著者
堀田 治
出版者
法政大学イノベーション・マネジメント研究センター
雑誌
法政大学イノベーション・マネジメント研究センター ワーキングペーパーシリーズ = Working paper series
巻号頁・発行日
vol.142, pp.1-21, 2013-05-20

本研究ではこれまで、アート消費の中でも極めて高関与なバレエ、オペラの観客を事例に、通常の高関与とは異質の「超高関与」の領域があるという仮定の下に、関与と知識の長期的な相互作用を示す枠組み「アートの消費者 関与-知識モデル」を提示し、検証をしてきた(堀田 2011; 2012)。本研究の目的と意義は次の2点である。第一に、アート分野での現象を足掛かりに認知、感情から関与、知識につながる流れをこの枠組みで捉え、超高関与のメカニズムを解明し関与概念を拡大する。「超高関与」の実体は、製品知識、情動や主観的経験、自己知識、手続き記憶、他分野の知識など様々な内部情報が結合された結果としての、頑健で永続的な「精緻化された関与」であることを捉え、諸概念を統一的に説明する。これにより、消費者の状態を示す媒介変数としての関与ではなく、知識、満足度、ロイヤルティを包含したマーケティング成果目標として関与を位置づけることが可能となり、新たなマーケティング戦略をもたらすものである。第二に、ポピュラリティが低く、構造的に「需要が限られた消費分野」であるアート市場において、潜在顧客のセグメントを行い、顧客層を拡大する要因を探り、新規顧客開拓の戦略を見据える。本稿では、関与概念を掘り下げる「超高関与になるメカニズム~感情・知識の精緻化」、新規顧客拡大を見据えての「アート消費者のセグメント~潜在顧客と拒否領域」の2つの概念モデルの提案を行う。
著者
堀田 治
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.101-123, 2017-06-30 (Released:2020-03-10)
参考文献数
87

本稿は,知れば知るほど面白い,あるいは高い集中をもたらすような消費活動を,知識と関与で捉える研究である。ここでは特に,趣味性の強い消費や「体験消費」に焦点を置き,対象に対して極めて高関与な状態を「超高関与」と位置づける。その上で,近年の関与概念で主流となっている,関与を「動機づけられた状態」とする立場を継承しつつ,関与を「認知構造」と「活性状態」に分離することによって「活性化していない状態も関与の形態のひとつ」とする視点を提案する。すなわち超高関与を支える知識や記憶を認知構造として捉え,超高関与の時の消費者による集中的な認知構造の形成によって,関与低下後もその分野の高度な認知枠組みとして機能すると考えた。本稿ではこうした認知構造をもちながら,現在活性化していない消費者を「低関与でありながら認知や行動が超高関与並に際立っている高知識の人」と捉え,「超高関与経験層」と呼ぶ。本稿は,前半をここ20年間の関与研究の現状把握,後半を直近の成果に基づく理論研究とした。