著者
外川 拓 磯田 友里子 鈴木 凌 恩藏 直人
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.27-38, 2023-01-10 (Released:2023-01-10)
参考文献数
33

人は,自身の名前に含まれた文字を,含まれていない文字に比べて好ましく評価する。この傾向はネームレター効果と呼ばれ,ブランド選択をはじめとする様々な意思決定にも影響を及ぼす。例えば,先行研究によると,Lで始まる名前の消費者(例えば,Lundy)は,他の文字で始まる名前の消費者(例えば,Thomas)に比べ,名前の頭文字が一致するLexusを購入する傾向がある。本研究では,ブランド・ネームが漢字で表記されている場合,ネームレター効果がどのように生じるのかについて検討した。先行研究によると,漢字は聴覚情報ではなく,視覚情報として処理される。この言語的性質を踏まえ,漢字のネームレター効果は,ブランド・ネームと顧客の姓における表記(vs. 読み)の一致によって生じると予測した。総合胃腸薬の購買データを分析した結果,表記と読みが太田胃散と一致する太田姓の消費者は,読みのみが一致する姓(例えば,大田姓や多田姓)の消費者や,読みも表記も一致しない姓の消費者に比べて,太田胃散を購入する確率が高かった。本研究の結果は,ブランド・ネームに関する重要な理論的,および実務的示唆を提供している。
著者
井上 淳子 上田 泰
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.18-28, 2023-06-30 (Released:2023-06-30)
参考文献数
42

本研究はアイドルを応援する(推す)ファンがアイドルに対して心理的所有感を持つことを主張し,その影響について論じるものである。具体的には,アイドルに対するファンの心理的所有感は,同じアイドルの他のファン(同担)に対する複雑な意識を生み出し,さらにその意識が当人のウェルビーイングと推し活動を継続させる原動力となることを理論的かつ実証的に明らかにする。550人のアイドルファンから収集したデータを分析した結果,アイドルに対する心理的所有感は心理的一体感と心理的責任感から構成され,心理的一体感が同担仲間意識に,心理的責任感が同担競争意識に影響を及ぼすことが実証された。また,ファンのウェルビーイングは2つの同担意識からともに正の影響を受ける一方で,現在のアイドルを推し続けたいという推し活継続性は,心理的一体感と同担仲間意識から正の影響を受けるものの,同担競争意識から負の影響を受けることが明らかになった。
著者
金 春姫
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.106-118, 2019-06-28 (Released:2019-06-28)

このケースでは,2013年に創業した名創優品産業に注目する。日本発ファストファッションデザインをコンセプトに,グローバル本社は東京銀座にあるとしながら,実質上は中国企業である。中国で空白だった格安雑貨ショップのビジネスモデルを作り上げ,最近は日本ブランドとして積極的に海外進出を進めている。本稿では,この中国発の日本ブランドが作られた経緯を整理する。
著者
鳥海 不二夫
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.19-32, 2021-03-31 (Released:2021-03-31)
参考文献数
17

ネット上で大きな話題が生じた場合,現実社会にも影響を与えることも多い。例えば正の側面として「バズり」があり,負の側面として「炎上」がある。現代社会においては,マーケティングを考える上でネット上の社会現象を無視することはできない。一方で,ネット上での大規模な拡散事象が実社会の現象を反映していないこともある。すなわち,ネット世論と実際の世論との間に隔離が存在していることがある。そのためネット上で生じた現象を正しく理解するために,データから全体像を把握し,ネット上の現象が何なのかを正確に把握することが望まれる。本論文では検察庁法改正案を巡るツイッターデモを対象として,データを用いたバースト現象の詳細分析を行った。その結果,2%のアカウントが50%の投稿を行っていたことが分かり,一部のユーザによって拡散が水増しされた事実はあるものの,多様な人々によって支持されており,単なるノイジーマイノリティ現象でもなかったことが明らかとなった。本論文で紹介した分析は,炎上やバズりといったバースト現象においても応用可能であり,マーケティング分野における口コミの効果を分析する上で有用であると考えられる。
著者
山本 晶
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.29-41, 2020-09-29 (Released:2020-09-29)
参考文献数
21
被引用文献数
3 3

