著者
中田 一之 間藤 卓 山口 充 福島 憲治 澤野 誠 堤 晴彦 矢島 敏行
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.31-36, 2009-01-15 (Released:2009-09-04)
参考文献数
12

症例は69歳の女性,既往にうつ病。自殺目的にて購入した観賞用トリカブトの根を煎じて服用したところ胸部苦悶が出現し救急隊を要請,服用から30分後に摂取したトリカブトを持参し当院へ搬送された。来院時,頻発する心室性期外収縮と血圧低下を認め,人工呼吸治療,胃洗浄,活性炭及び塩酸リドカイン投与を行った。一時的に循環動態は改善したが,その後房室伝導解離や脚ブロックなどの多彩な不整脈が出現したことから,原因物質である体内のアコニチン系アルカロイド(aconitine alkaloids; AA)の除去を目的として血液吸着法(direct hemo-perfusion; DHP)を合計2クール施行した。DHPの開始後まもなく,不整脈は消失し循環動態は改善した。経過中に血中及び尿中AA濃度を入院時, 2 度のDHPの後,入院翌日の計 4 回,アコニチン(AC),ヒパコニチン(HC),メサコニチン(MC)の 3 種類で測定を行った。その結果,血中ではAAは終始検出されず,したがってDHPのAA除去効果について検証を行うことはできなかった。なお,本例は野生種ではなく改良品種のトリカブトを摂取した比較的稀な症例である。トリカブトは種類や部位,さらには成育環境や採取時期など様々な要因により含有するAAの成分量に相違が生じることが知られている。摂取されたトリカブト根部についてAA成分含有量を測定した結果,MCはACの約9倍であり,患者の尿中濃度もMCが最も高値を示していた。したがって,一般的にトリカブト中毒ではAC中毒を連想されるが,本例はMCが中毒の主な原因物質と考えられた。以上より,トリカブトを摂取した症例では野生種,改良品種にかかわらずACのみでなく,MCの検出と測定が重要であると考えられる。