著者
山岡 巧弥 田村 嘉章 小寺 玲美 坪井 由紀 佐藤 謙 千葉 優子 森 聖二郎 井藤 英喜 荒木 厚
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.349-355, 2017-07-25 (Released:2017-08-29)
参考文献数
18
被引用文献数
3 1

目的:高血糖高浸透圧症候群(hyperglycemic hyperosmolar state,HHS)は,高度の高血糖,脱水を特徴とする病態であり,高齢者でとくに発症率が高いが,多くのHHSの症例を集積してその特徴を検討した報告は少ない.われわれは7年間に当院に入院したHHSの14例についてその臨床的特徴を詳細に調査したのでここに報告する.方法:非ケトン性高浸透圧性昏睡またはHHSの病名で入院し,入院時血糖>600 mg/dLかつ血清浸透圧=2(Na)+glu/18>320 mOsm/kgであった65歳以上の14名について,その背景因子と臨床的特徴を調べた.結果:平均年齢は83歳と高齢であり,やせ型のものが多かった.脳梗塞または大腿骨頸部骨折の既往があるものが7/14例(50%)に認められた.糖尿病の平均罹病期間は14年だったが4例は初発だった.認知症の既往は86%,要介護3以上は71%と高率に認められた.また,独居または高齢者の同居者のみが57%であった.発症時期としては冬(12~2月)が多く,誘因として感染症が79%にみられ,尿路感染症と肺炎が多く見られた.ステロイド使用中,経管栄養中,両者併用のものがそれぞれ1,2,1名であった.平均血糖は881 mg/dL,HbA1c 10.3%,浸透圧353 mOsm/kg,pHは7.39であり,高度な脱水を呈するものが多かった.1名が入院中に死亡し,9例は療養病院または施設へ退院した.平均在院日数は55日であり,インスリン分泌能は良好なものが多く,9例が経口血糖降下薬のみで退院した.結論:高齢者のHHSの発症の背景と臨床的特徴が明らかになった.感染症合併例が多く,社会的サポート不足や認知機能低下,ADLの低下症例が多い.生命予後は良好であったが,自宅退院不能例が多いことから機能的予後はよくないと思われた.