フリマアプリなどの普及に伴い,一次流通の店頭でオンラインの二次流通市場の販売価格を調べてから購入する,二次流通市場での売却を念頭に置いて一次流通で購入する,といった新しい消費者の購買行動が広がりつつある。本研究では二次流通市場における売却価格や成約までの日数といった条件が,一次流通市場の購買にどのような影響を及ぼすか検討する。ジーンズとタブレットの二つの製品カテゴリに関する約1,600名の調査回答者に対してコンジョイント分析を行った結果,一次流通市場における選択においては一次流通価格や所有製品との適合の度合いが依然として重要ではあるものの,二次流通市場において価格が下落しないことは消費者の効用を高め, 当該商品が選択される可能性が高まることが明らかになった。また,フリマアプリの利用状況によって属性の部分効用値が異なり,フリマアプリの売り手は一次流通市場において価格感度が低く,二次流通市場における条件に相対的に強く反応することが明らかになった。本研究の結果は二次流通価格に占める一次流通価格の割合の上昇は,一次流通市場における支払意思額を押し上げる効果があることを示唆している。
著者
水野 学 小塚 崇彦
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.6-21, 2019-09-27 (Released:2019-09-27)
参考文献数
48

本稿の目的は,リード・ユーザーとメーカーの共創型製品開発について議論することである。ユーザーイノベーション理論の実務分野への応用は近年,ユーザー・コミュニティを活用した方法の研究が活発になっている一方,かつて主流であったリード・ユーザー法に関する研究はあまり進展が見られない。しかし高い革新性を持つ製品開発において,リード・ユーザー法はコミュニティ活用型よりも有効に機能する可能性がある。そこで本論文では,フィギュアスケートのトップクラスの選手による用具開発の事例を,リード・ユーザー論および情報の粘着性概念を手がかりに解釈することで,リード・ユーザーとメーカーによる共創型製品開発の意義と課題について明らかにする。
著者
本條 晴一郎
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.42-53, 2023-09-29 (Released:2023-09-29)
参考文献数
29

近年,ケアにまつわる議論が活発化しており,ケアを中心に社会のあり方を考えることが提言されている。ところが,成功するビジネスをケアの考えで構成できるか否かは問われていない。本研究では,ケアの考えで構成されたサービス,つまり,サービス・ウィズ・ケアがビジネスとして成立し成功し得るかを,「北欧,暮らしの道具店」を運営する株式会社クラシコムを対象とした探索的ケース・スタディによって調べた。ケースを特徴付けるファインディングとして(1)独自の文化資産の構築,(2)顧客からの雇用,(3)経営がアジャイルという3つを見出した上,これらがすべて正義の倫理ではなくケアの倫理によって説明されることを示した。このことにより,ケアの倫理に則ったサービス・ウィズ・ケアがビジネスとして成功し得ることを示しただけではなく,ケアを中心にしたビジネスのあり方を探求するための新たな研究課題を見出すことが可能になった。
著者
松井 剛
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.111-124, 2019-01-17 (Released:2019-01-17)
参考文献数
13

このケースでは,1974年から2015年まで東京の渋谷と原宿で営業した伝説的な雑貨店,文化屋雑貨店に注目する。雑貨とは,どこまでから雑貨であり,どこからが雑貨ではないかという範囲設定が分からない不思議な製品カテゴリーであるが,現在では雑貨店が日本各地で見られるようになった。この日本独自の製品カテゴリーを創造したのが,文化屋雑貨店店主・長谷川義太郎である。長谷川は「雑貨」という概念を通じて,消費者のみならず,ファッション・デザイナーや雑誌編集者など内外のクリエイターに対して,現在に至るまで多大なる影響力を与えてきた。このケースでは,本人によるオーラル・ヒストリーに基づいて,長谷川が文化屋雑貨店を通じて実現した市場創造について見る。
著者
水野 誠 佐野 幸恵 笹原 和俊
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.6-18, 2021-03-31 (Released:2021-03-31)
参考文献数
28
被引用文献数
2

