著者
坪川 涼子 ウィラン リチャード C. 奥谷 喬司
出版者
日本貝類学会
雑誌
貝類学雑誌 (ISSN:00423580)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.249-263, 1992

従来日本産Pleurobranchaea属としてはウミフクロウにP. novaezealandiae Cheeseman 1878が, ツノウミフクロウにP. sp.の学名があてられていたが, それらの学名について検討した結果, 前者にはP. japonica Thiele, 1925, 後者にはP. brockii Bergh, 1897の学名をあてるのが最も適当であることがわかった。ウミフクロウに以前にあてられていた学名P. novaezealandiaeは, 現在ではP. maculataとシノニムとされている。P. japonicaは神戸産の標本をもとに記載されたが, 腹足, 背楯, 歯舌, 顎板などの形態のみの不十分な記載であったために, P. maculataとシノニムである可能性が疑われていた。本研究によりP. japonicaはP. novaezealandiae=P. maculataとは外部生殖器官の位置や形態, 腹足腹面の色, 幼生の殻の形態と浮遊期間に明瞭な相違があるため, 独立の別種であることがわかった。ツノウミフクロウについては, Baba (1949, 1969)によりPleurobranchaea sp.として記録されていたが, 本研究で腹足背面の突起, 頭膜前縁の小突起の列, 内部及び外部生殖器官の特徴により従来インドネシア海域とアフリカ東岸から知られていたP. brockiiであると結論された。
著者
坪川 涼子 ボーランド ロバート
出版者
日本貝類学会
雑誌
貝類学雑誌 (ISSN:00423580)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.184-195, 1991

沖縄本島および小笠原諸島父島より採集された18個体の背楯目の標本を調べたところ, 日本産未記録のBerthella martensi (Pilsbry, 1896)と同定された。本種は小型で, 背楯は大きく, 動物体の輪郭は楕円形をしている。背楯は腹足やえらを覆い, その前端中央には深い切れ込みがある。背楯は4個の部分からなり, 刺激によって殻を内包する中央部分を残して, 右側, 左側と後ろ側の3個の部分は自切によって本体より離れるという特徴がある。頭膜は大きく, 台形をしている。頭触手は基部で左右が融合し, その先端は背楯の前端の切れ込みから外側へ突き出して見える。腹足の前端には顕著なmucus groove(粘液溝)がある。えらは懸鰓膜によって右体側につき, 軸の上下にそれぞれ11枚から19枚(平均14.4, N=8)の羽状葉を持つ。えらの基部には前鰓孔があり, 懸鰓膜の後端上側には肛門が開く。体色には3つの型が識別された。殻は背楯の中央部分の下にあり, 楕円形でやや膨らむ。殻の背面には成長線がみられる。殻は白く薄く, ホルマリン固定標本ではしばしば脱灰されて殻皮のみが残る。歯舌は中歯を欠き, 多数の側歯から成る(歯舌式は62-93×76-134.0.76-134)。側歯は強く彎曲し, 単尖頭である。側歯内側に顕著な溝を生じることがある。顎板は特徴のある十字形の小歯からなる。生殖器官系はBerthella属の典型であるが, 雄性輸出管にはprostate gland(前立腺)と呼ぶ膨大部を欠き, 太く長いpenial gland(陰茎腺)が付属する。交尾嚢は球形, 受精嚢は楕円体をしていて, 両者はほぼ同じ大きさである。生殖開口はえらの基部下側に丸い隆起を生じ, その中央に雄性開口があり, 後ろ側へ連続して雌性開口がある。陰茎は円錐形である。食性については消化管内容物より, 少なくとも海綿類を食べることがわかった。本種は1880年のMartensによる最初の記録以来, Willan(1984)とGosliner and Bertsch (1988)の報告があるのみである。今回の報告とそれらを合わせると, 本種の分布はインド洋から太平洋に及ぶ。本種は刺激を受けると背楯を自切するという奇習があるので, チギレフシエラガイという和名を提唱する。