著者
辻井 博彦
出版者
The Japanese Society of Oral Pathology & The Asian Society of Oral and Maxillofacial Pathology
雑誌
The Journal of JASTRO (ISSN:10409564)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.63-76, 1994-06-25 (Released:2011-07-11)
参考文献数
34
被引用文献数
1

陽子線の最大の魅力は, ブラッグピーク効果により優れた線量分布を形成することであるが, 同時にその照射装置は既存の加速器に手を加えれば容易に利用出来るという利点も有している. 生物学的には光子線と同じ低LET放射線に分類されるが, これは, 従来から蓄積されている光子線の生物学的知識をそのまま利用できることを意味する.陽子線治療はこれまで世界の16施設で行われ, 約1万3千人が治療された.適応疾患はまだ限られており, 70%以上が眼や頭蓋内小病巣で占められている.このうち30~40%は網膜メラノーマ, 約40%は頭蓋内の小病巣で, 他は頭頚部や前立腺などで, 胸腹部の深部癌はまだ少数である. 網膜メラノーマは, 陽子線により大線量照射 (70Gy/5回または60Gy/4回) が可能になってから, 眼球内制御率96%, 生存率80~88%という素晴らしい成績が得られるようになった. 頭蓋底・頚椎原発肉腫に対しては, 陽子線で65-75Gy (1.8Gy/fx) 照射することにより65~91%の5年制御率が報告されている.一方, 筑波大学では主に深部臓器癌を対象として, 肺, 食道, 肝, 膀胱などで良い成績を得ている.なかでも原発性肝癌に対しては, 陽子線治療が将来有効な治療法になるものと期待される.以上の優れた臨床成績に刺激され, 新たに陽子線治療を行いたいという施設が急速に増えている.これは陽子線治療がコスト・ベネフィットの面からも十分に評価できる治療法であることを証明するものである.
著者
大谷 幹伸 宮永 直人 野口 良輔 小磯 謙吉 辻 比呂志 有本 卓郎 稲田 哲雄 北川 俊夫 辻井 博彦 田中 良典 鳶巣 賢一 垣添 忠生
出版者
社団法人日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雜誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.82, no.5, pp.821-825, 1991-05-20

C3H/He雌マウスに対し,0.05%のN-Butyl-N-(4-Hydroxybutyl)nitrosamine(BBN)を飲料水として18週間与えた.19週目に11頭のマウス(第3群)を屠殺して,全てに膀胱癌が発生していることを確認した.残りのマウスは二つの群に分け,第1群は骨盤全体に20Gyの陽子線を照射した.一方第2群は,照射を行なわない対照群とした.照射の3週間後全てのマウスを屠殺し,膀胱を切除した.膀胱はホルマリン固定後に重量(≒癌の重量)の測定と,組織学的検索を行なった.膀胱の平均重量(≒癌の重量)は,第1群で67.7mg,第2群で120.6mg,第3群で106.5mgであって,第1郡との間にそれぞれ有意な差が認められた(p<0.05).また表在癌(pT1)と深部浸潤癌(pT2〜3)の頻度は,第1群で10/18(56%)と8/18(39%)であった.また第2群のそれは,3/17(18%)と14/17(82%),第3群のそれは2/11(18%),9/11(82%)であった.第1群と2群問に有意な差(p<0.05)が認められた.しかし第1群と第3郡との差は有意ではなかった(p=0.068).これらの結果はマウスの膀胱癌に対して,陽性線照射が有効な治療法であることを示唆している.