著者
堀之内 末治
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

グラム陽性細菌である放線菌は、菌糸状に生育して最終的には珠玉状胞子を着生する複雑な形態分化を行う。放線菌中に見出されたカルシウム結合タンパク質CabAは、遺伝子破壊などのデータからカルシウムバッファーまたはトランスポーターとして機能すると推定された。CabBと名付けたタンパク質は放線菌に広く分布し、2個のEFハンドモチーフを有する。CabBは真核生物のカルモジュリンと高い相同性を示す。なお、カルモジュリンは相同性のあるドメインが2個連なったダンベル構造をとっているが、CabBはその1個分の大きさを持つ。CabBについて以下の知見を得た。(1)S.ambofaciensとS.coelicolorにおいて、cabBは培養期間を通じて単一の転写開始部位から転写された。(2)CabBは放射ラベルのCaを用いた実験で、高いCa結合能が確認された。CabBは2個のEFハンド有することから、2個のCaイオンを結合すると推定された。(3)CabBはCa結合により、そのα-ヘリックス含量が大幅に増加することをCDスペクトル分析で確認した。(4)cabB破壊株では、胞子の発芽に違いが見出され、また高濃度カルシウム培地での生育が遅れた。したがって、CabBは、放線菌の増殖、胞子発芽に関係することが推定された。CabBと相互作用する菌体内タンパク質の同定やその分子機構の解明は今後の興味ある課題である。
著者
堀之内 末治
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1997

A-ファクターは放線菌Streptomyces griseusにおいて二次代謝・形態分化を制御するγ-ラクトン型の微生物ホルモンである。A-ファクターと共同して機能を発揮するレセプター蛋白(ArpA)はDNA結合蛋白であり、A-ファクター非存在下では二次代謝・形態分化の開始に重要な遺伝子のプロモーター領域に結合し、その転写を抑えているものと考えられる。ArpAはA-ファクターと結合することによりDNAから速やかに解離する。本研究はArpAの機能の解明を中心にA-ファクターカスケードの全貌解明を目指したものである。1. ArpAのターゲット遺伝子に関する解析ストレプトマイシン(Sm)生合成遺伝子群の特異的アクチベーターをコードするstrRの転写活性化因子としてAdpA蛋白を精製したが、adpA遺伝子がArpAのターゲット遺伝子であることを証明した。本研究成果によってSm生産に関わるA-ファクターカスケードの主要経路を明らかにすることができた。一方、ゲルシフトとPCRを組み合わせた方法により、S.griseus染色体よりArpAが結合する配列を2つ取得し、周辺のDNA断片を取得し塩基配列を決定した。ArpAターゲット候補遺伝子に関しては、その転写制御機構および遺伝子破壊による生体内での機能について解析中である。2. X線結晶構造解析による3次元構造の決定Streptomyces coelicolorA3(2)のArpA相同遺伝子産物であるCprBの結晶化とその結晶化条件の最適化に成功し、結晶学的パラメーターを決定した。さらに、重原子置換体結晶のx線回折実験を行い、初期位相を決定するに至った。きわめて近い将来、CprBの3次元構造を明らかにすることができると考えている。CprBの3次元構造を決定できれば、比較的容易にArpAの3次元構造が決定できる。