- 著者
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高島 葉子
塚本 康子
中島 通子
- 出版者
- 一般社団法人 日本助産学会
- 雑誌
- 日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
- 巻号頁・発行日
- vol.28, no.1, pp.26-38, 2014 (Released:2014-12-25)
- 参考文献数
- 21
目 的 本研究の目的は,助産事故により深刻な状況になりながらも助産師に対して信頼感を維持している女性の体験の語りから,どのような「分岐」や思いが存在したのか記述し,看護への示唆を得ることである。対象・方法 助産事故後も助産師と信頼関係を維持できていると認識している女性2名を対象としたライフストーリー研究である。データ収集は,助産所出産を希望した経過とともにどのような助産事故があり,その時の思いや考えを過去から現在に進むかたちで自由に語ってもらった。結 果 A氏は子どもに生命危機が生じた時,怖れと後遺症への不安につきまとわれ,混乱の中で周囲の言動から助産事故と認識し,助産師との向き合い方を探った。 しかし,自分が助産院を選択した責任と後悔で助産師だけを責めることはできなかった。そして,事故でのかかわりを通して助産師との関係が再構築される過程で,被害者・加害者という関係の終結と助産院再開を切望し,けじめとしての補償を求めた。A氏は助産事故により生命や健康の大切さを再確認するとともに,新しい生き方を見出していた。 B氏は助産師の態度から胎児が生きている可能性が少ないのではないかと察し,衝撃を受けつつ,同じ医療従事者として助産師を慮っていた。そして,決して逃げない姿勢の助産師を信頼しながら死産を委ねた。グリーフケアで子どもと十分なお別れができたことや,助産師との対話の積み重ねの中で,誰も責められないと心から思うことができた。喪失を乗り越え,新しい生命観と家族を得ていた。結 論 助産事故後も助産師との関係性を維持している女性は,一時的に助産師への信頼感は揺らぐものの,事故発生までに培われた関係性を基盤に誠意を尽くされたと感じることを契機として関係性を維持していた。看護者は,有害事象が発生した場合,信頼関係が崩壊し紛争へと「分岐」するプロセスを認識し,長期的で継続的な視野に立ったケアの提供に努めることが肝要である。