パワーブランドのロイヤル顧客には,しばしば熱狂的なファンが含まれる。彼らがなぜ熱狂するのか,しかもなぜ熱狂が持続するのかを理解するため,われわれはファンの熱狂が典型的に現われるプロ野球に注目する。その際,集合行動としての熱狂に働く社会的相互作用について把握するには,ソーシャルメディアでのファンのコミュニケーションを分析するのが1つの有効な方法である。そこでわれわれはTwitterから2018年の日本のプロ野球に関するツイートを収集し,ファンの投稿頻度のみならずポジティブ/ネガティブな感情を測定し,試合の勝敗や優勝争いの展開でそれらがどのような影響を受けるかを分析する。また試合中にファンのツイートとリツイートが瞬間的に同期する現象をバーストとして分析を行う。これらの分析から,長期と短期の異なるタイムスケールで熱狂が変化している様子を把握し,ファンダムを形成し維持するための示唆を得る。
著者
石井 隆太 白石 秀壽 小野 晃典
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.83-93, 2020-09-29 (Released:2020-09-29)
参考文献数
10

アニメ等のコンテンツに登場するキャラクターを象ったフィギュアは,世界中のファンたちを魅了している。そんなフィギュアを生産するメーカーとして,国内有数のシェアを誇り,業界をリードしているのが,株式会社グッドスマイルカンパニーである。フィギュアの生産には,熟練工による手作業が必要不可欠であるため,フィギュアメーカーは,その生産工程の多くを,人件費の安い海外の委託工場に外注している。しかしながら,グッドスマイルカンパニーは,2014年,鳥取県倉吉市に楽月工場を建設し,全メーカーに先駆けて,一部の製品を,国内自社工場で生産することにした。このように,生産活動の内製と外注を同時に行う戦略は,デュアル・ソーシング戦略と呼ばれる。本論は,この戦略を採用することによって,同社が,フィギュアの品質向上・費用低下を実現するだけではなく,生産技術の立ち遅れを取り戻した上で,生産効率化の余地を探究し,取引条件に関する詳細な交渉を行うことにも成功しているということを示す。
著者
内田 和成
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.6-17, 2022-03-31 (Released:2022-03-31)
参考文献数
9

レッドブルが真似から生まれたり,Skypeより後発のZOOMがオンライン会議システムの勝者になったのを見れば分かるように斬新なアイデアを繰り出せばビジネスの成功者になれるわけではない。また宅急便やセコムの機械警備のように経営者のひらめきから生まれたビジネスは多い。つまり直感である。本稿ではビジネスモデル形成における直感(右脳)の役割と方法論を語っている。例えば現象から物事の本質を見抜いたり,ビジネスのヒントを見いだす方法である。一方でイノベーションにとって重要なことは作り上げたビジネスモデルを通じて顧客や社会の行動変容を起こすことであり,それが達成できないイノベーションは持続的なビジネスモデルとは言えない。
著者
吉田 満梨 二宮 麻里 三井 雄一 大田 康博
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.30-41, 2023-09-29 (Released:2023-09-29)
参考文献数
17
被引用文献数
1

先行研究では,起業家の機会認識や目的達成の動機が,起業の行動や成果に影響を与えることが指摘されてきた。一方で,起業家がスタートアップの起業,成長,株式上場(IPO)といった目的を,どのようなプロセスを経て形成するのかは,十分に議論されてこなかった重要な研究課題である。本研究では,2004年3月に福岡市で創業し,2022年6月に東証グロース市場への上場を果たした,株式会社ヌーラボの事例研究を通じて,この課題に答えることを目的としている。分析の結果,ヌーラボの起業,成長,上場という新たな目的が見出された3つのフェーズにおいて,自発的パートナーとのコラボレーションの結果として新たな目的が形成される一貫したパターンが確認された。最後に,理論的示唆と実践的示唆を議論する。
著者
鶴見 裕之 増田 純也 中山 厚穂
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.38-54, 2015-09-30 (Released:2020-05-12)
参考文献数
17
被引用文献数
1

