著者
竹之内 信 上原 淳 笠井 博人 矢島 敏行 間藤 卓
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.12, pp.633-638, 2005-12-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
13

症例は26歳の女性。自殺目的で市販鎮咳薬1箱(マレイン酸クロルフェニラミン45mg,リン酸ジヒドロコデイン180mg,塩化リゾチーム180mg)を約70gのアルコールと共に服用した。服用から約6時間後に意識混濁し路上で倒れているところを発見されたが,約30秒間の強直性痙攣発作を認めたため当センター収容となった。意識は徐々に改善し翌朝までに意識清明となったが,それに伴って上肢および頸部のミオクローヌスが出現した。ミオクローヌスの持続時間は徐々に短くなったが,第5病日まで持続した。なお,来院時と第5病日に施行した頭部CT検査では明らかな異常所見を認めなかった。中枢神経症状に加えて,一般検査では血清クレアチンキナーゼ値と血清クレアチニン値の上昇を認めたほか,著明な全身掻痒感を伴うなど,多彩な中毒症状が認められたが,いずれも数日の経過で軽快した。来院時の血中薬物濃度分析ではマレイン酸クロルフェニラミン濃度が1,200ng/mlときわめて高値であり,文献的に報告されている致死濃度を上回るものであった。第一世代ヒスタミンH1受容体拮抗薬による中枢神経系副作用はよく知られているが,市販薬として入手が容易であり,本症例のようにアルコールと併用した場合には少量でも多彩な中毒症状を来すことがあるため改めて注意が必要である
著者
中田 一之 間藤 卓 山口 充 福島 憲治 澤野 誠 堤 晴彦 矢島 敏行
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.31-36, 2009-01-15 (Released:2009-09-04)
参考文献数
12

症例は69歳の女性,既往にうつ病。自殺目的にて購入した観賞用トリカブトの根を煎じて服用したところ胸部苦悶が出現し救急隊を要請,服用から30分後に摂取したトリカブトを持参し当院へ搬送された。来院時,頻発する心室性期外収縮と血圧低下を認め,人工呼吸治療,胃洗浄,活性炭及び塩酸リドカイン投与を行った。一時的に循環動態は改善したが,その後房室伝導解離や脚ブロックなどの多彩な不整脈が出現したことから,原因物質である体内のアコニチン系アルカロイド(aconitine alkaloids; AA)の除去を目的として血液吸着法(direct hemo-perfusion; DHP)を合計2クール施行した。DHPの開始後まもなく,不整脈は消失し循環動態は改善した。経過中に血中及び尿中AA濃度を入院時, 2 度のDHPの後,入院翌日の計 4 回,アコニチン(AC),ヒパコニチン(HC),メサコニチン(MC)の 3 種類で測定を行った。その結果,血中ではAAは終始検出されず,したがってDHPのAA除去効果について検証を行うことはできなかった。なお,本例は野生種ではなく改良品種のトリカブトを摂取した比較的稀な症例である。トリカブトは種類や部位,さらには成育環境や採取時期など様々な要因により含有するAAの成分量に相違が生じることが知られている。摂取されたトリカブト根部についてAA成分含有量を測定した結果,MCはACの約9倍であり,患者の尿中濃度もMCが最も高値を示していた。したがって,一般的にトリカブト中毒ではAC中毒を連想されるが,本例はMCが中毒の主な原因物質と考えられた。以上より,トリカブトを摂取した症例では野生種,改良品種にかかわらずACのみでなく,MCの検出と測定が重要であると考えられる。