著者
津田 充宥 大垣 比呂子 垣添 忠生
出版者
国立がんセンター
雑誌
がん特別研究
巻号頁・発行日
1986

生体、特に胃以外の部位で、ニトロソ化合物が生成する可能性をさぐる目的で、チオプロリンのニトロソ化を指標として、以下の研究を実施した。1.生体試料中のチオプロリンの分析:生体内での亜硝酸捕捉剤と考えられるチオプロリンの微量分析法として、化学発光検出器を用いる方法を独自に開発した。本法により、ヒト血中並びに尿中に、チオプロリンが常在すること、更に動物(ラット)組織を分析した結果、肝、肺、腎の各組織中にもチオプロリンが存在する事を明らかにした。この事は、チオプロリンが生体における常在成分である事を示唆するものであり興味深い。もし胃以外の部位でのニトロソ化が起こるとするなら、組織中のチオプロリンが優先的にニトロソ化され、尿中にニトロソチプロリンとして排泄されている事が予想され、今後の検討課題と考える。2.中性条件下でのニトロソ化反応のin vitroでの検討:Cigarette smokeや都市ガス燃焼雰囲気中のNOxが、ニトロソ化反応に関与するか否かを知る為で、これらをチオプロリンの水溶液中に導入した結果、それぞれ,10-16ng/cigarette,500-800ng/30min.燃焼でニトロソ化体を検出した。この事実は、cigarette smoke中や大気汚染物質としてのNOxが、何らかの形でヒト体内でのニトロソ化反応に寄与し得る事を示したものと考える。3.【NO_2】曝露の生体内ニトロソ化反応への影響:上記1.、2.の知見に基づいて、【NO_2】に曝露(10ppm,12時間)されたラットの尿中ニトロソアミノ酸含量を調べた結果、ニトロソプロリン及びニトロソチオプロリン含量が、曝露群で有意(約2倍)に上昇していた。この事実は直ちに、胃以外の部位、例えば肺組織中でのニトロソ化を意味するものではないが、重要な知見と考える。更に詳細な検討を重ねて結論する必要があり、現在、追試験を検討中である。
著者
大谷 幹伸 宮永 直人 野口 良輔 小磯 謙吉 辻 比呂志 有本 卓郎 稲田 哲雄 北川 俊夫 辻井 博彦 田中 良典 鳶巣 賢一 垣添 忠生
出版者
社団法人日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雜誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.82, no.5, pp.821-825, 1991-05-20

C3H/He雌マウスに対し,0.05%のN-Butyl-N-(4-Hydroxybutyl)nitrosamine(BBN)を飲料水として18週間与えた.19週目に11頭のマウス(第3群)を屠殺して,全てに膀胱癌が発生していることを確認した.残りのマウスは二つの群に分け,第1群は骨盤全体に20Gyの陽子線を照射した.一方第2群は,照射を行なわない対照群とした.照射の3週間後全てのマウスを屠殺し,膀胱を切除した.膀胱はホルマリン固定後に重量(≒癌の重量)の測定と,組織学的検索を行なった.膀胱の平均重量(≒癌の重量)は,第1群で67.7mg,第2群で120.6mg,第3群で106.5mgであって,第1郡との間にそれぞれ有意な差が認められた(p<0.05).また表在癌(pT1)と深部浸潤癌(pT2〜3)の頻度は,第1群で10/18(56%)と8/18(39%)であった.また第2群のそれは,3/17(18%)と14/17(82%),第3群のそれは2/11(18%),9/11(82%)であった.第1群と2群問に有意な差(p<0.05)が認められた.しかし第1群と第3郡との差は有意ではなかった(p=0.068).これらの結果はマウスの膀胱癌に対して,陽性線照射が有効な治療法であることを示唆している.