本稿では,テレビ広告がTwitter上の書き込みを経由して商品の販売実績に与える間接効果の一般化を試みた。分析のベースとなる鶴見ら(2013)ではパス解析を用いて商品A(ビール系飲料)の販売実績,テレビ広告出稿量,ツイート数を分析し,テレビ広告がTwitter上の書き込みを経由して商品の販売実績に与える間接効果を確認している。この間接効果が一般性を持つとすれば,マーケター,リサーチャーはSNS上のテキスト・データ活用の重要性を今まで以上に強く認識すべきであると言えよう。実証分析では商品Aに加えて,商品B(紅茶ドリンク),商品C(緑茶ドリンク),商品D(ノンアルコール飲料)のデータに多母集団同時分析を適用し,間接効果の一般性を支持する分析結果を得た。また最後に,一連の分析を通じて見出すに至った,SNS上のテキスト・データ活用の限界とリスクについても考察した。
著者
松井 彩子
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.67-77, 2021-01-07 (Released:2021-01-07)
参考文献数
41

ソーシャル・ネットワーキング・サービス(以下,SNS)において,一時的に多くのユーザーが話題にしている状態はバズや炎上と呼ばれ,注目を集めている状態がさらに別の人の注目を集めるという,正のフィードバックが働く。この背景には,影響力の強い発信者だけではなく,情報拡散者(Information Diffuser)や仮想的な存在(MVP: Mere Virtual Presence)と呼ばれる大多数の他者の存在があり,彼らがSNS上で「いいね」による態度表明や「シェア」による情報伝達を行うことで,その他のユーザーの消費者行動に影響を及ぼすと考えられる。本論の目的は,社会的影響研究の視点から,大多数の他者,特にSNS上の大多数の他者が,他のユーザーに影響を及ぼす現象のメカニズムについて既存研究を整理し,研究課題を提示することにある。具体的には,社会的影響の定量的な議論を可能にした社会的インパクト理論を,SNSの文脈において援用することの意義を検討し,先行研究において他者の存在が及ぼす影響の実証結果が一致しない原因を考察する。
著者
太宰 潮 西原 彰宏 奥谷 孝司 鶴見 裕之
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.42-52, 2020-09-29 (Released:2020-09-29)
参考文献数
21
被引用文献数
1 1

小売業にオムニチャネルという言葉が登場して10年近くが経ち,その間小売業がインターネットやモバイルデバイス上のアプリなどを介してマーケティングを行うことは一般的なものとなった。しかし,デバイスや通信方法がいかに進化しようとも,自社が管理もしくはアプローチ可能なチャネルを介して顧客とやり取りをするという基本は変わらない。本論では,オムニチャネル環境下において,アプリ利用などのエンゲージメント行動の理解促進を目的とし,マルチチャネル研究の知見を応用することで,小売業の評価や既存の顧客指標との関連を探索した。その結果,ショールーミングなどの経験がオムニチャネル戦略を行う企業の評価を高めること,エンゲージメント行動はRFMなどの既存指標と強く相関をするが,売上増の要因となるのは来店頻度がより高まることにあること,複数のコミュニケーションチャネルを利用することで,来店に相乗効果が生まれることなどを示した。また自社保有チャネル外の分析例からは,小売業のアプリ利用の前後に,ポイント獲得が主目的と考えられる他社アプリを集中的に使うセグメントの存在などを示し,エンゲージメント行動を行う顧客の多角的な理解を進めた。
著者
岩嵜 博論
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.76-84, 2024-01-10 (Released:2024-01-10)
参考文献数
15

サステナビリティへの取組みの中で,資源を使用した後も循環させ再び資源として活用する循環型経済であるサーキュラーエコノミー(CE)に注目が集まっている。本論では,いち早くCEを前提としたビジネスとマーケティングを確立したパタゴニアのケーススタディを行う。本論では,サービスデザインの領域で発展し,近年ではマーケティング研究の中でも参照されているカスタマージャーニーを用いて,カスタマージャーニーの中でも特に購入後ステージにおけるメンテナンス・修理,リユース,リファービッシュ,リサイクルに注目して分析を行う。パタゴニアは,顧客とのダイレクト接点を活用したマーケティング変革を行うと同時に,購入後ステージにおける使用後の製品に関わる顧客体験をCEに適応する形でデザインしたことがわかった。
著者
曽山 哲人 栗木 契
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.33-46, 2018 (Released:2019-05-31)
参考文献数
18

