著者
久村 正樹 百瀬 ゆずこ 久野 慎一郎 福島 憲治 有馬 史人 今本 俊郎 大井 秀則 重松 咲智子 中村 元洋 淺野 祥孝 亀田 慎也 橋本 昌幸 安藤 陽児 園田 健一郎 輿水 健治
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.267-270, 2020-03-31 (Released:2020-03-31)
参考文献数
10

症例は44歳男性。救急搬送3カ月前より原因不明の右下腿全体の疼痛を自覚し, 整形外科, 脳神経外科で精査され, 線維筋痛症の診断で整形外科からプレガバリンの投薬治療が開始された。疼痛は改善せず, 程なく睡眠障害を自覚するようになった。救急搬送1週間前からは改善しない疼痛を悲観し, 希死念慮を訴えるようになった。X月Y日, 自宅で頸部と胸部を自ら刺し, 倒れているところを家族に発見され救急搬送された。病着時は心停止であり, 蘇生に反応せず死亡確認した。線維筋痛症は原因が不明の「身体疾患とも精神疾患とも言い切れない」疾患であり心身両面の治療が必要である。本症例は投薬治療のみがされていたが, 救急医療者が線維筋痛症などの慢性疼痛を正しく理解すること, また救急現場から慢性疼痛患者に標準治療を提供することは, 慢性疼痛治療を望ましい方向にするのみならず, 患者の救急医療受診を回避できる可能性があり重要であると考えられた。
著者
中田 一之 間藤 卓 山口 充 福島 憲治 澤野 誠 堤 晴彦 矢島 敏行
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.31-36, 2009-01-15 (Released:2009-09-04)
参考文献数
12

症例は69歳の女性,既往にうつ病。自殺目的にて購入した観賞用トリカブトの根を煎じて服用したところ胸部苦悶が出現し救急隊を要請,服用から30分後に摂取したトリカブトを持参し当院へ搬送された。来院時,頻発する心室性期外収縮と血圧低下を認め,人工呼吸治療,胃洗浄,活性炭及び塩酸リドカイン投与を行った。一時的に循環動態は改善したが,その後房室伝導解離や脚ブロックなどの多彩な不整脈が出現したことから,原因物質である体内のアコニチン系アルカロイド(aconitine alkaloids; AA)の除去を目的として血液吸着法(direct hemo-perfusion; DHP)を合計2クール施行した。DHPの開始後まもなく,不整脈は消失し循環動態は改善した。経過中に血中及び尿中AA濃度を入院時, 2 度のDHPの後,入院翌日の計 4 回,アコニチン(AC),ヒパコニチン(HC),メサコニチン(MC)の 3 種類で測定を行った。その結果,血中ではAAは終始検出されず,したがってDHPのAA除去効果について検証を行うことはできなかった。なお,本例は野生種ではなく改良品種のトリカブトを摂取した比較的稀な症例である。トリカブトは種類や部位,さらには成育環境や採取時期など様々な要因により含有するAAの成分量に相違が生じることが知られている。摂取されたトリカブト根部についてAA成分含有量を測定した結果,MCはACの約9倍であり,患者の尿中濃度もMCが最も高値を示していた。したがって,一般的にトリカブト中毒ではAC中毒を連想されるが,本例はMCが中毒の主な原因物質と考えられた。以上より,トリカブトを摂取した症例では野生種,改良品種にかかわらずACのみでなく,MCの検出と測定が重要であると考えられる。