著者
酒井 奈緒美 小倉(青木) 淳 森 浩一 Chu Shin Ying 坂田 善政
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.1-11, 2015 (Released:2015-04-08)
参考文献数
19
被引用文献数
5 1

吃音のある成人が抱える困難を,WHOの国際生活機能分類のモデルに基づき4つのセクションから包括的に評価する質問紙(Overall Assessment of the Speaker's Experience of Stuttering: OASES; Yaruss and Quesal, 2006)を日本語に訳し(日本語版OASES試案),吃音のセルフヘルプグループの活動に参加している成人30名に対して実施した.対象者の傾向として,①吃音に対する感情・行動・認知面に比較的大きな困難を感じる者が多い,②日常生活上の具体的なコミュニケーション場面における困難や生活の質の低下などは比較的小さい,③総合の重症度評定は軽度から中等度であることが示された.OASES自体に関しては,項目数の多さ,選択肢の表現や質問意図のわかりづらさなど,臨床場面にて使用するには問題となる点も認められたが,セクション間における平均得点の相違や,セクション間における平均得点の相関の高さが先行研究と一致し,海外と共通の尺度として有用であることが示された.
著者
坂田 善政
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.281-287, 2012 (Released:2012-10-09)
参考文献数
43
被引用文献数
3 3

本稿では,成人吃音例に対する直接法である流暢性形成法,吃音緩和法,統合的アプローチについて概説した.またこれらの訓練効果に関する近年の知見を紹介し,(1)流暢性形成法には一定のエビデンスの蓄積があること,(2)吃音緩和法は他のアプローチに比べて訓練効果に関する研究が少ないこと,(3)近年では統合的アプローチの立場をとる臨床家が多く,訓練効果に関する研究も増えていることを指摘した.加えて,わが国の成人吃音例に対する言語療法の効果に関する研究を概観し,わが国の成人吃音臨床における今後の課題として,(1)評価法の整備,(2)臨床研究の蓄積と質の向上,(3)相談機関の拡充,(4)言語聴覚士の専門性の向上を挙げた.
著者
坂田 善政 吉野 眞理子
出版者
日本言語聴覚士協会
雑誌
言語聴覚研究 (ISSN:13495828)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.77-86, 2016-06-15

吃音を主訴として来院した3歳8か月の女児に,環境調整法による指導を約4か月間行ったものの吃音が持続した.その後リッカム・プログラムを導入したところ順調に改善し,導入後6か月でStage 2に入り,その11か月後にはStage 2を終了した. 本症例の経過から,(1)リッカム・プログラムは本症例に対して一定の効果があったと考えられること,(2)まず環境調整法を一定期間行い,それに続く形でリッカム・プログラムを導入した点が本症例には有効であったと考えられること,(3)リッカム・プログラムの重症度評定尺度における“no stuttering”の日本語訳については「吃音とはいえない」という訳も考えられること,(4)Stage 1終了が近づいた時期には,保護者による重症度の評定値と臨床家による評定値の違いに対して,臨床家はより厳格になる必要があること,の4点を考察した.
著者
坂田 善政
出版者
日本言語聴覚士協会
雑誌
言語聴覚研究 (ISSN:13495828)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.3-10, 2015-03-15

本論文では,まず成人吃音の臨床において有用と思われる評価の枠組みを提案した.この枠組みは,吃音の問題を「吃音症状」「環境」「本人の受け取り方(認知・感情面)」という3側面から捉え,これらに「合併する問題」を加えた4側面から評価を行うものである.続いて,これら4側面に対して行い得る訓練・支援について概説し,訓練効果に関する研究についても紹介した.具体的には,流暢性形成法や吃音緩和法,統合的アプローチ,認知行動療法,年表方式によるメンタルリハーサル法,セルフヘルプ・グループといったアプローチについて言及した. 言語聴覚士は,吃音に関する授業が教育課程の中に明確に位置づけられた唯一の専門職である.それゆえに言語聴覚士は,吃音について悩んでいる方がいればその方々を支援する責任があり,また可能な支援の形は数多くある.