著者
堤 真大 二村 昭元 秋田 恵一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.I-146_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに、目的】近年、股関節外側部痛の潜在的原因として中殿筋腱断裂が着目されているが、その腱成分の形態学的特徴に関する報告はあまりみられない。一般に、筋骨格系の障害は、付着幅が周囲よりも狭い、といったような一様でない構造、すなわち不均一な構造に起因することが示唆されている。中殿筋腱の断裂においても、腱内の不均一な構造が関与しているのではないかと考えられる。本研究の目的は、中殿筋停止腱の3次元的構造を明らかにすることである。【方法】本学解剖学実習体15体25側を使用し、肉眼解剖学的(21側)・組織学的(4側)手法を用いて解析した。全標本でマイクロCT (SMX-100CT、島津製作所)を用い、3次元立体構築像で大転子の骨形態を観察した。肉眼解剖学的解析を行った21側中10側では、中殿筋腱を大転子から切離した後、マイクロCTで再び撮像・3次元再構成し、厚みの分布をImageJを用いて解析した。組織学的解析ではMasson trichrome染色を行った。【結果】中殿筋腱は、筋束が起始する腸骨の面により後部・前外側部の2部より構成されており、大転子へ停止していた。後部は厚く、長い腱により構成され、扇形のように一か所へ集中する形態で、大転子の後上面の狭い領域に集束して停止していた。前外側部は薄く、短い腱により構成され、後下方へ走行し、大転子の外側面に停止していた。中殿筋腱の厚みの分布を解析すると、厚みのある領域が前外側部に比して後部で広がっていた。それぞれの領域の厚みの平均値は後部が1.7±0.4mm、前外側部が1.4±0.4mmであった。厚みの最大値は、後部が8.0±1.8mm、前外側部が5.3±1.2mmであった。また、後部と前外側部の間の領域に、周囲に比して薄い領域が観察された。組織学的解析では、後部・前外側部が共に線維軟骨を介して大転子へ停止している様子が観察された。【考察】中殿筋腱は、後部・前外側部の2部より構成され、それらは腸骨と大転子の面によって区別された。後部は前外側部に比して厚く、その間の領域は周囲に比して薄かった。以上より、中殿筋腱内には不均一な構造が存在すると考えれられた。中殿筋腱の断裂好発部位に関しては、様々な報告があるものの、後方に比して前方に断裂が多いという点では一致している。これらは、本研究における前外側部に相当すると考えられる。後下方へ一様に走行する前外側部は、一カ所へ集束する後部に比して様々な方向からの応力には弱い可能性がある。また、厚みという点からも、前外側部の方が後部より脆弱である可能性がある。さらに、後部と前外側部の間の領域が薄いため、断裂が前外側部の範囲を超えて後部に至ることは稀であると思われるのも断裂が前外側に多い理由の一つと想定される。以上の形態学的特徴から、前外側部が中殿筋腱断裂と密接に関与する可能性が示唆される。【結論】中殿筋腱内には不均一な構造が存在し、それらは中殿筋腱断裂に関与する可能性が示唆された。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は、本学の倫理審査委員会の承認を得た(M2018-044)。また、「ヘルシンキ宣言」および「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」を遵守し、日本解剖学会が定めた「解剖体を用いた研究についての考え方と実施に関するガイドライン」に従い、実施した。