効果として,1回の運動で血糖降下は平均32(±30)mg/dl。</p><p>トレーニング効果として,①前熟考期から行動期へ向上。②血糖コントロール改善し,最大24単位/日が退院時10単位/日と減量。③除脂肪体重37.4kg→37.6kg,筋量16.2kg→17.4kgと増加。</p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>菅田らは罹患10年未満でBasal Bolus Therapy(以下,BBT)によって糖毒性およびインスリン抵抗が改善し,離脱できるまでに平均4ヶ月程掛かるとしている。本症例は,離脱こそ出来なかったものの,菅田らが提案した離脱基準に相当する程度(0.3単位/kg/日)まで短期間でインスリンが減量出来た。</p><p>BBT+食事(1400Kcal/日)そして継続的な運動により骨格筋及び肝臓での糖取り込みを促し,3週間程度の介入で骨格筋量及び除脂肪体重改善され,一層インスリン抵抗性改善に寄与した。これにより必要インスリン減少に繋がったと考える。退院時には経口血糖降下薬に基礎インスリンと一回の追加インスリンによるBasal Plusとなった。</p><p>これが達成されるよう患者の調子も考慮した運動促進の声かけを行い,動機付けを図った事が奏功した。</p>