著者
斉藤 昇 島田 清司 塚田 光
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

鳥類の水分代謝機構の基礎的な解明と軟便などの家禽産業での問題点に対する解決策への応用として本研究を始めた。初めに、鳥類の抗利尿ホルモンであるアルギニンバソトシン(AVT)の遺伝子発現の機構を明らかにするために、急速な塩水投与を行い転写因子等の遺伝子発現等を解析した。その結果、AVT mRNAレベルは塩水投与後3時間に意な増加を示した。他に、c-fos mRNAレベルなども3時間後に増加した。それに対し、転写因子TonEBP mRNAレベルは、塩水投与後1時間に有意な増加を示した。この結果をもとに、TonEBPのアンチセンスを作成し、塩水投与前に前処理として脳室内に投与したところ、視床下部AVTの遺伝子発現は増加しなかった。しかし、c-fosの遺伝子発現には影響しなかった。この結果から、TonEBPがAVTの遺伝子発現調節に重要な転写調節因子であることが明らかになった。また、このようなAVT等の遺伝子発現機構が、塩水投与によりブロイラーでは影響が見られなかった。しがたって、ブロイラーで軟便が生じ易い理由が、AVTの遺伝子発現と関係がある可能性が示唆された。次に、腎臓における水の再吸収機構を解明するために、アクアポリンの遺伝子発現を調べた。AQP1、AQP2、AQP3、AQP4、AQP7、AQP9の6つのタイプで腎臓における発現が観察された。さらに、塩水投与により血中浸透圧が上昇した時における遺伝子発現の変化を調べたところ、AQP1、AQP2、AQP3のタイプのみが上昇し、他のタイプは、変化が見られないか減少した。したがって、ニワトリの腎臓における水の再吸収には、AQP1、AQP2、AQP3が主に関与していることが明らかになった。