本論文では,エフェクチュエーションを支える制度を,組織としていかに構築していくかを探索する。そのために本論文は,株式会社サイバーエージェントという社内スタートアップの創出に長けた企業が,その社内制度をどのような試行錯誤のなかから編み出してきたかを,同社の社内資料をもとに振り返る。その結果として見えてくるのは,サイバーエージェントでは,大量の提案を生み出す制度,より多くの社員のあいだに決断経験の機会を広げる制度,スタートアップの撤退ラインを明文化した制度,そして非金銭的報酬を重視した制度の充実が,その社内でのエフェクチュアルな行動をうながしているという関係である。
著者
石井 裕明
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.21-38, 2018-09-30 (Released:2018-12-14)
参考文献数
62
被引用文献数
2 3

店頭におけるパッケージのコミュニケーション効果には古くから期待が寄せられてきた。しかしながら,先行研究を概観すると,パッケージに掲載すべき情報量に関する議論はそれほど進められていないことが分かる。そこで本研究では,情報量の異なるパッケージへの消費者反応を検討した。その際,制御焦点による調整効果に注目し,消費者の個人特性や製品特徴によって生じる違いについても議論した。アイ・トラッキングによって視線を測定した実験1では,予防焦点の消費者においてパッケージに対する注視回数が多いことを確認した。実験2と実験3では,情報量の増加によって生起する情報過剰感が促進焦点の消費者において製品理解や製品評価に負の影響を及ぼすことを指摘した。実験4では,促進焦点に基づく訴求内容の広告にパッケージが掲載された場合,情報過剰感の高いパッケージへの評価が高認知欲求の消費者において低下することを示した。
著者
久保田 進彦
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.52-66, 2020-01-11 (Released:2020-01-11)
参考文献数
34
被引用文献数
3 7

社会のデジタル化が急速に進展しつつある現在,そこにおけるブランド戦略のあり方について大局的に検討することは,非常に重要な課題である。しかしそのためには,まずデジタル化によって消費環境がどのように変化するかを的確に認識しておく必要がある。こうした考えに基づき,本研究ではデジタル社会における消費環境について検討していく。具体的には,まずいくつかの研究をレビューしながら,デジタル社会における消費環境の動向について確認する。つづいてBardhi and Eckhardt(2017)によって提示された「リキッド消費」について説明する。そしてさらにリキッド化が社会に浸透している様子を,通時的データを用いて観察する。なお本研究における議論はKubota(2020)へと引き継がれたうえで,こうした消費環境の変化に対応したブランド戦略のあり方へと展開されていくことになる。
著者
竹内 亮介
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.43-55, 2020-06-30 (Released:2020-06-30)
参考文献数
22

パーソナライズ広告は,個人情報の収集と活用を伴うがゆえに,消費者のニーズに関連した情報を提供する可能性だけでなく,彼らのプライバシーを侵害してしまう可能性もある。パーソナライズ広告を視聴する消費者は,(1)関連性をプライバシー侵害の懸念より高く知覚したり,(2)前者より後者を高く知覚したり,(3)両者を同程度に知覚したりするであろう。これら3種類のパターンの内の特定の1種類で消費者がパーソナライズ広告を知覚するのはいかなる状況においてであるかを識別することが,本研究の目的である。研究1においては,促進焦点傾向の消費者が,利得が生じる点(/損失が生じない点)を訴求するパーソナライズ広告を視聴する場合に第一(/第三)のパターンが生じること,および,私的事実に関して予防焦点傾向の消費者が,パーソナライズ広告を視聴する場合に第二のパターンが生じることを示す。また,広告主やウェブサイトの信頼が高い状況に着目する研究2~研究3においては,製品の消費に関して予防焦点傾向の消費者が,利得が生じる点(/損失が生じない点)を訴求するパーソナライズ広告を視聴する場合に第三(/第一)のパターンが生じることを示す。