著者
結城 俊也
出版者
日本保健福祉学会
雑誌
日本保健福祉学会誌 (ISSN:13408194)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.21-38, 2011

本研究の目的は脳卒中者における身体経験の内側から職人技の回復プロセスをみつめ、その意味を現象学的に解釈することにある。さらにそこから脳卒中後のリハビリテーションプログラムにおける視点の再考を促すことを試みる。職人歴30年以上の3名の脳卒中者(すし職人、和菓子職人、建具職人)に対して、発症時、5日目、2週間目、1、2、3、4、5、6ヶ月目、1年目の計10回にわたり半構造化インタビューを実施した。得られたデータは解釈学的現象学的分析を用いて身体経験の意味を解釈した。結果として全13テーマが析出され、それらが6つの上位カテゴリーにまとめられた。本研究の主たる知見は、時間経過における身体経験は三つの局面に類型化できることを示したことにある。すなわち、(1)麻痺したことによって自分の身体を「物」としか感じられないという身体経験から、麻痺の改善によりいきいきと外界を感じられる身体へと移行する局面、(2)手という部分的な改善への固執という身体経験から、手仕事を円滑に行うためには全身機能の改善が重要であることを認識する経験へと移行する局面、(3)個人としての身体経験から、同病者や健常者との関係性を通じての身体経験へと移行する局面、という三つの局面である。これらの局面は過去から未来という時間軸のなかで相互に絡み合いながら身体経験の意味づけがなされていた。リハビリテーション支援においては、単に「できる-できない」といった表層部分にのみ拘泥するのではなく、世界を媒介するものとしての身体、その身体が多様なチャンネルをもって世界と切り結んでいける経験の多様性を支援することこそが肝要であることが示唆された。
著者
坂本 宗樹 結城 俊也
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.10, 2008

【はじめに】片麻痺患者の歩行練習において、下肢関節の支持機能(身体位置の感覚や筋張力発現)低下の程度に個人差がある事から、一様に短下肢装具対応では機能的な歩行に繋がり難い患者もいると考えていた中、重度の左片麻痺患者に対し長下肢装具使用下での立位・歩行練習の機会を得た。当症例を通して装具非使用・短下肢装具使用下では獲得する事が困難と思われる効果が見られたので以下に報告する。<BR>【症例紹介】79歳男性、診断名:右脳内出血(前頭葉・頭頂葉皮質下)、経過:平成17年6月18日に発症し、Z大学病院に入院。リハビリテーション(以下、リハビリ)目的にて7月20日当院回復期リハビリ病棟へ転院となる。初期評価(7月21日):覚醒良好、Br.stage上下肢・手指共にI、起居動作中等度~全介助、端座位保持困難、所謂プッシャー症候群顕在。退院日:11月29日<BR>【方法】11の運動課題を、森中らが推奨するCCAD joint付きプラスチック長下肢装具(以下、当該装具)を使用して9月22日より2ヶ月間実施。膝・足継ぎ手の設定は上記運動課題の遂行状況を確認し、膝伸展0°・足底屈5°とした。<BR>【結果】当該装具使用開始から2ヶ月間でT字杖軽~中等度介助歩行(10m歩行:113秒)からT字杖監視歩行(10m歩行:73秒)に至った。<BR>【考察】歩行における長下肢装具の適合性として、直接衝撃を受ける足底と床反力との関係においては、当症例の初期接地が全面同時接地であった事から足底部分の形状が足底全面を覆わずに前足部~中足部までを覆う形状とする事で相対的に少ない床反力に留まり、かつ当該装具特有のフレキシブル機能発揮下での足継手底屈5°固定による前方制限によって床面と下腿長軸の関係が垂直までの位置関係に留まった事で床反力作用点が足・膝関節共に関節付近を通り、膝関節伸展の筋張力が作用し易かった。また反張膝にならないよう足継手固定、膝伸展0°設定とした事で、より下肢伸展筋張力が発揮され易く、立脚期が安定し易くなった。そしてツイスター使用により股関節外旋を抑制する事で、過剰な関節運動の自由度を抑制し、より推進力を発揮・遊脚期での下肢軌道が安定し易かった。これに歩行周期の骨格筋作用を理解した理学療法士の介助も付加する事でより再現性の高い練習が行えたと考える。<BR>【まとめ】下肢装具を用いた歩行分析を通して、(1)身体機能(歩行能力)と装具機能(剛性)の関係性(適合性)は適正か、(2)床反力作用線は下肢の各関節付近を通っているか、を整理し、上記2つを解決する作業に臨む事で装具療法を洗練化し、機能的な歩行を導く事に寄与すると考える。