- 著者
-
堀内 佐智雄
- 出版者
- 独立行政法人産業技術総合研究所
- 雑誌
- 若手研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2006
まず,これまで開発した酸一塩基型有機強誘電体について焦電特性を評価するため,焦電流測定法を用いた自発分極の温度変化を計測した。その結果,最大4-6μCcm^<-2>もの大きな自発分極が得られていることを見出した。特に,重水素化ヨーダニル酸(D_2ia)と5,5'-ジメチルー2,2'-ビピリジン(55DMBP)との一価陽子移動塩においては,室温で大きな自発分極をもちかつ,焦電係数について,典型的な焦電実用材であるTGS(硫酸グリシン)に匹敵する性能(400μCm^<-2>K^<-1>)を示すことも見出した。有機強誘電体フェナジン-クロラニル酸/プロマニル酸の中性共晶については,中性子回折による構造解析を完成させ,水素原子核(プロトン)の精密な分布状態の解析を行った。その結果,この物質ではプロトンが酸から塩基に向けて変位するという構造変化に基づき強誘電性が発現していることを明らかにし,論文発表を行った。また,酸-塩基多成分型有機強誘電体の新材料の開発を本年も継続して取り組んだ。室温で強誘電性を示す新たな材料として,テトラピリジルピラジンとブロマニル酸との塩を見出した。この塩では,これまでの酸一塩基系で見られた一次元水素結合鎖ではなく,酸分子の二量体内のプロトン移動と塩基分子の分子内プロトン移動の二種類の動的過程を経て自発分極が誘起されているという新たな強誘電発現機構を明らかにした。本成果については論文投稿準備中である。特に本年度は,課題ゐ最終年度として,これまでの成果について,従来の有機強誘電体と比較総括することに重点を置き,その主な成果として,国内雑誌上の解説としてまとめたほか,Nature Materials誌のReview Articleとして投稿し,近日中の掲載が決定した。